住宅地の一角にある小さなパン屋
吉祥寺駅から吉祥寺通りを練馬方面に歩くこと20分。練馬立野郵便局の少し先に小さなパン屋『すずめベーカリー』が見えてくる。住所は練馬区関町南。吉祥寺駅前の喧騒から離れた住宅地にポツンとあるお店だ。
北欧調の明るいお店の中に入れば、パンのショーケースが目の前に現れる。素朴なパンの顔ぶれを見て、ほっと安心感。ショーケースそのものは大きくはないが、お店の奥の厨房でこまめに焼き上げるため、焼きたてと出合える率は高い。
気持ちが和む小ぶりなあんぱん
『すずめベーカリー』のいちおしは北海道こしあんぱん160円。まずはこの王道のルックスを愛でたい。手のひらにすっぽり収まる小ぶりなサイズが心をくすぐる。黒ゴマでちょっと飾ったツヤツヤのまんまる。眺めているだけで気持ちが安らぐ。
北海道産の小豆で作られたこしあんはやさしい甘さ。あんこを受けとめる生地は飾り気がなく極めてシンプル。どこか懐かしいけれど、ただ昔を懐かしむだけではない。なめらかなこしあんと口あたりの軽い生地の計算されたハーモニーには驚くようなおいしさがある。もっと食べたくなる控えめな味わいとサイズ。一度食べるとまた買いに行きたくなる。
オーソドックスな品揃えの中に工夫がいっぱい
食パンにクロワッサン、メロンパンにクリームパン、チーズたっぷりのパン……。町のパン屋にあってほしいパンがちゃんと揃っているのが『すずめベーカリー』の特徴だ。定番をおさえつつ、毎日訪れてもときめきが失われない店主の工夫も見逃せない。
例えば、紅茶を加えたメロンパン。メロンパンの香りとアールグレイの香りがひとつになって、華やかなフレーバーに。近所のパン屋にあったらちょっと自慢したくなりませんか。
「おやきもあります!」。高らかに宣言したくなるほど絶品の高菜おやき180円。旨しょっぱく味付けした高菜とチーズの相性は満点花丸。一口目からクタクタの具材をたっぷり楽しめて大満足。通年で置いてある高菜おやきのほかに、シーズンによってエリンギや枝豆など違った具材のおやきが用意されるとのこと。全品制覇したくなる。
自転車で颯爽と現れて買い物をしていくお母さん。お母さんの手をぎゅっと握る小さな子ども。ゆっくりと歩いて来たご年配のお客さん。在宅勤務中に抜け出してきたような会社員。『すずめベーカリー』は10坪に満たない小さなお店だからお客さんの顔がよく見える。パンを選ぶときのお客さんはどこかうれしそう。
『すずめベーカリー』がある。そう思うだけで何気ない風景が鮮やかに色づくようなお店だ。
構成=フリート 取材・文・撮影=宇野美香子