東京の昔の郷土玩具を忠実に再現

割型にのした粘土を詰める吉田さん。
割型にのした粘土を詰める吉田さん。

北区には伝統工芸の職人が意外と多く、北区伝統工芸保存会の会員は23名(2021年2月現在)。うち赤羽エリアには主に、凧絵(たこえ) 、日本刀の柄巻、江戸表具、そして吉田義和さんの手がける古型今戸人形がある。
隅田川・荒川流域で起こった焼き物「今戸焼」では土人形も作られ、玩具や置き物として幕末~明治時代に流行。吉田さんはそんな全盛期から戦前までの昔の姿を残したいと、古い人形を集め、文献を調べ、遺跡出土品までチェックして大研究。古典に忠実に、約30年一人で制作を続けている。

水に溶かした土を濾(こ)して異物を除く。
水に溶かした土を濾(こ)して異物を除く。

その仕事は粘土づくりから。土は今戸と同じ隅田川・荒川流域の地元のものをわざわざ採取。数カ月かけて丹念に精製し、寝かせて水分を抜き密度を高めて、と手間をかける。のした粘土は石こうの割型にあて、形状に沿って指で探りながら押し広げていく。表裏2枚を合わせ、絶妙なタイミングで抜き出し、バリを削り、800℃で10時間ほど焼成。

型から抜き出した丸〆猫。
型から抜き出した丸〆猫。
電気窯の中には焼いて冷ました人形が。
電気窯の中には焼いて冷ました人形が。

絵付けも昔と同じ泥絵具と膠(にかわ)を用い、植物を煮出した汁を塗り重ねることも。
「私ができることは古い物を手本に自分で原型を起こして型を作るわけで、本物と瓜二つとはいかない。でも諦めずあがき続けますよ」。吉田さんの挑戦の灯は消えない。

手前から、一文雛、娘河童、丸〆狐、 裃雛、狐拳、提灯狐、ぴいぴい(犬)など。 モチーフは豊富だが、猫や狐が多い。中に玉が入りカラカラ鳴る物が多いのも特徴。価格の目安は1体3000円前後。
手前から、一文雛、娘河童、丸〆狐、 裃雛、狐拳、提灯狐、ぴいぴい(犬)など。 モチーフは豊富だが、猫や狐が多い。中に玉が入りカラカラ鳴る物が多いのも特徴。価格の目安は1体3000円前後。

吉田義和さん

1963年、赤羽生まれ。大学時代は絵画を専攻し、前職は美術教員。約30年前から今戸人形の再現を始め、10年ほど前から専業に。今まで作った品数は「数えたことがない」そう。代表作は丸〆猫(まるしめのねこ)で、招き猫の起源といわれる嘉永安政型(写真上)と昭和初期型がある。2016年、日本民藝館展で日本民藝協会賞受賞。

駒場東大前『べにや民芸店』(☎03-5875-3261)をはじめ、王子『くらしの器ヤマワ』、谷中『東京キッチュ』などで販売。問い合わせはimadokiningyo@gmail.com

取材・文=下里康子 撮影=井原淳一
『散歩の達人』2021年6月号より

東京最北端の繁華街として栄える赤羽。その中心部にあるJR赤羽駅は、1日10万人近い乗降者数を誇る要衝駅として、街のにぎわいを支える。 駅の東口には昔ながらの横丁や商店街がドシンと構え、昼間から酔ったオヤジが管を巻いていたり、威勢のいいお母さんたちが井戸端会議に花を咲かせていたり。かと思えば女子に受けそうなバーやカフェもある。駅の西側にはショッピングモールやスーパーマーケットが並び、学生や子育て世代からも人気のエリアだ。