小野正弘 先生
国語学者。明治大学文学部教授。「三省堂現代新国語辞典 第六版」の編集主幹。専門は、日本語の歴史(語彙・文字・意味)。

携帯メールとともに「あけおめ」が広がった!?

筆者 : 「あけおめ」は、1999年にEvery Little Thingのボーカル持田香織さんがテレビ番組で使ってから、広く使われ始めたという説があります。確かに、私(40代前半)の子どものころは「あけおめ」なんて聞いたことがありませんでした。

小野先生 : ちょうど携帯メールがはじまり普及していった時期と重なっており、文字を打つのに省略したほうが便利だった、という背景もあるでしょう。
「あけおめ」は、ことばとして確立している略語というよりも、「あけましておめでとう(ございます)」が短縮されただけの「略形」です。ほかにも若い世代の間ではさまざまな略形が流通していて、気安さを感じさせる表現になっています。
反面、ことばの省略は丁寧さが失われるので、改まった場では使えません。お葬式で「謹んでお悔やみ申し上げます」を省略して「つつおく」なんて言ったら不謹慎極まりないですよね。そんな略形、略語はどこにも存在しないわけです。

筆者 : 「あけおめ」も目上の人に対してや、ビジネスの場では使わないですね。

カルチャーを共有するからこそ省略できる

小野先生 : 「なぜことばを省略するか」を一歩踏み込んで考えると、「あけおめ」でも気持ちを込めて新年のあいさつができますよ。

筆者 : 「あけましておめでとう」と言ったり書いたりするのが、面倒だから省略するのではないのですか??

小野先生 : 日本語では、昔から極端にことばが省略されることがあります。例えば、東北地方の、特に秋田では「け(食え)」「く(食う)」「くぉ(食おう)」という方言が使われます。
「寒くて口を開けたくないから、最小限の発声になったのだ」とよくいわれますが、これは俗説です。極めて密接な関係だからこそ、短いことばでも意味が通じることが重要。共同体を同じくするという再確認の意味が、ことばの省略にあると、学術的にも考えられています。

筆者 : 「あけおめ」も、共通の認識やカルチャーを持っている同士であるという確認のことばだと。

小野先生 : はい。特定の仲間内だけで通じる「隠語」に近いものがあります。最近では「了解」を短縮して「りょ」または「り」だけで、メッセージを送る人もいます。みなまで言わずとも、最初の一音だけで通じる間柄、というわけです。

筆者 : ギャル語はまさに共同体とカルチャーの象徴ですよね。「きまZ(キマゼット)」などは、短縮もしていないどころか「気まずい」より言いづらくなっていますが、シャレの効いた表現を、わかる人同士で楽しんでいるように思えます。

小野先生 : 「あけおめ」は最新のギャル語ほど隠語的とは言えませんが、名残はあります。いくら親しい間柄でも、両親に「あけおめ」とは言わないでしょう。「あけおめ」「ことよろ(ことしもよろしく)」とあいさつを交わせるのは、時代やカルチャーをある程度共有できている、貴重な友だちなのかもしれません。

筆者 : 確かに! ギャルも40代のおじさんも「あけおめ」を使うかもしれませんが、私はあまり若い人には「あけおめ」とは言いづらいですね。返って古いと思われるのではないか、ちょっとしたニュアンスが違うのではないか、と気になってしまいます。
同じ時代を生き、ELTの青春ソングに胸をときめかせた(であろう)“戦友”にしか、言えないことばなのかも。
ことばは本当に奥深い!

小野先生 : ちなみに、「きまZ」にもある「Z」は日本人が好きな文字ですね。古くは永井豪先生の「マジンガーZ」、鳥山明先生原作でフジテレビ系列の「ドラゴンボールZ」、最近では「ももいろクローバーZ」など。

筆者 : ウルトラマンの「ゼットン」とか、「Z(ゼータ)ガンダム」というのもあります。

小野先生 : 「Z」はアルファベットの最後の文字ですから、最終形である、極まった状態、というイメージが感じられます。
「きまZ」も言い始めた人の意図はともかく、単に「気まずい」ではなく、「極めて気まずい」というニュアンスも含めて、流通しているのではないでしょうか。

筆者 : 新年からますます奥深い!!

取材・文=小越建典(ソルバ!)