メニューは兵庫の名物料理と居酒屋定番料理
高円寺駅周辺は、駅から各方向にいくつもの商店街が延びている。今日は北口を出て一番左、線路沿いから入って徐々に線路から離れていく中通り商店街を進む。
居酒屋さん、雑貨屋さん、古着屋さんなどが立ち並ぶこぢんまりとした商店街。個性的なお店が多く、キョロキョロしながら進む。さほど広くない通りなので、左右両方の店をチェックしながら歩ける。
駅から4~5分ほどで『播州酒場 うぶ』の提灯が見えてきた。
店内は厨房と対面でずらっとカウンター席が並び、奥に掘りごたつ席がある造り。意外に奥行きがあって広い。
メニューは兵庫県産のものだけでなく、定番の居酒屋メニューもそろう。今日はせっかくだから兵庫県の名物料理をいただこう。
淡路島の希少な玉ねぎと播州のローカルフード
注文したのは、淡路島産のブランド玉ねぎ“蜜玉”を使ったたまねぎのまんま焼きと、播州のローカルフード・ひねぽん。
まずはたまねぎのまんま焼き。まるのままの蜜玉に自家製のバルサ味噌(バルサミコ酢と味噌、醤油、みりんなどを合わせた店のオリジナル味噌)をかけ、チーズをのせてオーブンで焼いている。
芯がトロリとして甘い! それでいてシャキシャキ感も残っていて食感が絶妙。そしてバルサ味噌が美味! たっぷりのとろけるチーズとの相性も抜群だ。
「4月から6月は新玉ねぎが旬なので、今が一番甘みが強くておいしいですよ」と教えてくれたのは店長の前田澄人さん。蜜玉は都内の店ではなかなかお目にかかれない希少ブランドの玉ねぎだ。『うぶ』では通年で蜜玉を入荷し、たまねぎのまんま焼きを提供している。
次にいただくひねぽんは、ひね鶏(卵を産まなくなった雌鶏)を焼いてポン酢で味付けした播州(兵庫県の南西部)のご当地グルメ。
ぷりっぷりの歯ごたえに鶏肉の旨み、ポン酢のさっぱり感が合わさって、これは絶品! お箸が止まらない。ずーっと食べていられる。お酒も進んでしまいますな。
「卵を産まなくなった親鶏は筋肉質で独特の旨みがあるんです。播州の居酒屋の定番メニューで、スーパーでも売ってますよ」と前田さん。
毎日ひねぽんが食べられるなんて、播州に住んでる人がうらやましい!
播州のおいしいものを東京でも食べてもらいたい
店長の前田さんは、横浜のご出身。「オーナーが兵庫の出身なんです。店名の『うぶ』は産声のうぶ。そこから何かが始まってくれるといいなという思いでオーナーがつけました」。
「『うぶ』はもともと下北沢にあって、下北沢のお店は普通の居酒屋なんですが、高円寺に出すことになったときに、オーナーの出身地の兵庫のおいしいものを出してみたらどうか、ということになって。オーナーがおいいしいものを見つけてきて、それが兵庫の鶏、卵、淡路島の玉ねぎ。これを使った料理を定番メニューとして出すスタイルで始まりました」。
鶏は兵庫県多可町の“播州百日鶏”を使っている。「兵庫のレストランなんかで使われている鶏です。筋肉質で歯ごたえがあって、胸肉は生でも食べられます」と前田さん。
オープン当初は、日本酒もすべて兵庫産でそろえていたそう。しばらくしてお客さんから「兵庫以外のお酒も飲みたい」との要望があり、現在は兵庫にこだわらず全国各地の日本酒を置いている。
「仕入れにもよりますが、兵庫の料理はほかにタコ飯や鯛の炊き込みご飯もあります。刺し身用の魚は築地で仕入れるんですが、兵庫の魚が入ればその日のメニューに入れます」と前田さんは話す。
「兵庫のものを食べていただきたいというのはもちろんありますが、兵庫にこだわらず、旬の素材を使った料理をお出ししています。今はタケノコが旬なので、タケノコ料理がおすすめです」。
東京の人に播州のものを食べてもらいたい、という熱い思いをもちつつも、こだわりすぎることなく、日本の旬を届けてくれる『播州酒場 うぶ』。だれを誘って来てもみんなが満足できる、そんなお店だ。
取材・文・撮影=丸山美紀(アート・サプライ)