トラック運転手から転身、食べ歩きからハマったラーメン道
『赤羽らーめん 粋』という屋号通り、入り口には家系特有の“家”の文字はない。しかし、立て看板のラーメン写真は家系そのもの。入店するとさらに豚骨の香りがこれでもかっていうくらいに押し寄せる。
オーナーの中村充裕さんは、もとはトラック運転手。日本全国をトラックで周りながら仕事の合間にラーメンを食べ歩き、いつしか「自分もラーメン屋をやりたい」と思うように。お話を伺った店長の柏木一俊さんは、実は中村さんの元同僚。トラック運転手時代から30年以上の付き合いで、中村さんと一緒に食べ歩き、ラーメンにハマっていったそう。
約20年前、中村さんが家系ラーメン店に転職し、あとを追うように柏木さんも同じ店に転職。そこで10年ほど修業を積み、2017年に念願の独立を果たした中村さん。柏木さんも誘われてこの店にきたという。はたから見ると豚骨スープのように濃厚な仲ではないか。
そもそも屋号の『粋』は、江戸っ子の「粋だねえ」からきているとか。なんとトラックの運転手さんらしいネーミング! 家系だけにとどまらず、トラックで全国を周り、食べ歩いたすべてのラーメンが『粋』のラーメンのベースになっている。
家系×九州豚骨プラスαのハイブリッドな醤油豚骨ラーメン
それでは豚骨醤油ラーメンを、味の濃さや油の量などカスタマイズしないでいただいてみることに。やっぱり豚骨には赤い卓に黒い丼。赤褐色のスープが映えるビジュアルが食欲をそそる。まずはスープを一口。濃厚な豚骨でとろりと粘度もある。
醤油ダレがやや甘めだが、しつこくなくあっさり。ショッパ過ぎないほどよい旨味が広がる。なめらかな口当たりの中に、ほんの細かなザラツキが。丼の底からスープをすくうと粒子状の骨粉を発見! しっかり炊かれている証、寸胴を見ていただくとお分かりいただけるだろう。
らーめん一杯550円に驚きつつも、コロナ禍の財布にはやさしくありがたい。オーナーの手腕もさることながら、現場の手間暇を惜しまない努力の賜物だろう。
珍しいのが太麺のほか、九州ラーメンのような細麺も選べること。替玉だけじゃなく、通常メニューどれでも細麺に変更できるという家系にはないアイデアは、全国を食べ歩いた成果だろう。でも、こちらの豚骨醤油ラーメンに九州の細麺は合うのかな?
「うちの細麺って九州のとはちょっと違って、もっちりとした食感なんです。だから醤油でも味噌でも細麺で食べる方もいますし、個人的には塩にめちゃくちゃ合いますね」と柏木さん。なるほど、九州風のエッセンスを取り入れつつ、麺の食感などを変えて家系の豚骨醤油に合わせているわけだ。
ビールやおつまみもせんべろの街・赤羽価格
夜になると飲み客が増えるという。メニューを見ると、生ビールが280円、麺類を注文すればネギめし・餃子3個・キムチのサービスセットが300円と、せんべろの街・赤羽プライス。これは、赤羽の人々に喜ばれるはずだ。
「うちはラーメンが主なんで、ラーメンを食べていただいて、なおかつ飲んでいただければそれでいいんです」と柏木さん。酒類やおつまみの儲けが度外視なのは、ラーメンに自信があるからだ。
さらに昨年は、綾瀬に2号店を出店。中村オーナーが店に立ち、心をこめて提供中。そういえば、綾瀬もせんべろで有名なディープな街だ。開店前に行列ができる飲み屋も数多い。2店の共通点に気づいて、ある情景を思い描いてみた。せんべろ飲みから流れてくる人々でにぎわう店で、一杯やりながら豚骨醤油ラーメンを啜る穏やかな笑顔……。
柏木さんが目指すのは「目の前のお客さんに美味しいものを出していくこと」。朝8時から閉店まで一日中炊きっぱなし。その日の気候や客入りによって、どんどん状態が変わっていくスープを、いつ食べても美味しい味に仕上げていくという。思いのこもったこだわりの豚骨醤油ラーメンをぜひとも味わってほしい。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代