渋谷駅から歩いていける非日常空間

『渋谷区ふれあい植物センター』は、渋谷駅から徒歩10分程度の場所にある植物園。最初知ったときは、「渋谷に植物園があるのか!」と驚いた。

『渋谷区ふれあい植物センター』 10:00~18:00(入場は17:30まで)、月休(祝日または振替休日の場合は翌平日)。東京都渋谷区東2-25-37。☎03-5468-1384。

平成17年(2004)、すぐ近くにある渋谷清掃工場の還元施設として作られたという同園。館内の空調や照明といった電力は、ごみの焼却時に発生した余熱でまかなわれている。

100円という破格の入場料で楽しめる植物園だ。

「日本で1番小さい植物園」の看板。

日本植物園協会に所属する植物園の中で、一番面積が小さいという同園。建物の外側には「日本で1番小さい植物園」と書かれた看板が掲げられている。

しかし一歩中に入って見ると「日本で1番小さい」という言葉を忘れるくらい、天井が高く広々した温室が広がる。

緑に包まれた気持ち良い空間が広がる。

スペースの限られた館内を立体的に使って植物が配置されていることで、様々な角度から植物の魅力に触れられるのだ。館内にはなんと、500種類もの植物が植えられているそう。

「当園の特徴は、二階にテラス席があること。テラスから見下ろして植物ごとの葉の広がり方や付き方を楽しんでもらえるよう、あえて葉に模様や色味が特徴的な植物を多く植えています」と、園長の宮内元子さん。

たしかに二階から見下ろすと、様々なデザインの葉が眼下に草原のように広がって楽しい。

二階テラスから多種多様な葉を見下ろせる。

「館内には珍しい植物を植えて非日常空間を演出している一方、屋外の植栽には四季が感じられる植物を植えるようにしています。渋谷には、ベランダ以外に庭がないお宅もあるので、ここで季節の植物を見るのが楽しいとおっしゃる方もいます」

館内のメインツリーはバオバブ。現生地であるマダガスカルでは、貴重な栄養源として人や動物の暮らしを支えている木だそう。
二階から垂れ下がるビカクシダは、株分けで増やしたものだとか。
屋外には四季折々の植物が植えられている。

耳を澄ますと、「チョロチョロチョロ……」という水の音が絶え間なく聞こえる。

「かつて渋谷を流れていた『河骨川(こうほねかわ)』を再現した川です。唱歌『春の小川』のモデルにもなった川なんです。
地域への還元施設として創設した際、渋谷の自然が感じられるような植物園をコンセプトに。そこで、館内に河骨川を再現することにしました。川の水は、地下の巨大な水槽に雨水を溜めて循環させています。館内のガーデンの入口から湧いて、館外に向かって流れています。外にはトンボのヤゴが棲んでいたりと、一つの生態系が回っています。
昔は館内でホタルを飼育して、ホタルを見る催しもやっていたんですよ」

館内には河骨川を再現した川が流れる。

人と植物、そして人と植物園をつなぐ場

下から上まで緑に包まれ、渋谷の街中の喧騒を忘れるような空間。訪れる人を見ていると、幅広い年齢層の人が利用しているように見えた。

「時間帯によって様々な人たちが訪れます。平日の午前中は近隣の保育園の子どもたち。お昼になると、近隣のオフィスの方がお弁当を持ってきて、テラス席に座って食べています。夕方になると小学生たちがやってきて、そのへんでゲームをやっています(笑)。いくつか利用ルールがあって、スリーアウトになると『ハウス!』っていって帰らされるんですが、こういう施設には、そういう役目もあってしかるべきだと思っています。土日になると、地域外からご家族連れやお友だち同士でいらっしゃる方が増えますね。
植物園には色々な役割があるんだなと、あらためて思います」

植物に添えられたイラスト付きの手書き案内板が、観察の楽しさをかきたてる。
ニヤニヤさせられるしかけがたくさん。

来客対応やワークショップのお手伝いとして活躍するのは、総勢40名ほどのボランティアスタッフの方々だ。

「2021年はコロナの影響で中止していますが、もともと積極的にワークショップを行っていました。狭い館内なので、植物を見るだけでなく、触ったり人と話したりと、もうワンアクションないと、なかなか記憶に残らないなと思って。そういったイベントごとに、ボランティアさんたちが材料準備や来客対応をしてくださっています。
ボランティアとして参加してくださる経緯は、創設時に募集して集まったり、インスタを見たり、大学の先生の紹介で来てくれたりと、色々ですね。長い方だと、ここができた17年前……私がまだぺーぺーだった頃からの付き合いです。本音で色々と言い合える仲ですね。
今夜の晩ごはん何にしよう、と悩んでいたら、『作りすぎたから食べなさい』って煮玉子とチャーシューを持ってきてくれたこともあります」と笑う宮内さん。

この日もボランティアさんたちが、ワークショップに使うティーマットに、アクリル絵の具を塗った葉で模様をつけていた。
絵の具で押した葉にハンコを組み合わせるワークショップのサンプル制作。ボランティアさんのセンスが爆発……!

「植物より人間の圧が強い」と笑う宮内さんだが、長年時間を共にしてきたからこその気のおけない関係性を、職場で築けることがうらやましい。
コロナ禍の前は、毎月定例会もあったそう。定期的に会えたり、行ったら誰かしらなじみの顔がいる居場所は、日々暮らす中での安心感につながるようにも思う。

「どの時代でも、地域のハブとなる場所があるのは大事。そこに滞留したり、移動したり、また帰ってきたりと、人は流動的であっても、ハブの施設自体はある程度ぶれない軸があれば、地域の中心的なものとなっていくはずですよね。
どんな街でも、喫茶店やお店、本屋などが、そういった何かしらの役目を背負っている気がします」

ただ植物を見に来るだけではなく、宮内さんはじめスタッフの方やボランティアさんたちの「顔」が見える。それが、『渋谷区ふれあい植物センター』の大きな魅力にも思える。

「たまにボランティアさんたちには、『仲良くしている男女には、どこから来たのなどと話しかけて恋路を邪魔するな』『一生に一度の植物園かもしれないから、いらない家庭の話で30分間もつかまえるな』って注意することもあるんですが(笑)。おもしろいと思ってくださる方が一定層いる限りは、このままでいい気もしています。
植物園の役割も色々で、うちは研究・保全・保管といった仕事は請け負っていません。『植物センター』と名乗っているとおり、人間と植物との間、人間と植物園との間に立つ施設であることを目指してます。うちにきて植物園をおもしろいと思ってもらえたら、全国各地にある他の植物園をご紹介する、そんな観光案内所みたいな役割を担いたいと思っています。もっとも、場末の無料案内所みたいな雰囲気を醸し出していますが……(笑)」

「A. インドア派」「B. アウトドア派」といった質問に答えることでおすすめの植物園を紹介してくれるチャート。
各地の植物園のパンフレットが充実している。

渋谷ながら生活感のある東エリア

じつは筆者は9月7日から10月3日にかけて、ここ『渋谷区ふれあい植物センター』の館内で、渋谷を「路上園芸」目線で紹介する展示を開催中だ。

展示に際し、宮内さんと一緒に植物園周辺を散策し、発見した路上園芸風景を写真で展示している。

展示「渋谷的路上園芸〜これであなたも路上園芸鑑賞家〜」(2021年9月7日(火)〜10月3日(日)まで、『渋谷区ふれあい植物センター』2階展示スペースにて)。展示空間には、植物園スタッフの方が設営した「リアル路上園芸」も。

同園周辺の渋谷東エリアは、人の育てた緑の風景が随所に見られる。都会のイメージのある渋谷ながら、「路上園芸」目線で見てみると、意外に人の暮らしを感じられどこかのんびりした雰囲気が魅力だ。

「渋谷駅から恵比寿駅にかけてのこのエリアは、渋谷の中では下町。古くからの住人が、商売をしながら住んでいる地域なんです。高級住宅地みたいに個人の家の敷地内に全て封鎖してしまうのではなく、公共と私のエリアの際がオープンで曖昧な感じが、庶民的な緑の多い理由かもしれないですね」と宮内さん。

確かに、民家やお店の前面が園芸空間となっているのは、東京下町エリアでよく見られる光景だ。

付近を流れる渋谷川が、また独特の緩やかさを生み出しているようにも思う。

ガードレールにハンギングされるアイビーやポーチュラカ。
渋谷川護岸に置かれた赤いベンチが、ヒメツルソバに飲み込まれそうに……。
護岸のスペースを使って育てられていた、かわいらしいサボテンの鉢植え。

『渋谷区ふれあい植物センター』を中心とした下町的な人の交流や、周りの路上園芸風景を通して確かな生活の匂いを感じると、渋谷という街をより身近に感じるように思える。

「ここがおもしろがられる理由は、渋谷らしからぬ雰囲気が全面に出ている点だと思います。ミヤシタパークや109に行く層の人たちがうちにくると、ギャップにびっくりされるんですが、どこかほっこりもするみたいです。
来場者の方に『渋谷の庭』だと思っていただきたいと考えています。都会に暮らしている方にとっては、ベランダにしかお庭がない方もいらっしゃいますが、そういう方にとって、庭に行く感覚でうちに来てもらえればいいなと思っています。
アフターコロナの生き方として、身近なものにきちんと目を向けることが大切だと思った時、路上園芸を楽しむということは、うちのコンセプトにも通ずるものがあると思いました」

地域の庭として、そして交流の場として、17年間愛されてきた『渋谷区ふれあい植物センター』だが、実は施設老朽化に伴う改修工事のため、2021年内をもって長期休園の予定となっている。

2023年のリニューアルオープン後は、コンセプトや内装ともがらりと変わる予定だ。

今の植物園や植物の姿を味わいたいという方は、ぜひ年末までに足を運んでみてほしい。

取材・文・撮影=村田あやこ