渋谷の新しい表情を生む緑と水のストリート

渋谷発の列車が高架駅から滑り出し、渋谷川沿いを走っていた東急東横線。2013年に地下化すると、渋谷〜代官山間は一気に整備が進み、商業施設が点在するしゃれたストリートに生まれ変わった。

出発点は2018年開業の『渋谷ストリーム』だ。国道246号と首都高の間に誕生した横断デッキは、旧東横線渋谷駅のホームなどの高架橋を再利用し、懐かしのかまぼこ屋根と目玉壁を再現。しかも足元にはレールがスーッと建物内へと延びる。「地上駅の継承だけじゃなく、地上を走っていたという記憶を残すためのオマージュなんです」と、東急電鉄広報の奥野裕真さん。『渋谷ストリーム』のみならず、随所で旧東横線の面影がしのべ、鉄心がうずきだす。

『渋谷ストリーム』と『渋谷スクランブルスクエア』を結ぶ国道246号横断デッキに再現された旧渋谷駅。かまぼこ屋根、目玉壁が復活!
『渋谷ストリーム』と『渋谷スクランブルスクエア』を結ぶ国道246号横断デッキに再現された旧渋谷駅。かまぼこ屋根、目玉壁が復活!
一部本物のレールを敷く2階貫通通路。かつての高架橋の柱番号も。
一部本物のレールを敷く2階貫通通路。かつての高架橋の柱番号も。
『渋谷ストリーム』前の金王橋広場の植栽に、実物の電路柱と東横線の線形オマージュがひそむ。
『渋谷ストリーム』前の金王橋広場の植栽に、実物の電路柱と東横線の線形オマージュがひそむ。

かつてドブ川とやゆされていた渋谷川は、LEDの青い光に彩られて清涼感たっぷり。地元の町会・商店会などの意向を受け、官民連携で再生が実現、開放的な川べり遊歩道へと変貌した。

壁泉から清流復活水が注ぐ渋谷川。新並木橋の南までは川に沿って遊歩道が延びる。
壁泉から清流復活水が注ぐ渋谷川。新並木橋の南までは川に沿って遊歩道が延びる。

しかも、高架柱のあった場所に柱の廃材ベンチやオブジェ、廃駅オマージュが点在し、その合間にキッチンカーが並んで、仕事の合間に憩う人たちの多いこと。また月に一度、屋外イベント「SHIBUYA SLOW STREAM」も開催。移動式ギャラリーやクラフトマーケットが立ち、にぎわいを呼んでいる。

高架だった旧東横線路線再現パーゴラで栽培する、渋谷産ホップでのクラフトビール醸造計画が進行中だ。
高架だった旧東横線路線再現パーゴラで栽培する、渋谷産ホップでのクラフトビール醸造計画が進行中だ。
昭和2年(1927)開業、戦後廃止となった旧並木橋駅ホームが。
昭和2年(1927)開業、戦後廃止となった旧並木橋駅ホームが。
旧東横線橋脚の一部を残し、鉄鋼を組み合わせたオブジェが並木橋に。
旧東横線橋脚の一部を残し、鉄鋼を組み合わせたオブジェが並木橋に。

カーブしていた線路の形をそのまま活かした施設・『渋谷ブリッジ』を抜け、JR線を越えれば、2015年開業の『ログロード代官山』だ。緑豊かな小径にコテージ風のカフェやショップが立ち並ぶ様は、代官山らしさとリゾート感を兼ね揃えた心地よさ。

『渋谷ブリッジ』。かつて地上を走っていた東横線をイメージ。天井にレールデザインのランプ、ホームのような案内板、時計、柱などが印象的。
『渋谷ブリッジ』。かつて地上を走っていた東横線をイメージ。天井にレールデザインのランプ、ホームのような案内板、時計、柱などが印象的。
急カーブだった旧東横線の線形を生かし、建物もカーブするデザイン設計。
急カーブだった旧東横線の線形を生かし、建物もカーブするデザイン設計。
『ログロード代官山』。草木が生い茂る心地いい小径に、コテージ風の店が立ち並ぶ。
『ログロード代官山』。草木が生い茂る心地いい小径に、コテージ風の店が立ち並ぶ。

しかし目を凝らせば、鉄道遺産の枕木が粋に活用され、渋谷との趣の違いを実感する。
かつて遠回りしなければたどり着けなかった近くて遠い代官山へ、のどかに歩ける小径となっている。

小径沿いの土留めにボルトが刺さったままの鉄板が。これは地下化工事の廃材だ。
小径沿いの土留めにボルトが刺さったままの鉄板が。これは地下化工事の廃材だ。
東横線で使用された枕木を土留めや看板に活用。ナチュラルガーデンのよう。
東横線で使用された枕木を土留めや看板に活用。ナチュラルガーデンのよう。

取材・文=佐藤さゆり(teamまめ) 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2021年9月号より