ホッピー通りにありながら煮込み料理がウリではない!?
浅草ホッピー通りには“煮込み通り”という別称がある。その名の通り、手間暇かけて作られるもつ煮込みや「お店ごとに味が違う」と言われている牛すじ煮込みなどのお酒に合う料理が有名で、それをアテにしてホッピーなどのお酒を飲む……という具合に、ホッピーと煮込みは切っても切れない関係。だからこそ2つの名前がこの通りについたとも言える。
しかし、そんなホッピー通りにあって、煮込みのみならず、超新鮮な魚を最大のウリにている人気店もある。それが2018年の8月にオープンした『ととや』である。
「ウチのお店でも7時間煮込んだ牛すじ煮込みが大人気です! でも、僕らの強みはなんといっても、魚料理。明治4年(1871)創業の豊洲市場水産仲卸が直営でやっているので、どこにも負けない新鮮な魚を提供できるのが強みなんです」
こう語ってくれたのは店長を務める江連和紀さん。周りのお店はみな、創業から少なくとも20年近く経っているいわば老舗ばかり。
その中でも比較的新しい『ととや』がお客さんに親しまれるには周りと同じようなメニューではなく、個性を出したものを提供する――その考えがホッピー通りにやって来るお客さんたちにハマり、オープンから3年経った今では「浅草でおいしい魚が食べたかったら『ととや』!」と言わんばかりになじんでいる。
その日によって異なるおすすめメニュー!
今や浅草で一番の海鮮居酒屋ともいわれる『ととや』。早速自慢のメニューを伺うと、江連さんから「今日の場合だと寒ブリですね!」という具合でその時々にタイムリーなものを教えてくれる。
「魚をメインにしたお店なので、仕入れによっておすすめがその日ごとに違うんですよ。あと冬の季節だと白子ポン酢も最高においしいですよ」。
江連さんの言葉の通り、早速鮮魚五点盛りと今日のイチオシだった白子ポン酢をオーダーした。まずは鮮魚五点盛りだが、この日のおすすめである寒ブリを筆頭にサーモンやカツオも大ぶりなサイズで鮮度も抜群。そして季節ものである白子ポン酢はひとくち食べれば濃厚な味わいが口の中に広がってくる。
「とにかく旬のお魚を提供できることが強みだし、新鮮だからこそできることもある。例えば秋だとサンマが旬ですよね? サンマを仕入れた当日は、普段はできないけどお刺し身にして提供していましたよ」。
つまり、仕入れ当日でないと食べられないその日限定の特別メニューも『ととや』の魅力なのだ。これなら毎日やって来るという常連客が多くいるのも不思議ではない。
新鮮さを貫いた仕入れで若いお客さんが急増!
ホッピー通りでも数少ない新鮮な魚料理をウリにして今や人気店の仲間入りを果たした『ととや』。新鮮さにこだわった仕入れにその日限定の特別メニューも味にうるさいホッピー通りに集まるお客さんたちの心をグッとつかんで離さない。実際に店内を見渡すと大学生風情の若者のグループ客から年配の男性たちが集まるなど、客層も幅広い。
「若いお客さんが増えた感じがします。周りのお店と比べると女性のお客様が多いかもしれないですね。あと近所に花やしきがあるおかげもあって、子供連れのお客様もやってきてくれますね。これからもそうしたお客様の期待に応えられるような料理を提供していきたいと思います」。
そう笑顔で語ってくれた、店長の江連さん。ちなみに取材が終わるとすぐにお客さんたちからのオーダーへ忙しそうに対応していた。一時は静まり返っていたというホッピー通りだが、『ととや』を中心にまたかつてのような盛り上がりを見せることだろう。
構成=フリート 取材・文・撮影=福嶌弘