アレルギーのある子供たちも安心して食べられるラーメンを目指して
店主の岩立伸之さんは、ラーメンで世界初のミシュラン一つ星を獲得した『柳麺 ちゃぶ屋』出身。ほかにも多くの店で修業を積み、大宮にあったラーメン店集合施設“ラー戦場”の、第1回ラーメン職人オーディションで優勝。半年間の出店を経て、2011年7月21日に、地元北千住で開業した。
岩立さんがラーメンに目覚めたのは、奈良県の子供施設で働いていたとき。「給食のおじさんをやってたんですが、その施設の子供たちはそれぞれ異なる食物アレルギーがあって。みんなが共通して食べられないのがラーメンだったんです」。そこで、みんなが食べられるラーメンを「のぶ兄ちゃんが作ってやるから」と、東京に戻ってから一念発起。数々の有名店で修業し、その夢を叶えた。
オープンから10年以上が経ち、「病気をして太ったから、営業中の立ち仕事は脚が痛い(笑)」と岩立さん。お店も体も大きく成長し、オープンから2年後には2号店の『みそ味専門 マタドール』も展開。ほかの飲食関係からラーメン店へ転身したので、ラーメン関係の知り合いがまったくいなかったところ、他店の店主との交流が楽しかったと、振り返る。
「同年代に開業した店主さんたちと結成したわぽ会(日本のラーメンを変える若手っぽい会)が楽しかったですね。東京ラーメンショーに出たり、コラボしたり。勉強会もしましたねー。みんなで食材を持ちあって、いろんなラーメンを作りました。結局お店で出さないのばっかりで(笑)」
乾燥マッシュルームで牛骨スープの旨味がアップ!
もともと勉強好きな岩立さん。他店との勉強会や展示会などにも出かけ、新たな食材を見つけては、マタドールのラーメンに少しずつ取り入れてきた。「あんまり変わったって言わないんですけど、常にどんどん変わってます」。
中でも大きく変わったのは、スープだ。「昨年の夏に、生のマッシュルームからスペイン産の乾燥マッシュルームに変えたんです。スープの旨味がすごい分厚くなりましたね」という、ラーメンがこちら。
牛骨や牛アキレス、牛筋などをメインに30品目以上の食材でとっていくスープは、牛が苦手な人にこそ食べてほしい。香草が香り、さまざまな味がバランスよく旨味にあふれ、そのおいしさに驚くだろう。
スチコン調理でローストビーフ焼牛がさらにおいしくジューシー♪
三河屋製麺の平打ち麺とちば醤油以外は、かなり変わったというマタドールのラーメン。丼のなかでひときわ存在感を放つ、自家製ローストビーフ焼牛(チャーギュウ)も、3年ほど前に作り方を大幅に変更している。「前は塩と胡椒で一晩寝かせてたんだけど、今はソミュール液に漬けて寝かせてます。ハムを漬けるときに漬け込む液体ですね」。
オリジナルの配合で作ったソミュール液に漬けこみ寝かせた肉は、2号店にあるスチコン(スチームコンベクションオーブン)で仕上げている。「これも調理器具メーカーの勉強会で教わって、取り入れました。やっぱり、もっともっとおいしくしたいから」。
その味は、噛むごとにギュッと詰まった旨味があふれて、以前からおいしかったが、さらにおいしくなった!
やりたいことをどんどん形に変えていく岩立さんが、五反野にある和食居酒屋『長船』の二毛作ラーメンをプロデュース。「同級生のお兄さんのお店で、お声がかかって」手がけたのは、麺に稲庭中華そばを使った鶏と魚介スープのラーメンだ。今年1月から毎週日曜、月曜の昼営業にラーメンを提供している。
他店プロデュースや店舗展開に忙しいなか、本店の味もどんどん進化している。「この味もまだまだ完成じゃない。このままじゃないですね。ある日突然、全然違うラーメンになるかもしれない。ほかにネクストブランドで牛じゃないのをやりたいと思ってますし、あれもやりたい、これもやりたいってのは、頭の中にいっぱいあります」。岩立さんのおいしさへのこだわりは、まだまだ続く。
「駅から人の流れとは反対方向にあるお店ですけど、ほんとに散歩のついでにでも食べにきていただければ(笑)」と、“さんたつ”にかけて面白いことを言おうとする岩立さん。11年の進化の味は、初めて食べたときの感動を思い起こす味だった。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代