歴史ある佇まいの「大吉市場」
京王線代田橋駅から徒歩4分。駅前の小さな店が立ち並ぶ古い商店街を抜け、甲州街道を歩道橋で渡り、道なりに少し歩いて一本入れば、「日本のガウディ」と呼ばれる建築家・梵寿綱のラポルタ和泉がそびえ立つ。
かなり存在感のあるこの建物に目を奪われがちだが、振り向くと、なんとも歴史を感じる建物がある。外壁にとりつけられた「大吉市場」という大きな看板の文字もまた心をくすぐる。この1階にあるのが『キモノ葉月』だ。
闇市撤去と開発の末に
昭和26年(1951)竣工、71年の歴史を持つ大吉市場の建物。もともと戦後の闇市があったが、取り壊しになり、大家さんや中に入る有志の人たちがお金を出しあったことにより作られたのが大吉市場。このあたりには他にも4、5箇所、同じような市場があったという。
ちなみに角にある酒屋さんは、甲州街道が開発される際に、建物ごと10mほど今の位置に移動したという。近くには代田橋という橋もあったが、同時になくなってしまい、駅名として残った。
着物屋として始動
そんな歴史のある建物にある『キモノ葉月』は2015年オープン。2022年7月7日で7周年を迎える(ラッキーセブン!)。元々着物屋さんを開くのが夢だったオーナーが、かつて近所に住んでいて、この大吉市場にあった八百屋さんを利用していたことで、この建物の存在を知っていた。
ある時、市場内の靴屋さんが閉店することを知り、当時は別の仕事をしていたオーナーが、この機会に念願の着物屋をオープンすることを決意。友人たちの力を借り、全て自分たちの手でリノベーションした。建物が古いので、それなりに苦労はあったが、みんなでワイワイと行う手作りのお店づくりは楽しかったという。
オープンして3年ほど経った頃、隣の整体院が閉まることになり、その部分も借りてお店を拡張し、現在の広さになる。訪れるとわかるが、中はかなりスペースがあり、これもまた圧倒される。
魅力的な調度品の数々
こだわりは昔の雰囲気をそのまま残していること。塗装や看板などもそのままに、あえて手をいれてない部分も多い。また戦前のアンティーク着物を扱うため、古い調度品やアンティーク家具などで統一している。
知り合いの洋食屋さんからもらった19世紀初頭の馬車の車輪で作ったシャンデリアをはじめ、数々のレトロな家具、またあまり見ることのないレバノンの椅子などもあり、着物だけではなく店内を見ているだけでも楽しい。天井にはまっくろくろすけもいるので、是非訪れた際にはチェックして欲しい。
市場と着物のダブルの魅力
オーナーの「こんな着物屋さんがあったらいいな」というコンセプトをもとに、戦前のアンティーク着物の他、現代のリサイクル着物や浴衣、小物まで幅広く揃えている。小上がりになっている畳の部屋で試着することもでき、店員さんも親身に相談にのってくれるので、着物初心者にもおすすめ。若干数だがメンズも扱っている。
2021年には大塚にも新店ができ2店舗展開になった。大塚のお店は、代田橋とはまた違った雰囲気だということで、こちらも是非とも伺いたい。
闇市だった場所に建てられ、たくさんの人の生活を支えてきた大吉市場。時を経て、いまはたくさんの人に愛される着物屋さんとなり、建物とともに着物の魅力を伝えている。
取材・文・撮影=千絵ノムラ