佐久間 一行 Sakuma Kazuyuki

1977年生まれ。茨城県出身。NSC東京校2期生。R-1ぐらんぷり2011 チャンピオン。趣味は釣りと飼育(ザリガニ、タナゴ)。2022年8月26日に単独ライブ「佐久間一行SHOW2022『space』」を開催。

今回訪れたのは… 『ルミネ the よしもと』 [ 新宿 ]

新宿駅直結、アクセス抜群の『ルミネ the よしもと』。テレビで見ない日はない人気者たちが当たり前のように出演者として名を連ねる。ロビーにある売店には芸人グッズがズラリ。時間を忘れて見入ってしまいそう。

「僕はあんまり楽屋にいないタイプなんですよ」

佐久間 散歩はめちゃくちゃします。運動しないんで、なるべく歩いてます。

―― 劇場の周りを歩いたり?

佐久間 余裕があるときは、そうするようにしています。僕はあんまり楽屋にいないタイプなんですよ。みんなでわーっていうのがなんか苦手で。出番が終わると散歩がてら喫茶店に行きます。みんなに「いつもどこ行ってんの?」って言われるんですけど。

―― もし差し支えなければですが、どの喫茶店に……?

佐久間 『らんぶる』です。地下に入っていく、要塞みたいな喫茶店。

―― 『らんぶる』、タイムスリップ気分を味わえますね!

佐久間 そうなんです。『タイムス』や『珈琲西武』にも行ってたんですけど、近いと誰かに会っちゃうんですよね〜。それが気まずくて、どんどん遠くなった結果今は新宿三丁目駅の方まで(笑)。

―― 純喫茶がお好きなんですか?

佐久間 はい。お客さんの層も落ち着いている方が多いので、考え事をするのにめちゃくちゃいいんですよね。ライブ前に気持ちを整えるのにも。

東京の芸人にとって憧れの劇場

「ルミネのいいとこ、伝われ〜!」。
「ルミネのいいとこ、伝われ〜!」。

―― 佐久間さんが最初にルミネの舞台に立たれたのは……

佐久間 何年前だろう、でもオープンしてすぐだったと思います。ルミネができたのが2001年だから、約20年前ですね。当時「5じ6じ」っていう若手中心の公演と、「7じ9じ」っていう先輩方が出る公演があって、後者の方に出た記憶があります。

―― すごい!

佐久間 ありがたいことに僕は両方出られるところに配置されていまして。その当時、NHKの爆笑オンエアバトルに出ていたからかもしれません。

―― 「7じ9じ」にはどんな方が出ていらっしゃったんですか。

佐久間 それこそ極楽とんぼさん、ロンブーさん、雨上がり決死隊さん、ココリコさん……そのクラスの人たちと一緒に劇場に出るのは初めてのことで。デビューは『銀座7丁目劇場』だったんですけど、当時の「7丁目劇場」にはそれらの先輩はほとんど出てなかったんです。あ〜皆さんを生で見られる!って、もうドキドキでしたね。

―― 『銀座7丁目劇場』で芸人人生をスタートされたんですね。

佐久間 そうなんです。1999年に「7丁目劇場」が閉館して、ルミネができるまでは東京に専門の劇場がなかった。吉本がどこかの劇場を借りて、そこで公演してました。だから、月に出番が2、3回だったと思うんですけど、ルミネができてからは「毎日公演します」ってなって。

―― 東京の芸人さんにとっては待望の劇場だったのですね……。

佐久間 待望でしたし今でも特別な劇場です。ハードルが高いですし、相当頑張んなきゃ出られないんだなっていう。

一番信頼できる“ホーム”

―― コントをやろうと思ったのはなぜですか。

佐久間 僕、茨城出身なんですけど、テレビを見るより川へ行って釣りしたり、森行ってカブトムシ採るとかそっちのほうが多かったんです。“ごっつええ感じ”も“ガキの使い”も見たいけどその時間にはもう寝ちゃうんですよ。東京に来て初めて漫才を知ったくらいで。

―― そうだったんですね。

佐久間 最初は芸人特有の「恥ずかしいことも何でも話す」みたいなしきたりにもショックを受けてました。そっとしておいてあげればいいのに……とか。それで、コントなら全部作りものだし、作り物の中で「おまえ、〇〇だろ」って言われても、台本だからと納得できるんじゃないかと思ってコントをやり始めました。

―― そうして2002年から毎年単独ライブを開催……新ネタを作り続けるモチベーションは何なのでしょうか。

佐久間 いや、やっぱり楽しみに待ってくれている人がいるっていうのが一番強いですね。自分はT-BOLANがすごい好きなんですよ。

―― ロックバンドの!

佐久間 はい。T-BOLANがアルバムだしたらうれしいし、コンサートやったらうれしいし。だから自分も新しいネタやったらお客さんはうれしいだろうと。自分を応援してくれている人がそれだけいるのであれば、それがエネルギーですね。逆に、好きなアーティストが「今日はなんかふわってやってたな」とかだったら嫌になっちゃいますよね。1カ月に20ステージやったとして、僕にとってはそのうちの1回だけど、お客さんにとっては初めての一回かもしれないわけで。そういうことは常に考えてます。

「この劇場があるから踏ん張れているのかも」

エレベーターを降りると、すぐ目に飛び込むチケットカウンター。
エレベーターを降りると、すぐ目に飛び込むチケットカウンター。

―― 舞台でしっかりお仕事しつつ、“くせスゴ”での日谷ヒロノリで何度目かのブレイクも果たされています。

佐久間 いや、ありがたいです。でも、日谷ヒロノリもそれこそルミネでやっている単独ライブから生まれたものなんです。結局ずっと作っているものに自分が助けられているというか。

―― アイデアはどういうところから生まれるのでしょうか。

佐久間 それこそ散歩したり、テレビ見たり、面白いなと思ったらメモっておいて、それを膨らませる感じです。思いつかない時ももちろんあって、以前はそこでさらに粘ってたんですけど、最近は思い切って休むようにしてます(笑)。

―― それは大事ですね……。

佐久間 不思議なことに休むと急に浮かぶこともあるんですよ。ちょっと離れてみると、気づくことってありますよね。

―― なるほど。

佐久間 それこそR-1で優勝した井戸のネタもそうでした。単独ライブ用に作ったネタなんですけど、自分ではふざけすぎているから賞レースには向いていないと思ってたんです。でも井戸のネタやると、お客さんたちにもすごくウケるし、舞台袖に他の芸人さんもたくさん集まってくる。先輩たちも「これで挑戦した方がいい」と言ってくれる。それまでR-1とは相性が悪くて、どんだけ受けても2回戦で落とされてたんですよ。結局、井戸のネタで優勝することができたので、気づいてよかったです。

―― 劇場が教えてくれたんですね。

佐久間 本当にそうですね。たとえR-1の2回戦で落ちても、レギュラー番組が終わっても、ルミネの夏の単独は毎年完売してる、そう思ったら、一番信頼できるところは、僕のお笑いを見たいと思ってくれるお客さんがいるここだなって。ホームだなって。
この劇場があるからずーっと踏ん張れているのかもしれないです。

『ルミネ the よしもと』詳細

住所:東京都新宿区新宿3-38-2 ルミネ新宿店2 7F/営業時間:11:00~19:00(最終公演により異なる)/定休日:無/アクセス:JR新宿駅南口直結

取材・文=西澤千央 撮影=三浦孝明
『散歩の達人』2022年8月号より