そもそもタロイモって?
場所は人形町の甘酒横丁。なかなか渋いセレクトだ。かつて五街道のスタート地点で、江戸東京の中心だった日本橋。その圏内にある人形町で店をスタートをきりたかったのだという。
店は真新しいビルの路面に面した1階、外にベンチがひとつ置かれているものの、テイクアウト専門の小店である。内装はシンプルかつスタイリッシュ。台湾スイーツの店にはちょっと見えない。パッケージや紙袋に共通して用いられる薄紫色は、タロイモをイメージしたもの。 いずれも台湾と日本でデザインを学んだ程さんのセンスが活かされている。
そもそもタロイモとは何か? 熱帯アジアやオセアニア、アフリカなどで多く栽培されているサトイモ科の根茎である。味わいはサトイモに近いが、よりさっぱりしている。スイーツ以外にも鍋に入れたり炒めたり、現地では生活と切り離せない日常食である。
『連珍』では、厳選したタロイモを台湾から空輸(他国産だと味が違うそうな)。店奥の工房で無添加・無着色・保存料不使用の新鮮な生菓子に仕立てる。翌日に持ち越さないから、1日に作る量に限りがある。開店以来、台湾人はもちろんのこと、日本人にも好評で、昼すぎに完売してしまう事も少なくない。
さっぱりと、さりげなく新しい
看板商品はタロイモボール(芋泥球)とタロイモシーミールー(芋頭西米露)の2つ。
タロイモボールは、蒸したタロイモに上質なバターと砂糖を加味した生菓子で、口当たり柔らか、品のいいまろやかな甘味が口の中ですっと解けていく感覚がクセになる。
三角形の容器もオシャレなタロイモシーミールーは、小粒のタピオカを加えたタロイモペーストの上にタロイモ×ミルクのシンプルなババロアを重ねたスイーツ。口当たりと味の変化が楽しい。
その他、タロイモのクリームたっぷりのシュークリーム380円もいけるし、タロイモの餡とチーズを挟んだ新製品タロイモホットサンドも、チーズの塩気とタロイモの甘さのハーモニーをパンがさっくりまとめあげる一品。
いずれも、和とも洋ともエスニックともつかぬ──というか、それらが混ざり合ったさっぱり味のスイーツで、さりげなく新しい。日本人にタロイモのおいしさを認識させてくれることだろう。
人形町の小粋な老舗と肩を並べる店に
『連珍』はその落ち着いた佇まいからして、台湾ブームに乗って適当に始めたような飲食店とは一線を画する。この街に店開きしたのは、やがて跡を継ぐ『連珍』を、人形町の小粋な老舗と肩を並べる店に発展させたいという程さんの思いも込められている。
本店から菓子職人を呼び寄せ、品数をさらに増やす予定もあるという(本店の品揃えは約80種類!)。コロナの影響で延期されているが、今後の展開がますます期待なのである。
取材・文=奥谷道草 撮影=唯伊