長野産と調布産の野菜や果物が彩り鮮やかに並ぶ

入荷状況によっては野菜売り場がもっと広いこともあるそうだ。
入荷状況によっては野菜売り場がもっと広いこともあるそうだ。

品川通りに面した店に足を踏み入れると、どうしても色とりどりの野菜に目を奪われる。長野県や地元調布の農家から仕入れているという。

金子和生さん(左)と祐紀さん(右)。
金子和生さん(左)と祐紀さん(右)。

学校の図書館で司書をしていた金子祐紀(かねこゆうき)さんと雑貨メーカーに勤務していた和生(かずお)さん夫妻がカフェを開いたのは2016年。オープンの動機は、妻も夫もそれぞれ違うものだった。

長野県出身の祐紀さんが「弟が長野で作るおいしい野菜や米を使った食事を出す店をやりたい」と考えたこと、そして和生さんが「10年ほど前から魅せられたコーヒーを自家焙煎して販売したい」と考えたこと。2人の思惑を合わせた店なのだ。

ランチには長野県産の新鮮野菜や米を使った食事を出し、スイーツも長野の果物を使用。店内で焙煎されるコーヒーのおいしさや夫妻のやわらかな接客も手伝って近隣住民のファンが増えた。

ところが2020年からのコロナ禍で、店は転換せざるを得なくなる。店内での飲食スペースを縮小し、野菜や果物を売るスペースを広く取ることに。並行して増えたのが自家焙煎コーヒー豆を買うお客さんだ。

コーヒー豆を丁寧に選別して生まれるおいしいコーヒー

PANTRY COFFEE』が扱うのは、スペシャルティーコーヒーと呼ばれるグレードの高いコーヒー豆だ。店を入って左側には小型の焙煎機が置かれていて、その奥で和生さんが作業しているのは、コロナ以前から続く、いつもの風景だ。和生さんがやっているのは、トレイにコーヒーの生豆を並べて、傷みのあるものを取り除く作業。裏、表、側面と注意深く確認していく。

「コーヒー豆は農作物。コーヒーチェリーのいい匂いにつられて虫がやってくることもあれば、収穫後の作業で雨に当たることもあります。それから長い時間、船に乗って日本に届くので、その過程で腐敗してしまう豆があるんです。そういう豆は丁寧に取り除いてあげないと、香りがよくて味が均一なコーヒーにはならないんですよ」

コーヒーは店内で430円から。テイクアウトは422円から。レトロなカップがかわいい。
コーヒーは店内で430円から。テイクアウトは422円から。レトロなカップがかわいい。

生豆を選別していると、多いときは1割ほどが商品にならないこともある。決して効率がいいとはいえないが、この作業を丁寧にすることで常温保存してもコーヒーの味が変わらないのだという。

「コーヒーは身近なものですが、自分に合ったコーヒーに出会うこと自体が稀なんですよ」という和生さんは、コーヒーを淹れるときの、ちょっとしたコツをお客さんに伝えることにも力を入れているそうだ。

豆は全部で9種類。カフェインレスコーヒーも人気。
豆は全部で9種類。カフェインレスコーヒーも人気。

コーヒーは2つのブレンドとカフェインレスを合わせて9種類のラインナップ。オープン直後は、シングルオリジンのコーヒーばかりを扱っていたが、市内で行われたイベントに出店した際、調布をイメージしたブレンドを作ってほしいという依頼に応えた。そして生まれたのが深煎りの調布ブラックと浅煎りの調布ホワイトの2種類だ。ドリップパックにしたものが調布のおみやげにも選ばれている。

ギフトにも最適なドリップバッグの売れ行きは好調。
ギフトにも最適なドリップバッグの売れ行きは好調。

もともとグレードが高く、バランスもいいコーヒー豆を扱っているので、弱点を補い合うようなブレンドではなく、絶妙にリッチな味わいを目指したという。ちなみに、袋の中でムラができないよう、注文を受けてからブレンドするという念の入れようだ。

コロナ禍で生まれた販売用の手作りジャムが会話のきっかけにも

住宅地にある店には、自宅でコーヒーを淹れる機会が増えた近隣住人たちがコーヒー豆を買いにくる。週末にはお客さんを待たせしてしまうこともあると、申し訳なさそうな表情を見せるが、そんなとき祐紀さんは自家製ジャムの試食を勧めることもある。

素材の味を生かした自家製のジャムやスプレッド。安曇野いちごジャム580円、エスプレッソキャラメルソース680円、瀬戸内レモンカード600円。皮ごとりんごバター620円。
素材の味を生かした自家製のジャムやスプレッド。安曇野いちごジャム580円、エスプレッソキャラメルソース680円、瀬戸内レモンカード600円。皮ごとりんごバター620円。

ジャムは以前から店で出すトーストに添えたり、デザート使ったりするために手作りしていたが、コロナ禍をきっかけに瓶入りで販売することにした。「果物がおいしいので、素材の味そのままで」と祐紀さんがいう通り、いちごジャムは一般の市販品にはあまりないスッキリした味わいだ。無農薬のレモンを使ったやさしい酸味のレモンカードは、実は常連客がレシピを提供してくれたそう。

2021年11月現在、フードメニューは縮小中だが、レジ横にある焼き菓子のほか、毎週精米するという長野産の米で作るおにぎりが隠れた人気メニューだ。開店当初から通う常連客は店に並ぶ果物とコーヒーを合わせて、時間を過ごしていくこともあるという。

「コーヒーは疲れた身体を癒すためのものであることが多いから」と和生さんはいう。カフェで交わす何気ない会話も、コーヒー好きにとってリラックスに欠かせない材料。小さなエピソードからも街の人がこの店と夫妻の人柄を頼みにしているのがわかる。コーヒーに加えて、季節の野菜やおにぎりまで並ぶ『PANTRY COFFEE』。西調布のコーヒー好きにとってかけがえのない店と言えそうだ。

住所:東京都調布市下石原3-31-1-1F/営業時間:10:00 ~19:00(日・祝 11:00~)/定休日:火・水/アクセス:京王電鉄京王線西調布駅から徒歩7分

取材・撮影・文=野崎さおり