『島本』の明太子、はるばる東京へ
編集のシラタキから、小包みが届いた。お礼をするのに連絡すると、「明太子ってどれも同じだと思ってませんか?福岡の島本がいいんです。スーパーで買うのと全然違いますから!」とのこと。
どうやらアンテナショップ巡りにハマって、ご当地グルメで酒を飲む私に気を遣ってくれたようだ。しかも中銀カプセルタワービルに住んでいるため、そのまま食べておいしいものを選んでくれた。感謝、お言葉に甘えていただくとしよう。
明太子って色気を放つ食べものだったっけ…?
袋にむっちり明太子が詰まっていて、なんだか色っぽい。私の知っている明太子とは別格のオーラを放っていて、この段階で一腹の大きさやハリが違い、粒が詰まっているのがわかる。「誘惑」の二文字で頭の中がいっぱいだ。急いで日本酒を冷蔵庫から取り出す。
待っててね、明太子ちゃん。
皿に盛り付けると、一層艶が感じられる。両手を合わせて「ありがたや」と呟き、つけ足すように「いただきます」といって、箸で薄皮を破る。
なめらかさもありながら、プチッと存在感のある粒だち。塩味や唐辛子の辛さは控えめで、優しい味わいながら素材の味を引き立てていて、濃厚。特有の生臭さはなく、調味液の風味が余韻として残るのもいい。どの瞬間にも上質なのが感じられるのだ。
ここに日本酒を少し流し込めば、米と明太子が出会い、甘みと旨味がふくらむ。まるで明太子と米がダンスしているよう!明太子を食べては日本酒を飲む、往復が止まらない。
途中で米にのせずして、どうするのだ!と思い至り、白ごはんを用意。かきこむと、ご飯の湯気とともに明太子の香りが鼻をぬける。噛むほどに米の甘みと明太子の旨味が一体化していき、飲み込む前に深呼吸をしてしまう。明太子ご飯でこんなワクワクするなんて、とびっくりしながら幸せを飲み込んだ。
わがままボディが際立つ、焼き明太子
この粒だち、焼いたらどうなっちゃうの~……!?(少女漫画風)とさらなる期待を込めて、焼き明太子を作ってみる。編集のシラタキから「素材がいいから!焼きすぎ注意!」と言われたなと思い出しつつ焼くとハリが増して、わがままボディが際立つ。箸を差し込むのも、もったいないくらいだ。
そのままかじりつくと、薄皮を破る歯ざわりが心地いい。プチッとした食感がくっきりと感じられ、これまた酒もごはんも進む。
明太子よ……君は今まであった誰とも違う。愛している。少女漫画のように私の背後で明太子色のバラが一斉に花開き、頬が明太子色に染まった。
島本のたらこって、なんでこんなに美味しいの?
リーフレットを読むと、北海道から取り寄せたスケトウダラの卵をひと腹ずつ手作業で加工しているのだそう。無着色で味付けも最小限、高品質な国産たらこ、中でも明太子づくりに適した「真子」を使用している。
実は福岡には明太子を作っている会社は200以上あり、有名ブランドから小料理屋まで、日夜しのぎを削っているのだ。
わがままボディで無着色の薄桃色、昔ながらを守り続ける優しい味わいの明太子ちゃんって、けなげで可愛くて上品で、理想すぎるのでは。ふと、擬人化した明太子ちゃんが脳内をよぎり、優しく微笑んで消えていった。可愛い。
スーパーの明太子と比べてみた
ふた腹の明太子でメロメロになった晩酌から一夜明け、冷静になったので、同じお皿にのせてスーパーで買ってきた明太子と比べてみた。食べているときの恋のような感覚から醒めても、島本の明太子は別格だと改めて認識する。
実際、食べたときのプチっとした食感や旨みの広がり方が全然違うのだ。調味液で作られた色や旨みが感じられるスーパーの明太子は少しジャンクに感じてしまう。(これはこれで好きなのだけど)もはや、別の食べものである。
再び写真をみて、ほわ~んとした気持ちに浸る。残った最後のひと腹は、どうやって食べようか。
こりゃあおすすめだぜ! 罪深きバター醤油明太子ごはん
白ご飯や日本酒でと一緒にいただいてから、焼き明太子。最後はちょっと邪道といわれそうだけど、ほかほかごはんに豆腐、明太子に醤油バターをグワッとかき混ぜていただく。バターと醤油の香りを口いっぱいに感じながら、やっぱり!と頷く。明太子の旨味がバターや醤油に負けないのだ。やさしい味わいながら一本筋の通った明太子にイチコロになってしまった。
実はもう一箱と明太マヨネーズを注文してしまったので、酒もたっぷり買い込んで、うまい食べ方を深めたい。次回は一手間かけたアレンジ料理にチャレンジするぞ。
撮影・文=福井 晶