修業先『たんたん亭』を継承した人気のワンタンメン

目黒通りと山手通りが交差する大鳥神社から徒歩2分ほど南に歩いた場所にある『支那ソバ かづ屋』。店主の數家豊(かずいえゆたか)さんは、京王井の頭線浜田山駅近くにある名店『たんたん亭』で5年修業した後に独立した。以来、ワンタンメンがおいしいお店として知られている。

「修行した『たんたん亭』はワンタンメンが売りだから、それを継承しただけですよ。特に初めての方は少し高くても支那そばよりワンタンメンを食べてくださる。ありがたい話ですよね」と數家さん。

そのワンタンメンには大きなワンタンが6つ入りだ。よく練られた豚ひき肉がたっぷり詰まっていて、つるっとした皮も特徴。『かづ屋』は麺も、ワンタンの皮も、サイドメニューとして人気の餃子の皮も自家製だ。

オープンから12年目で加水率の高い自家製麺に

店主の數家豊さん。このとき作っていたのは餃子の皮。
店主の數家豊さん。このとき作っていたのは餃子の皮。

製麺機は店の奥にある小部屋に置かれている。自家製麺に踏み切ったのは、オープンしてから12年ほどたった頃のこと。

その頃は自家製麺の店は多くなかった。數家さん自身も製麺経験はなかったが、自分で選んだ小麦粉を使って、好みの麺を作り、いちばんおいしい状態でお客さんに出したいと自家製麺に踏み切った。納得のいく麺ができるまでの試行錯誤にはかなりの時間を要したという。「よくお客さんがついてきてくださいました」と当時を振り返る。

『かづ屋』では生地を練って伸ばしたものを筒状に巻きつけた麺体と呼ばれる状態でひと晩寝かせて、翌朝切って使うようにしている。製麺業者から輸送される間に麺から水分が蒸発してしまうといったことを避けられる。寝かせることで水分と粉が一層なじんでコシのある麺に仕上がるのだ。

ワンタンメン1170円。麺は中細。滑らかな麺は噛むとコシを感じる歯応え。
ワンタンメン1170円。麺は中細。滑らかな麺は噛むとコシを感じる歯応え。

「製麺屋さんの方が技術はあると思いますが、自家製麺だからできることもあるんです」と數家さんは求める麺を実現してきた。

ワンタンの皮ももっちり。
ワンタンの皮ももっちり。

ワンタンと餃子の皮も同じ製麺機を使って作っている。実は『かづ屋』にある製麺機はワンタンを作ることは想定外だったとのこと。さらに餃子の皮は比較的最近手伸ばしから製麺機を使って作るようになった。どちらも麺よりさらに加水率が高い。餃子の皮に至っては50パーセントと、もちもちの皮を実現させている。そして、中華麺に欠かせないかん水は少なめ。

澄んだスープは、様々な出汁を合わせた複雑さのある味わい。
澄んだスープは、様々な出汁を合わせた複雑さのある味わい。

スープは、鶏ガラと豚のゲンコツに、香味野菜などを加えて8時間ほど弱火で煮込んだものをベースに、煮干し、鯖節や鰹節などを使用。鶏ガラと豚のスープは長時間煮込む必要があるため、その日の分を1度に作る一方で魚介系の出汁は小分けにして何度も作る。その理由は、魚介系は短時間で出汁が取れるが、鮮度が味を左右するからと數家さん。

様々な素材が使われているスープは、複雑さがあるがスッキリした味わいに仕上がっている。麺のもちもちとした歯応えとツルっとした喉越し。數家さんが自家製麺で目指しているという「弾力のあるコシ」という言葉にも納得する。

ファミリーも歓迎!お客さんもスタッフも長い付き合いを

近年『かづ屋』には小さい子どもを連れた家族が来店することが多くなったという。都内のラーメン店としては店が広い。通路に余裕があるので、ベビーカーでも入れると口コミが広がったようだ。家族連れが多くなったため、子供用の椅子も準備した。

「お父さんが大盛を頼んで、お子さんに分けて食べてもらっても大丈夫です。お客さんとは長いスパンで付き合いをしたいし、お子さんたちにとって原点のラーメンとして、大きくなっても食べに来てくれたらうれしいです」と數家さん。

働くスタッフに対する想いも共通のようだ。30年余りある店の歴史では、『かづ屋』で経験を積んだ元スタッフが、独立してラーメン店を開いたという例は多い。卒業生の店には人気店も複数ある。

「元スタッフのお店が繁盛店になってくれるのは、親孝行。自分が『たんたん亭』で修行させてもらったのと同じように5年は勉強した方がいいよと話しています」

駅からは少し歩く場所にあるが、休憩時間がないこともあって、近隣の飲食店で働く人からも重宝されている。有名店ながら、隅々まで配慮したおいしさとほっとする雰囲気が両立する『かづ屋』。ラーメンをますます好きになれる店だ。

住所:東京都目黒区下目黒3-2-4/営業時間:11:00~21:00/定休日:火/アクセス:JR・私鉄・地下鉄目黒駅から徒歩12分
東急目黒線不動前駅から徒歩8分

取材・撮影・文=野崎さおり