各地のママと盃を交わし、東京の中心で旅気分
今回のイベント「横丁ワンダーランド in Tokyo」を企画したのは「スナック横丁」という団体。彼らは、全国・世界のスナックママとお客さんをつなぐプラットフォームとして、イベント、ツアー、さまざまな企画を通してこれまでにない形でスナック文化の可能性を広げている。
東京スクエアガーデンでイベントを催すのは今年が初めて。各地から集まった12店のスナックがこの場限りの横丁を形成するこのイベント。来場者はファーストドリンク1杯、おつまみセットが含まれるスナック体験チケット(1枚3300円)を事前予約、もしくは現地購入することで、店を自由にはしごできる(2杯目以降のドリンクは各スナックブースで別途購入が必要)。
最初に立ち寄ったのはスナック『道づれ』。普段は渋谷で月に一度開かれている店だという。
迎えてくれたすーじーママは、ラジオパーソナリティであり占い師でもあるという、まさに“話すことのプロ”。福岡出身・東京在住だった彼女は、新潟出身の恋人との出会いをきっかけに、新潟と渋谷を行き来する生活を送るようになった。そのうちに彼女自身もすっかり新潟に魅了され、店に並ぶお酒やおつまみは“新潟縛り”になったという。
県内限定や珍しい日本酒・焼酎などが並び、東京にいながら新潟を旅しているような気分になる。「とにかく人を楽しませるのが好きなんです」。そう語る彼女の言葉通り、カウンターには次々と人が吸い寄せられていく。
お酒を飲みに来ているというより、“会話を浴びに来ている”ような感覚だった。スナックという場所は、ただ飲食をするだけではない。そこには「人の気分を少しだけ軽くする技術」が存在しているのだと感じる。
続いて訪れたのは、国立の『スナック水中』。こちらは会場の中でもひと際にぎわっていた。カウンターの中心に立つのがママの“ちり”さんだ。
彼女は一橋大学在学中、老舗スナックでアルバイトをしていた。そこで先代の節子ママから「就職するくらいなら、この店を継いでほしい」と熱烈に請われたという。もともとのちりさんは、一般企業でバリバリ働きたいというキャリア志向を持っていた。ご両親にも「商売は甘くない」と反対されたそうだ。それでも悩んだ末、卒業後に店を継ぎ、今年で5年目を迎える。
「お客さん同士が仲良くなって、つながっていくのがうれしいんです」。そう話す彼女の表情は、とても穏やかだった。
みんなでにぎやかに盛り上がる夜もあれば、一人で訪れた女性客が、ぽつりぽつりと悩みを吐き出していく夜もある。老若男女が同じ空間に自然と混ざり合い、それぞれの居場所を見つけていく。
「人とつながりづらい時代だからこそ、こういう場所が必要なんじゃないかと思うんです」
ブームを超えて新世代をつかむ文化
SNSでは簡単に誰かとつながれる時代なのに、私たちはどこか孤独だ。けれどスナックには、“目的のない会話”がある。効率も、生産性も、オチもいらない。ただその場にいて、誰かと同じ時間を過ごす。それだけのことが、今はとても貴重なのかもしれない。
イベントは16時〜、18時〜、20時〜の三部構成で、来場者はQRコードを見せてゲートをくぐってから2時間制となっている。12店舗のブースが並ぶ会場内では迷っているうちにすぐに時間が経ってしまう。
そんなわけであっという間の2時間、最後に慌てて立ち寄ったのは、早稲田大学の「レトロ研究会」というサークルが営む『喫茶エイミー』。なんとスタッフ3人のうち2人は未成年で、お酒は飲めない。それでも彼らは「レトロ研究会」の仲間として、スナック文化にもにひかれているという。
昭和歌謡のレコードジャケットが並ぶ店内に、70〜80年代を思わせる彼らの服装や髪型。令和の東京にいるはずなのに、そこだけ時間の流れが少し違って見えた。
昭和的なイメージの強いスナック文化に、若い世代がひかれているという事実がまず面白い。けれど話を聞いていると、そこにあるのは単なるレトロブームではないように感じた。
人と人が偶然隣り合い、他愛もない会話を交わすこと。知らない誰かの人生を少しだけのぞき見ること。効率では測れないコミュニケーションの面白さ。学生たちは、そんな“場”の魅力を敏感に感じ取っているのかもしれない。
スナックは、知らない誰かと「今日」を分け合う場所だった
「横丁ワンダーランド in Tokyo」を運営する「スナック横丁」の代表を務めるのは「スナ女」の異名を持つ五十嵐真由子さん。
元々は楽天トラベル勤務。「その土地を知りたければスナックへ行け」とアドバイスされたことをきっかけに、地方を訪れるたびスナックへ足を運ぶようになった。以来、訪れたスナックはなんと1400軒以上。けれど同時に、高齢化や後継者不足によって閉店していく店も数多く見てきたという。
そもそもスナックは、外から見ると少し入りづらい。常連だけの閉じた世界に見えることも多い。だからこそ、若い人や女性、外国人にももっと気軽に触れてもらえる場をつくりたかった。その思いから、コロナ禍に始めたのが「オンラインスナック」だった。さらに彼女は、ママたちの持つコミュニケーション能力をビジネスやまちづくりにも生かせるのではないかと考えるようになる。
「スナックって、今や日本の大切な文化だと思うんです」。そう語る五十嵐さんに、「もし自分で一晩だけスナックを開くなら?」と尋ねると、少し笑いながらこう答えてくれた。
「地方のスナック街の一角で、ママが長年守ってきた空気がちゃんと染み込んでる店がいいですね。お酒は焼酎だけ! 私が作った麦茶を冷蔵庫から出して、それで割るような」
なんだか、その情景がすぐに浮かんだ。
スナックとは、単なる“飲み屋文化”ではないのかもしれない。誰かの孤独を受け止めたり、初対面同士を笑わせたり、街の記憶を残したり。そんな小さな役割を、長い時間をかけて担ってきた場所。
だから今、若い世代がそこに新しい魅力を見出しているのも、どこか自然なことのように思えた。カウンター越しに交わされる何気ない会話。知らない誰かと分け合う、ほんの数時間。スナックはきっと、「人間らしさ」を思い出す場所なのだ。
次回の「横丁ワンダーランド in Tokyo」は、6月18日(木)〜20日(土)に東京スクエアガーデンで開催予定。少し勇気を出して暖簾の向こう側をのぞいてみれば、そこにはきっと、思いがけない誰かとの出会いが待っている。
「横丁ワンダーランド in Tokyo」開催概要
開催期間:2026年6月18日(木)〜20日(土)
開催時間:16:00~22:00
会場:東京スクエアガーデン1階貫通通路(東京都中央区京橋3-1-1)
アクセス:地下鉄銀座線京橋駅から徒歩1分、地下鉄浅草線宝町駅から徒歩2分、JR・地下鉄東京駅から徒歩5分
公式HP:https://yokochowonderland.tokyo/
取材・文・撮影=yOU(河﨑夕子)





