生まれ育った街だから、誰もが気軽に食べられるレストランを開きたかった
都営浅草線戸越駅から徒歩4分、戸越銀座温泉のほど近くに『イタリア厨房 若王子』がある。でっかいイタリアの国旗と、イタリア人シェフ風の人形が目印だ。人形といっても、小さめのおばあちゃんくらいのサイズだから、ぼーっと歩いているとびっくりするかも! おいしそうなランチメニューを確認して階段を降りて店に入る。
店内は木とレンガ、タイル張りの床がまるでイタリアの路地裏にあるトラットリアのよう。耳をすませばアコーディオンの音色が聞こえてきそうだ。
そして、「いらっしゃいませ!」と迎えてくれたのが、オーナーシェフの若王子資和さんだ。2009年“誰でも気軽に入れるカジュアルイタリアン”というコンセプトでオープンし、2022年8月で14年目に突入する。
「品川プリンスホテルでシェフとして14年、永谷園の外食部門などで5年ほどフードプロデューサーをしていたこともあります。料理の道に入ってからいつか地元で店を持ちたいと思ってやってきたので、オープンした時は本当にうれしかったですね」と資和さん。
ふんわり卵の上に、トマトソースの酸味とミルキーなモッツァレラがやさしく溶け合うオムライス
独立するまでは、フレンチを中心にあらゆる料理の研鑽を積んできた。オープン当時は、手の込んだカルパッチョやフレンチのポワレ、牛フィレ肉のソテーなども提供していたが、すぐにこの店にはニーズがないことを悟った。
「凝った料理も頑張ってたんですけどねぇ(笑)。渋谷や六本木と違って戸越に住む人たちはお年寄りや子どもが多いから、ホテルメイドの気取ったフレンチよりも、パスタとビザが食べられる気軽な店がいいだろうと思いました」。というわけで、ランチタイムはオムライス、パスタ、ピザにし、メニュー数も絞ることにしたんだとか。
定番のオムライスは、写真のモッツァレラチーズとバジルのトマトソースと、色々キノコのガーリックバター醤油ソースの2種。
今日はモッツァレラチーズとバジルのトマトソースをいただいた。ピラフの上にふんわり卵、爽やかな酸味のトマトソースがかかっている。ミルキーなモッツァレラチーズと口の中でやさしく溶け合って、パクパク口の中へ吸い込まれていく!
そのほかパスタは日替わり1種と、定番のボンゴレビアンコ。そしてピザはマルゲリータ。価格はすべて1000円で、サラダとドリンクがつく。お年寄りから子供までおいしく食べられるように、塩分やニンニクなどを控えめにし、やさしい味付けを心がけているそう。
平日のランチに週4で通う常連さんのため、パスタは日替わりを用意
新陳代謝の激しい戸越銀座商店街で13年経営を続けていると聞けば、メニューを再構築したことは正解だったのだろう。今ではなんと親子4代で来店してくれるファミリーもいる。戸越銀座がたびたびテレビや雑誌で取り上げられるため、都外からも観光客がやってきて長い行列ができることもある。おかげで平日のランチパスタを毎日食べにくる熱烈ファンもできた。
「ここ何年も毎日欠かさず来てくださるんですよ。たまにうちも臨時休業するときがあるんですけど、その方には『すみませんけど、明日はお休みします』って連絡するんです。だって、申し訳ないもの!」
「一度、『毎日うちのパスタで飽きないんですか?』って聞いたら『飽きないよ』って。ありがたいですけど、こちらもちょっと手が抜けないなって、いい意味でプレッシャーをもらっています(笑)。基本的にランチメニューは固定なんですけど、ランチのパスタは1種類だけ日替わりでやっているんです」。
『イタリア厨房 若王子』では、ディナーも充実。パスタやピザのほかに、若王子さんが腕によりをかけた前菜や肉や魚のメインメニューが用意され、ワインがすすむ。
おいしい料理はその場の雰囲気を大いに盛り上げてくれるもの。気の合う仲間やカップル、ファミリーでのんびり食事ができる空間だ。また、会社で貸し切って利用するのもいいかもしれない。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢