気さくにフラッと入れる駅チカのラーメン店

「2012年にお店を開いて、2021年の10月で9年目ですか。ホントにおもしろい街だと思いますよ、大井町って」――この店で働くスタッフの森 洋介さんは、しみじみとこう語ってくれた。

オーナーの天野太雅さんが「縁あって」大井町に出店したという『濱虎家』は大井町駅の東口から歩いて3分ほどのところにある。クルマ1台が通るのがやっとという細い路地ながら、人の往来が多くにぎやかなすずらん通り。その中心にいるといっても過言ではないのがこの『濱虎家』である。

すずらん通りに入ってすぐに見える豪快な看板が目印。デカデカと書かれた「横浜家系ラーメン」の文字からパンチの利いた味を連想できる。
メニューは食券制。季節限定の味噌ラーメンの紹介など、お店オリジナルのポップがうれしい。

駅からも近く、通り沿いで入りやすいという好立地もあって、取材時も店内には大勢の常連客で大賑わい。皆それぞれにラーメンを注文すると、思い思いのトッピング、そして麺の硬さやスープの味の濃さなどを好みでオーダー。横浜家系ラーメンの専門店ではよく見る光景だが、この店の場合は少々毛色が異なる。

というのも、お客さんとスタッフとの距離が妙に近いのだ。言うなれば、友人の店に遊びに来たといった風情でお客さんがスタッフに話しかけ、スタッフもそれに対して気さくに返す――人と人とのつながりが薄れている昨今で珍しい光景を見たように思う。

お話を伺ったのは厨房を担当するスタッフの森 洋介さん。撮影時もおどけたポーズを取ってくれるほど、気さくな性格で常連客から親しまれている。

横浜家系らしからぬクリーミーな味わいが人気の秘訣に

「ウチのお店はラーメンの味はもちろんですが、それ以上に愛嬌、愛想で勝負しているところもあるんですよ(笑)」と、厨房を取り仕切る森さんはこう語ってくれた。コロナ禍では、さすがに食事中は黙食になるというが、以前はお客さんとお店の交流を積極的に行ってきたという。

その一例として挙がるのが、コロナ禍前まで開催していたお店主催の交流会。バーベキューや飲み会といったイベントごとの際には常連客を招いて、お店で取り仕切って行っていたという。中古車販売店やサーフショップといったお店ならある話だが、飲食店、それもラーメン屋さんでそうしたイベントを開催していたというのは聞いたことがない。そうしたイベントを開いた理由について伺うと、オーナーの天野さんのこんな思いも込められていた。

店内はカウンター席が14席ほど。時を問わずにお店はいつでも大盛況。

「僕にとって大井町って、おもしろい街なんですよ。ビジネス街だから平日だって人はやって来るというのに、休日はファミリー客が中心になってまたやって来る。この街に縁があって出店したわけですが、お店をやるうちにこうした常連客の方々との交流が大切なんだなって気づいたんです。それと近隣のお店とも仲良くさせてもらっていて、お互いに助け合いながら大井町を盛り上げようと取り組んでいるんです」

「大好きな街の人たちにおいしいラーメンを食べてもらいたい」という思いから、お店自慢のラーメンは生まれたといっても過言ではないだろう。横浜家系ラーメンらしく、豚骨と鶏油を使用して作るというスープはほぼ1日がかり煮込むという手間暇がかかったもの。そこに通常よりも太めの麺を合わせたことでこのお店自慢のラーメンが完成する。

お店イチオシのオールスターラーメン930円。味付け玉子1つに海苔6枚、チャーシュー3枚、ホウレン草、そしてうずらの卵とトッピングが大集合!

ひと口スープをすすってみると、横浜家系ラーメン特有のパンチの強さをガツンと感じるよりも、乳化したスープはどこかクリーミーでまろやかな味わいに。これに通常よりも太いという麺がしっかりと絡み合い、濃厚な味わいに。

目にも嬉しい豪華なトッピングを一つひとつ食べ比べつつ、麺をすすり、そして無料サービスのライスを掻き込む……すると、あっという間に丼が空っぽに。横浜家系ラーメンの世界で言う「マクリ一丁」を決めてしまった。

ちなみに『濱虎家』の近辺には『武蔵家』や『武術家』という同じ横浜家系ラーメンをウリしたライバル店があるが、その3店とも以前から交流が強く、麻雀大会や飲み会などを行う仲。それぞれのラーメンを食べ比べ、日々横浜家系ラーメンについて情報交換をしている。大井町の横浜家系ラーメンのお店が本家顔負けのクオリティなのも、ともに切磋琢磨しあうというスタイルにあるのかもしれない。

お客さんのニーズに合わせたラーメン作りを貫く

地域の人たちに愛され、成長していったという『濱虎家』のラーメン。地元ファースト、お客様ファーストの想いが浸透していったのか、今や来店するお客さんの9割が常連客というほど。その年齢層もまた老若男女問わずと幅広く、来店する客は皆、お店独自のサービスカードである「濱虎家マニアカード」を持参してやってくる。

8年間変わらずにこのスタイルを貫いてきた森さんを始めとするスタッフだが、その志は今でも変わらず「お客さんのニーズに応えるラーメン作り」だ。

「例えば、女性のお客様とかだと麺が多すぎるという方がいたりするんですね。そういう場合は麺を半分にさせていただくのですが、代わりにチャーシューを追加してあげたり、ホウレン草が苦手な子供だったら、取り除くだけでなく、代わりに何かを乗っけてあげたり。自分たちだけが得をしないようにという思いは心がけています」

あまりにクリーミーで食べやすかったため、思わずマクリ一丁(横浜家系ラーメンをスープまで飲み干したという意)!

ちなみに取材終了後、「濱虎家マニアカード」をいただいた筆者もまた、自身の財布の中にカードを忍ばせた。次はどのトッピングをお願いしよう……と考えるだけでも楽しくなるお店だった。

住所:東京都品川区大井5-4-13/営業時間:11:00~翌2:00/定休日:年末年始/アクセス:JR・私鉄大井町駅から徒歩3分

構成=フリート 取材・文・撮影=福嶌 弘