節目を迎えた「行列ができる映画館」

―― 2020年は『ギンレイホール』の節目の年でしたね。

加藤 前身の『神楽坂銀鈴座』は木造1階建てで、1958年12月に火事で全焼したんですよ。翌朝の新聞に「東京タワー完成披露式でテープカット」と「神楽坂銀鈴座全焼」の記事が一緒に掲載されています。2年後の60年安保の年に「銀鈴会館」いう名でビルが再建されて。そこから数えて2020年60周年でした。

―― これまでどのような変化がありましたか。

加藤 開館当初は松竹系の封切館だったと聞いています。1974年に名画座になって、わたしが館主を引き継いだのは1996年です。経営は赤字でしたが引き受けたからにはやるっきゃない! 再起を図るために、当時はまだ珍しかった会員制システムを導入しました。サービス内容はズバッとわかりやすく「1年間1万円で映画観放題」。それが予想外に集まって、初年度で2000人以上になりました。さらに毎年2000人ずつ増えて、あっという間に1万人。ただ、やっぱりコロナは大打撃で、昨年2カ月間休業して会員制システムが崩壊しかかりました。それで思い切ってクラウドファンディングに挑戦したら、3日間で目標達成したんです。今こうしているのもね、みなさんのおかげです。

―― ファンの方々の思いが伝わってきます。入り口に行列ができるのは、もはや神楽坂の名風景の一つですね。

「わたしが館主としてバトンを受け取ってから、もう25年になります」と加藤さん。
2001年頃。長い行列ができている。(写真提供:ギンレイホール)

加藤 ロードショー館と違ってうちはロビーが狭いですから、表で待ってもらうんです。それが逆に「行列ができる映画館」なんて評判になってね。上映期間が2週間ずつなのは、劇場のキャパシティに対して会員数が多いから。全員に行き渡らせたうえに会員じゃないお客様にも観てもらうためには、1週間では足りなくて2週間必要なんです。ただ、期間を短くしてもうちょっと作品数を多くするのも一つの選択肢。コロナでみなさんの生活スタイルも変わってきたので、再検討してもいいかなと思っています。

映画愛でつながるアットホームな関係 「建物に映画の味が染み付いている」

―― 番組構成はどなたが。

加藤 久保田支配人の感性に任せています。

久保田 同じ路線の作品を組み合わせたり、毛色の違う2本を選んだり、前後の上映作品も踏まえてその都度提案します。たまにお客様がご自身のSNSで「今回この2本を組み合わせた裏には、こんな意図が潜んでいるのでは」と考察されているのを目にすることがあって、そのように受け取ってくださったのかと驚きつつ、うれしくもあります。

入り口横には、職人が制作した味のある手書き看板が並ぶ。

―― 確かに、深読みしたくなります。ギンレイホールには映画の魅力はもちろん、映画館という場所としての魅力も詰まっていますね。

加藤 昔はこの界隈に、有名な『佳作座』をはじめうち以外に名画座が5、6館あったんですよ。神楽坂は独特の雰囲気のある街で、今ではうちが唯一の名画座として残っている。映画好きのみなさんがそこに哀愁を感じてくださって、集まってくるわけです。

―― 特にどんなところに哀愁を感じていると思いますか。

加藤 築60年を過ぎていますから。わたしが館主を引き継いだ時はね、建物は今よりもみすぼらしかった。でも、会員制システムを導入する際に受け入れ態勢を整えました。設備投資をして劇場内や映写機、トイレも大改装したんです。ただ、直さなかったところもある。直せなかったって言った方がいいかな。地下に続く階段の渋い赤レンガタイルとか、いわゆる名画座らしいレトロな雰囲気。これが哀愁を感じさせるわけです。60年の歴史をずっと見てきた。映画の味がね、染み付いているんですよ。

―― みなさんの思いもにじんでいる気がします。

休憩時間ごとに消毒や換気を行うなどコロナ感染対策も万全。

加藤 長年かけてお客様との間にアットホームな空気ができあがったんです。それは現場にいる支配人が詳しい。

久保田 それはもう。例えば、ある時上映後に御婦人が号泣していらっしゃって。「感動しました。帰って何かに文章を書こうと思ったんだけど、とにかくそのままの気持ちを伝えたくて」とロビーに残って話してくださったんです。あとは、映画によっては上映後に拍手してくださる方もいらっしゃいます。

―― 映画好きのコミュニケーションの場でもありますね。今までにさまざまなイベントも開催されたそうですが。

加藤 コロナの前は5年くらい、毎年秋にある「神楽坂まち飛びフェスタ」という地域のイベントに合わせて、1週間ほど神楽坂映画祭を開催していました。あとは、ピアノ映画祭や活弁の映画祭も。

気さくな笑顔と細やかな心配りで劇場を支えるスタッフの方々。

前向きにひたむきに膨らむ未来構想

―― 今後について、新しい構想はありますか。

加藤 コロナ感染拡大防止対策は当分続きますが、新しいことを考えて果敢に実行していきます。2011年の東日本大震災の年にね、映画キャラバン隊っていうのを組んで、トラックに35ミリフィルム映写機を積んで復興支援のため野外上映会をして回ったんです。幌(ほろ)馬車みたいにトラックに幌をかけて、それに映画の看板のような絵をプリントして、6000球のLEDを組み込んで。その後、活動を本格的に事業化しようというところでコロナウイルスの影響を受けて計画が止まってしまった。でも用意はあるので、再開させようと思っていますよ。あとはポスターなど映画に関するありとあらゆるものの展示に、俳優や監督を交えた立体的な映写会。わたしはそれを「シネマオーケストラ」って呼んでいて、ギンレイホールの活動として実現する予定です。

―― 楽しみにしています!

加藤 いっぺんには難しいから、一つひとつやっていこうと考えてます。未来構想ですな。比較的近い未来ね!

『名画座 ギンレイホール』詳細

住所:東京都新宿区神楽坂2-19/アクセス:JR・地下鉄飯田橋駅から徒歩3分

取材・文=信藤舞子 撮影=三浦孝明
『散歩の達人』2021年12月号より