昭和初期まで、日常食といえば米などの穀物を主食に、野菜が中心の汁物やおかず、漬物という構成が基本だった日本。これが伝統的な食文化である“和食”の原型だ。
その和食に大きな影響をもたらしたのが、仏教とともに伝来した精進料理。動物性食材を使わない一方、野菜や穀物をおいしく工夫する調理法が発達。たんぱく質の取り方においては、大豆や小麦粉(麩)、胡麻などから多彩な加工品も生まれている。肉や魚料理に見立てた“もどき料理”も定番だ。
そして今、精進料理が世界的に注目されている。Plant Forward Global 50(※食に関する国際組織「EAT Foundation」と「the Culinary Institute of America」が選出した、植物性の料理を先導する世界のシェフ50人)の一人、『宗胡』の店主・野村大輔さんは「一つの食材から多彩な料理を編みだすノウハウやテクニックのある精進料理に、世界のトップシェフたちが関心を寄せている」という。
また、『こまきしょくどう 鎌倉不識庵』女将の藤井小牧さんは、出汁がらの昆布や椎茸を煮物として有効活用。「植物も命。だから食材を最大限に生かし、無駄なく使い切ります」という心得は、話題のSDGsにも通じる。まさに時代が追いついたとも!? ……熱い視線が今、SHOJINに注がれている。
宗胡(そうご) [六本木]
季節の滋味も調理法で表情豊か
実家の愛宕『精進料理 醍醐(だいご)』で3代目料理長としてキャリアを積み、独立した店主の野村さん。ポルチーニやオリーブオイルなど洋食材も巧みに取り入れる新しい表現手法が国内外から注目されている。夜はコース主体だが、昼はカジュアル遣いも。旬の御膳は具沢山の味噌汁をはじめ、季節の滋味を体の底からしみじみ実感する。胡麻豆腐も、焼き、揚げなど調理法が異なれば表情もがらり。
『宗胡』店舗詳細
こまきしょくどう 鎌倉不識(ふしき)庵 [秋葉原]
多彩なおかずが並ぶ贅沢な九椀菜
「たくさんの人に精進料理を知っていただきたい」とは、父は僧侶で両親ともに精進料理家の家庭で育った女将の藤井さん。敷居を低く、カフェ風精進料理を掲げる。一番人気の口福定食は香の物や甘味を含め一汁九菜とにぎやかだ。「九椀菜といい、一番贅沢なごちそうという意味があるので口福と名付けました」。時々“もどき料理”も入り、遊び心が添えられるのも精進料理ならではの楽しみだ。
『こまきしょくどう 鎌倉不識庵』店舗詳細
スーパーにも“もどき”なソイミートがたくさん!
大豆をベースに、肉のような味と食感を得られるソイミートが、ご近所スーパーに登場したことに気づいているだろうか? 経済誌「エコノミスト」(英)が2019年を「ヴィーガンの年」とするなど、この数年で菜食は時代の潮流となった。ビル・ゲイツやディカプリオがプラントベース食材の開発・製造会社に出資しているとか! 日本ではマルコメや伊藤ハム、日本ハムのほか、イオンのトップバリュシリーズにもソイミート商品が続々。「流行りにはのらないわよ~」などと言わず、まずは肉だんごなどの総菜系からお試しを。これが意外とイケるんです!
取材・文=味原みずほ、篠賀典子(コラム) 撮影=新谷敏司、中村宗徳 ※内容は取材時のもの。いずれも季節により異なる。
『散歩の達人』2021年10月号より