俺のカレーはうまいか?
サークル引退後、溜まり場に顔を出すのが恥ずかしかった私は下の世代とあまり交流がなかったが、彼らはいつも本田という後輩の家に溜まっては朝から晩までポーカーや麻雀、テレビゲームなどに興じ、音楽を追及するわけでもなく、ただただ怠惰な生活を送って留年した末、大学を中退するというどうしようもない状態に陥っていた。私は彼らを「やべえ奴らだな」と遠目に見つつも、よくある大学生の退廃では片づけられない堕落っぷりに畏敬の念を抱いていた。それが今ではサークルの出世頭、私からすると巨万の富を持つ男だ。
年がら年中出入り自由の掃き溜めの家主であった本田は、大学中退後ラジオの放送作家をしていたが、数年前に脱サラし矢崎たちと「おませちゃんブラザーズ」なるYouTuberグループを始めた。大した貯金もない中でYouTuberなどいかにも現代の愚行に見えたが、今やチャンネル登録者数6万人を超えそれなりの収入を得ているのだから、彼らの逞たくましさはすごい。
最近、その本田に呼ばれ、彼らの配信にゲスト参加した。作業場兼共同生活スペースとなっている中野の一軒家を訪ね、動画を2本撮影。その後も居続けダラダラと喋っていたら終電を逃し、彼らも私に構っていられず自分たちの作業に集中し始めたので、立つ瀬のなさを紛らわそうと夜食にスパイスカレーを調理して振る舞った。
自分の料理を人に食べさせる時はいつも緊張する。別においしいと言ってくれるかどうかが気になるのではなく、おいしいと言わなくてはいけない圧迫感を自分が出してはいないだろうかと気を揉む。
実際、彼らはおいしいと言って食べてくれたし、自分も食べてそれなりにおいしかったが、仮にまずくとも後輩たちはおいしいと言う他なかったであろう。その後、私も持参したパソコンで原稿を形式的に少し打ち込んで就寝。翌朝、家を出た足でなんとなくパチンコ店に入った。
大人になっても友達と楽しそうに暮らしている彼らだったが、家の中にはそれぞれの立派な専用デスクがあり、一度作業に入ればパソコンを前に何やら仕事人のような顔になっていた。他人が働いているところを見ると自分だけが不真面目に生きている気がして後ろめたさを感じる。でも私だって、真剣な顔で作業をしている時があるはずだ、と自分を励ました。私も最近は友人とYouTubeチャンネルをやっているが、今のところは数カ月に一度、気が乗ったタイミングで動画を上げているだけ。あわよくば何かの拍子にバズってお金が入ってこないかななどと考えたりもするが、彼らくらい必死にやらないと生計を立てられるほどのお金は得られないだろう。一日一緒に過ごした限り、後輩たちの青春は今でも続いているように見えて少し羨ましかった。しかし今の彼らはビジネスパートナーであって、昔のようにただ気楽に遊んでいるわけではない。自分だって現在とは全く違う生活になり、いま大事に思っているものから遠ざかってしまうかもしれない。それでも行く先々にきっとまた何か楽しいことがあるのではないか。パチンコを打ちながら、いつになくそんな気分になった。
文=吉田靖直 撮影=鈴木愛子