創業68年の老舗ベーカリー

今回、紹介する『ヨシナカベーカリー』があるのは、東急目黒線武蔵小山駅から、少し歩いたところ。武蔵小山といえば、屋根が開閉するアーケードの商店街、パルムが有名だが、『ヨシナカ』はそこから少し離れた、京栄会商店街にある。銭湯好きの人なら、『武蔵小山温泉清水湯』の近くといえば、分かりやすいだろうか。

たくさんの人でにぎわうパルム。

いかにも町パンといった感じの、小ぢんまりとした店舗。しかし、この『ヨシナカベーカリー』は、なかなかすごいのである。

まずは歴史。現店主、吉仲利一さんの父親、初代の吉仲利夫さんがこの地でベーカリーを始めたのが、1953年(昭和28年)。2021年で創業68年の老舗なのだ。実は利夫さんの父、利三郎さんはそれ以前から商店を営んでおり、詳しい年代は定かではないが、『ヨシナカ』は大正時代から商売を続けてきた。

左が二代目の吉仲利一さん。右が三代目の裕一さん。

利夫さんがベーカリーを始めた当時は、まさにこれから経済成長が始まる頃。今でこそ少し寂しい京栄会商店街だが、目黒不動尊に続く後地交差点の近くということもあって、商店が多く並んで賑わっていた。『ヨシナカ』もかなり繁盛していたそうだ。

お店のある京栄会の通り。

そして、2代目の利一さんが店を継いだのが、昭和58年のこと。十条にあった『平和ベーカリー』で昭和51年から7年間、修行をした後に店に入ったのだが、状況は変わりつつあった。各地にスーパーマーケットが進出し、ベーカリーの一人勝ち状態が終わりつつあったのだ。

小売以外の販路を拡大

「うちの近くにある星薬科大学の学生さんがよく行列を作っていたんですが、学食ができてからパタッと来なくなってしまって。これはマズイことになったなと。小売だけではなくて、外で売る道を探し始めたんです」(利一さん)

棚に並ぶサンドウィッチはとにかく具がギッシリ。

その方向はうまくいき、『ライフ』『イトーヨーカドー』で、『ヨシナカ』のパンを販売できることに。現在は『ライフ東馬込店』『ライフ鵜木店』『ライフマチノマ大森店』『イトーヨーカドー大井町店』で、販売している。『ライフ』では、担当バイヤーが「食べてみておいしかったからぜひ」と向こうから声をかけてもらったようで、その言葉は特にうれしかったと利一さんは話していた。

不用意にかぶりつくと具がこぼれます。

また、『ヨシナカ』は近くの名門・都立小山台高校の購買にもパンを卸している。そこで人気なのが、購買の永遠の定番、焼きそばパン200円だ。パンがおいしいのはさることながら、とにかく具材がパンパン。パンパンなのはこれだけではなく、総菜パンやサンド系はとにかくボリュームがあって、見ているだけでもうれしくなってくる。しかも具材は全部、自家製(マヨネーズも!)。「お客さんが喜んでくれるから」がパンパンの理由なのだが、その考え方こそが、武蔵小山で『ヨシナカ』が長く愛されてきた理由なのかもしれない。

すべての人に愛される『ヨシナカベーカリー』

さて、『ヨシナカ』で注目したいのは惣菜系だけではない。甘いパンも、かなり魅力的なのだ。まずはトライアングル162円。チーズクリームを挟んだフレンチトーストなのだが、ほんのり甘い生地がチーズクリームの風味とよく合っている。

しっとりなめらかな生地は、どこかホッとする味わい。

さらには天使のたまご172円。白くもっちりした生地の中に、こしあんとホイップクリームがぎっしり入っていて、手に取るとずっしり重い。クリームもこしあんも濃厚なのだが、甘さのバランスが良くて、パクパクと食べられる。

隙間なく詰められたクリームとこしあんがうれしい!

また、バターを加えた白あんをココアを練り込んだ生地で包んだオランダパンも人気なのだが、残念ながら取材時はまだ調理中で撮影できなかった。利一さんが修行した『平和ベーカリー』の名物で、今も当時のファンが買いに訪れるという一品。タイミングが合えば、ぜひ試していただきたい。

オランダパンの白あんを製作中。

ほかにも定番のあんぱんやカレーパンなどから、季節のフルーツを使ったサンドウィッチなど、若い世代に好まれそうなメニューもラインナップしている。アニメの人気キャラを模したパンもあり、『ヨシナカ』はまさしく老若男女が満足できる、全方位型のベーカリーなのだ。

サンドウィッチ類は270円。

武蔵小山は古くから栄えてきた街だが、駅前の再開発で新しいマンションができたこともあり、若い世帯の住民も多く見かける。『ヨシナカ』では現在、利一さんの息子である裕一さんが三代目として修行中。街も店も新しい力が加わり、これからがますます楽しみなのである。

住所:東京都品川区小山2-14-2/営業時間:7:00~18:00(なくなり次第終了)/定休日:日・祝/アクセス:東急目黒線武蔵小山駅から徒歩8分

取材・文・撮影=本橋隆司(東京ソバット団)