コンセプトは“近海の旬の魚と海鮮にこだわったラーメン”。ラーメン女子にこそ食べて欲しい渾身の一杯

秋葉原のラーメン店はいったいどこで途切れるのか。無限にあるラーメン店の海に人知れず乗り込んできたのは、2019年にオープンした『JAPANESE FISH NOODLE ウミのチカラ』だ。

店長の木戸理恵さん。多忙な日々でも「楽しく仕事をするのがモットーです」という。
店長の木戸理恵さん。多忙な日々でも「楽しく仕事をするのがモットーです」という。

「コンセプトは“近海の旬の魚と海鮮にこだわったラーメン”です。秋葉原に貝の出汁を使うラーメン店はありますが、魚をメインにしているところは少ないかなと思って勝負しにきました(笑)」というのは店長の木戸理恵さん。

オープンした頃、木戸さんはアルバイトとして働いていたが、現在は店長として1人で店を切り盛りする。ランチ時は行列ができることもあり、気持ちは焦るがひとつずつ確実に仕事をすることが信条だ。

「お待たせして申し訳ないなと思うんですけど、“焦らず確実に”と自分に言い聞かせてます(笑)。仕込みもひとりでやるので、スープを取る日は始発電車で店に来なければならないし、いつもやることが山積みですが楽しみながら仕事してますよ」。

格調の高い和食店に見られがちなので、店頭にラーメンののぼりやメニューボードを出しているそう。
格調の高い和食店に見られがちなので、店頭にラーメンののぼりやメニューボードを出しているそう。

秋葉原は特にラーメン好きな男性が多いが、女性をもっと呼び込みたいというのが今の木戸さんの目標だ。店頭にのぼりを立てたり、油少なめのラーメンやおしゃれなパッケージの地ビールやおつまみを提供したり、清掃にも気をつけている。「まだまだ模索中です……」と苦笑する木戸さんだが、努力の甲斐あってポツポツとラーメン女子がやって来るようになったとか。

「先日、キレイな女性が1人でうちに来て、カッコよく丼を傾けながらスープまで残さず食べてくれたのが本当にうれしくて! 私が丹精込めて作ったスープが、ちゃんとお嫁に行けてよかったなあって(笑)」と、木戸さんが今日1番の笑顔でそう語った。

全12席のカウンターはお昼になると慌ただしくなるが、まったりタイムはオープンキッチンで会話が弾む。
全12席のカウンターはお昼になると慌ただしくなるが、まったりタイムはオープンキッチンで会話が弾む。

しっかり者で努力家の木戸さんはきっと頼りがいがあると思われるのだろう。カウンターを囲んで常連たちと世間話をしたり、身の上相談を聞くこともあるそう。「ひとりでなんでもやらなきゃいけないので大変なこともあるけど、温かいお客様との会話や『おいしいかったよ』と言われることがうれしいですね」と語る。

旨味や香り、塩気まで。まるで“飲む真鯛の塩焼き”のような淡麗 特選真鯛そば

この店のラーメンは真鯛のスープか海老の白湯スープ、三種の貝出汁がベース。真鯛も海老も貝も好きだから眼球が乾くくらい写真を見比べた末に、淡麗 特選真鯛そば1150円に決めた。

雑炊セットにするのも良いかと思ったが、近海で獲れた旬の魚を使ったこの店自慢の漬け丼350円をチョイス。日替わりの漬け丼、今日のネタはカツオらしい。やったね! 脳内で『おさかな天国』をループしながら厨房を覗き込む。よ〜し、さかな、さかな〜!

真鯛の身からとった脂を使用し、旨味とコクをプラス。
真鯛の身からとった脂を使用し、旨味とコクをプラス。

スープに使用するのは愛媛産の真鯛のアラと塩のみ。「アラに塩を振ったあと熱湯をかけて臭みをとり、水で煮込んだだけ。そこに真鯛から取った油とドイツ産の岩塩などを入れたシンプルなスープですよ」と木戸さんは当たり前の顔をして言うが、なんと深みのあるスープだろうか。

淡白だが上品な真鯛の身の味わい、身や皮の間にある香りや旨味、こんがり焼けたときのこうばしさまでスープに溶け込んでいる。まるで真鯛の塩焼きをそのまま飲んでいるかのようだ! 加水率高めで喉越しのいいストレート麺がスープをよく持ち上げる。

焼いた真鯛を手ほぐしした身をトッピング。骨や血合いは取り除いてある。
焼いた真鯛を手ほぐしした身をトッピング。骨や血合いは取り除いてある。

「私もよく“このスープは飲む真鯛の塩焼きだ ”って言ってるんですよ。こうばしさを感じるのは、きっと真鯛のほぐし身からですね。毎日、生の真鯛が3枚におろされた状態で届くのですが、あらはスープの出汁に、身は焼いて手でほぐしたあとバーナーで軽くあぶったものをトッピングします」と木戸さん。液体なのにスープの味が立体的に感じるのはそのせいか。

網目のついたれんげでほぐし身を最後まですくって食べられる。
網目のついたれんげでほぐし身を最後まですくって食べられる。

ほぐし身はスープを含んでふわふわになり、噛むほどにじわ〜っと旨味が出てくる。ほらね。もともと一体だったんだから合うに決まってるじゃん! そんな真鯛のなかよしコミュニティにぐいぐい入り込んできているのが、味玉とチャーシューだ。頼むからケンカしないでよ〜⁉︎ おそるおそる口へ運ぶと、これまた美味。

味玉はクリーミーな半熟で白身よりも黄身にカツオ出汁がしっかり染み込んでいる。また、豚肩ロースのチャーシューは脂が少なめだが低温調理でしっとり仕上げていて肉々しい。しゃきしゃきの小松菜や2種のネギ、ゆずも食感や香りで加勢する。ほほう、いい仕事してますなぁ。

真鯛の風味が中心だが、ほかのトッピングの個性も際立っていて最後まで飽きない。見切れている丼の詳細はこのあとスグ!
真鯛の風味が中心だが、ほかのトッピングの個性も際立っていて最後まで飽きない。見切れている丼の詳細はこのあとスグ!

サイドメニューと侮るなかれ! ピッチピチの海鮮丼

この店の特徴といえば、サイドメニューの丼だ。新鮮な旬の魚介類を中心に、チャーシューなど肉類もある。「漬け丼は日替わりです。そのほか定番の明太子ごはんや釜揚げしらす丼、魚介類以外にも焼きしゃぶ丼のような肉の丼メニューもありますよ」と木戸さん。

日替わりの丼メニューはこのなかから登場。何が出てくるか毎日のお楽しみ〜!
日替わりの丼メニューはこのなかから登場。何が出てくるか毎日のお楽しみ〜!

何が登場するかは木戸さんですら直前にならないとわからないという。取材したのが7月というのもあり鰹の漬け丼350円をいただいた。

カツオの切り身をごまの風味が香る醤油ベースのつけだれに漬ける。
カツオの切り身をごまの風味が香る醤油ベースのつけだれに漬ける。

木戸さんは、「魚は毎朝届きます。新鮮な魚ですからね〜、ちょっと漬けるだけでめっちゃくちゃおいしいんですよ。ご飯の上にたっぷり乗せるので満足感もあると思いますよ」という。

漬け具合もほどよく、プリンとしながらも適度に脂が乗ったカツオがおいしい。このレベルの丼が350円で食べられるのはかなりお得かも。筆者はカツオの刺身が好物なので今日は超ラッキーだ。

本日の漬丼。この日はほどよく脂が乗ったカツオだ。
本日の漬丼。この日はほどよく脂が乗ったカツオだ。

すると木戸さんからこんなお得情報が! 「正月の営業初日とか毎年店のオープン記念日の9月14日とかは本マグロ丼を350円で出しちゃいます」。ええ〜っ! 来なきゃ、絶対来なきゃ〜。

日替わりの丼はファンも多く、主力のラーメンは一切食べずに丼だけ食べに来る常連もいるらしい。「来るたびに丼を3つ召し上がる方がいらっしゃいます。店としてはありがたいことですよ。そりゃあ一度くらいラーメンを食べて欲しいですけど」と笑う木戸さんだ。

今日の口は魚だな、と思ったら『JAPANESE FISH NOODLE ウミのチカラ』でラーメン&丼で攻めるべし。そのときは海の神様、どうか日替わり丼が好みの魚でありますように。

住所:東京都台東区台東1-32-6/営業時間:11:00〜15:00・17:00〜23:00(月末の土は11:00〜15:00)/定休日:日(連休の場合は最終日)/アクセス:地下鉄銀座線末広町駅から徒歩6分、JR・地下鉄・つくばエクスプレス秋葉原駅から徒歩8分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢