そもそも、すあまとは、何ものなのだ?
なぜもれなく薄ピンク色をしているのか。そして中にあんこが入るわけでもなく、きなこがまぶされているわけでもなく、ただ本体のみがボッテリと鎮座している。恐らくは食べ始めから食べ終わりまで薄甘いすあまの味しかしないのだろう。私はういろうも苦手なのだが、すあまとういろうは同じ上新粉を原料とした仲間と聞いてから、余計に敬遠していた(とは言え、私の好きな白玉や求肥〈ぎゅうひ・原料が白玉粉仲間〉がすあまサイズで、しかも何の味付けもされず目の前に出されたら、食べ切れる自信はない)。
さらに言えばその名前。すあま。何語なのだろうか。声に出してみても何だかぼんやりとしていて、すあまの印象を一層曖昧なものにしている。
しかし、食べもしないですあまにケチをつけるだけの人生でよいのだろうか、と私は思い直した。今こそ、すあまと和解するべき時が来たのではないのだろうか。
北千住と巣鴨は二大すあまタウン?
ところが、いざすあまを買い求めようとすると、なかなか売っていないことが多い。すあまの生息場所はスーパーの和菓子売り場か、昔ながらの個人経営の和菓子屋さんの、うぐいす餅の隣あたりである。色々と調べを進めた結果、北千住と巣鴨がどうやら「二大すあまタウン」なのではないかという推理に至ったため、出かけてみることにした。
北千住に向かう前、渋谷の東横のれん街にある「舟和」の直営店に立ち寄った。「舟和」と言えば芋ようかんとあんこ玉が有名なので、これまで目にも留めていなかったのだが、割と目立つ位置にすあま(税別100円)がいるではないか。しかも私がすあまと聞いて思い浮かべていたような巻物型ではなく、バーバパパのようなニョーンとした形である。色も薄ピンクだけではなく、白もある。
実はすあまは「寿甘」とも書いて慶事用の菓子として用いられ、色が薄ピンクなのはそのためでもあり、バーバパパのような形は縁起の良い鶴の卵を模している(この形の場合、鶴の子餅とも言う)ということを知った。私がすあまに対して抱いていた疑問の半分くらいは、ここで解消したわけだ。舟和で紅白2つのすあまを買い求めると、店員さんが「すあま、おいしく召し上がられますように」と声をかけてくれた。すあまを求める旅を始めるにあたり、幸先の良いスタートである。
バーバパパ型が北千住スタイル
北千住に先立ち、三駅離れた金町にある「立花本店」に向かった。種類豊富な巻き寿司や和菓子に交じってすあま(税別90円)も並んでいる。ここのすあまは三角形である。私はまた、すあまの新しい一面を見た。
古くから宿場町として発展した北千住は、5年連続で「穴場だと思う街(駅)ランキング」で1位に輝いている(リクルート住まいカンパニーによる)。新しいマンションや飲食店も増えたものの、昔ながらの和菓子屋も多くあり、大抵はすあまも揃えている。
今回は千住大橋までの道をブラブラと散歩しながら、北千住駅前通りの「伊勢屋 北千住店」(税別130円)、宿場通りの「たから家」(税込120円)、日光街道沿いの「高は志」(税別150円)のすあまを買い求めた。「たから家」「高は志」のすあまはどちらもバーバパパ型であり、餅とり粉がほとんど付いていない。これが北千住スタイルなのだろうか。
多様性が身上の巣鴨スタイル
そして巣鴨に移動する。言わずと知れた「おばあちゃんの原宿」、とげぬき地蔵まで続く地蔵通り商店街には和菓子屋が立ち並ぶ。そのうち多くは名物の塩大福を売りにしているが、塩大福のある店にすあまあり。「伊勢屋菓子店」(税込150円)、「すがも園」(税込140円)、「みずの」(税込160円)と次々にすあまが手に入る。「すがも園」のすあまはよもぎ入りの緑バージョンがあり、「みずの」のすあまは一般的なすあまの倍くらいの大きさである。ここでもすあまの多様性に触れることができた。
そして私は途方に暮れた
帰宅して、いよいよすあまを食べる瞬間がやってきた。確かに味のインパクトはない。しかし店によってモッチリ食感あり、フワフワ食感あり、見た目だけではなく味にも各店の個性が出ている。「すあまだから」と一括りにするのではなく、各自好みのすあまを見つけてみるのもまた楽しいのではないだろうか。
一つ気を付けたいのは、すあまを買い回った結果、私のように15個のすあまを前に途方に暮れることのないように、ということである(買い過ぎた場合は冷凍保存をおすすめする)。
絵・取材・文=オギリマサホ