お客さんとともに作る店

駅前の喧噪を抜け、立石住民に紛れて住宅街へと向かう。住居が多く立ち並ぶエリアに入りほどなくして、路地の中に突如現れた飲食店。この店の正体こそ、葛飾区で1、2を争ううどんの名店『四ツ木製麺所』だ。まるで住宅街に突然現れた“食のオアシス”のような存在に、吸い込まれるような心持ちで引き戸を開いた先には……。

店内は一見簡素な造りであるが、そこには「内装にお金を掛けるなら、お客さんに還元したい」という店主の守田さんの想いがあふれている。カウンター越しに見える厨房を覆い隠すほどのメニューが記された黒板の数々も、もはや立派な内装の一部だ。座席は、カウンター席とテーブル席がそれぞれゆったりとしたスペースを保ちながら並んでいる。ランチ時は小さなお子さん連れでも、周りを気にせずゆっくりと食事ができそうだ。

この店オススメのメニューは、名物のうどんを使った「かすボナーラ」。ネーミングセンスも秀逸なこのメニュー。その名のとおり、かすうどんとカルボナーラを組み合わせたハイブリッドな一品だ。かすうどん好きの常連さんから「本場・大阪で食べるよりも美味しい」と言わしめた自慢のかすうどんと、女性に人気のカルボナーラを融合させることで、かねてより考案していた女性ウケするメニューが誕生したという。クリーミーなスープの中に、ベーコンの代わりに使用されている「かす(牛の腸をカリカリに揚げたもの)」の旨味が溶け出し、コク深い味わいに仕上がっている。別添えの卵黄と一緒に食べれば、さらにコクがアップ。

かすボナーラ 770円
かすボナーラ 770円

『四ツ木製麺所』は、おつまみも実力派。人気のメニュー、コンニャクの土佐揚とモロキューをいただいた。こんにゃくに、かつお節の衣をつけて揚げた土佐揚げは、シュワっと口の中でほどけるかつお節の旨味と、しっかり下味のついたこんにゃくのバランスがちょうどよく、おつまみの定番・モロキューともども、ビールのお供にぴったりだ。

コンニャクの土佐揚 550円、モロキュー 418円、瓶ビール 605円
コンニャクの土佐揚 550円、モロキュー 418円、瓶ビール 605円

もともとは、隣町の四ツ木で卸専門の製麺所を営んでいた守田さん。ご近所の方にも販売していたうどんの評判が立石にまで伝わり、立石駅前で飲んだ後にうどんを買い求めに来るようになった酔客との交流がきっかけで、飲食店を出店してほしいというリクエストを受けた。そこで、実際に立石でこの店を始めることになった守田さんだが、あえて駅から離れた場所を選んだのは、落ち着いた環境で商売がしたいという想いがあったから。オープン以来、駅からの距離などものともせず、土日祝日ともなれば開店直後から近所の方はもちろん、遠方からも多くの人が訪れる人気店として営業を続けている。

店主の守田さんと常連さん
店主の守田さんと常連さん

メニューも店内も、お客さんと一緒に作り上げていくという姿勢も、オープン当時から変わらないことの一つだ。お客さんが食べたいという料理があれば、可能な限り形にして提供し、店内にはこの店を訪れてくれた方の役に立てればと、お客さんから預かったチラシや書籍などを店のあちこちに置いている。中でも、トイレの扉に作られた“地域の掲示板”は、そんな守田さんの想いが強く表れている一角だ。

そのほかにも、常連さん手作りの木彫りの看板や、守田さんのイラストが描かれた缶バッジなどが飾られ、月日を重ねるごとに増えていく思い出の品の数々に、いかにこの店が愛されているかが分かる。立石の人気うどん店「四ツ木製麺所」は、これからもお客さんとの縁を大切にしながら、訪れる人を温かく迎えてくれる。

『四ツ木製麺所』店舗詳細

住所:東京都葛飾区東立石2-11-7/営業時間:11:30~14:30・17:30~21:20LO(土は11:00~20:20LO、日・祝は11:00~18:20LO)/定休日:月(火は夜のみ営業)/アクセス:京成押上線京成立石駅から徒歩8分

取材・文・撮影=柿崎真英