歳の市の主役が羽子板に!
毎月18日は観世音菩薩の縁日。なかでも一年最後にあたる12月18日は「納めの観音」といわれ、古くから多くの参拝者が訪れた。江戸時代、12月17・18日には人が集まることを見越して正月に必要な門松やしめ飾り、縁起物などを販売する露店が集まり、「歳の市」と呼ばれるようになった。当時は浅草寺以外にも各地で歳の市が開かれていたが、浅草寺の歳の市は江戸随一の規模だったといわれる。ちなみに今なお残る東京の歳の市は薬研堀不動尊の歳の市とこの市だけだ。
江戸時代末期になると羽子板を売る店が増えてきた。羽根つきの羽根は悪い虫を食べるトンボに似ていることから邪気を追い払う縁起物として考えられていた上に、女児の誕生を祝って羽子板を贈る習わしがあったことから、歳の市では人気商品となった。また、江戸の女性たちのハートを鷲づかみにしたのが歌舞伎役者の舞台姿を写した押絵羽子板。綿を布でくるんで立体的に仕上げた色鮮やかな押絵羽子板が飛ぶように売れたという。このようにいつの頃からか歳の市の主役は羽子板になり、現在にいたっている。
江戸の文化を絶やさないために
12月17~19日の3日間、羽子板商が木造建築の小屋を建てて、伝統工芸品の押絵羽子板や羽根などを販売する。歌舞伎役者が描かれた羽子板からその年に活躍した著名人を題材にした世相羽子板まで、多彩な羽子板がズラリ。なかには2mもの大きさがある巨大羽子板も、足を運んでくれるお客さんに見せるために飾られる。
「ここだけの話、出店しても赤字なんです。集まっている羽子板商はほとんどが100年以上続く老舗ばかりで、売上のためではなく江戸文化を残したいという心意気でやっています」と話すのは東京羽子板商組合の水門俊裕さん。会場では江戸時代に流行した歌舞伎のめくるめく世界が繰り広げられ、ミュージアムにいるような感覚で見て回れるのも醍醐味だ。
江戸文化を継承していくためにさまざまな取り組みが行われている。子供たちが自由に絵を描いて仕上げる「お絵かき羽子板」や、手形を押して厄を落とす「手形羽子板」など参加型の手作り羽子板もそのひとつだ。ほかにも東京藝術大学デザイン科の学生たちと羽子板職人がコラボレーションした、斬新な羽子板の展示販売も毎年注目を集めている。
「浅草寺はかつての江戸城から見て丑寅(うしとら)の鬼門にあたるパワースポット。お参りに来たついでに羽子板市をのぞいて、写真を撮ったりして師走の雰囲気を楽しんでもらえれば」と水門さん。職人が手掛ける美しい押絵羽子板だけでなく、羽子板商とのやり取りや売買が成立した際の景気のいい手締めの光景も見られ、江戸の粋な文化を感じることができる。往時を思い浮かべながら、年の瀬の浅草を楽しもう。
開催概要
「歳の市(納めの観音)・羽子板市」
開催期間:2025年12月17日(水)~19日(金)
開催時間:9:00~19:00ごろ
会場:浅草寺(東京都台東区浅草2-3-1)
アクセス:私鉄・地下鉄浅草駅から徒歩5分
【問い合わせ先】
東京歳之市羽子板商組合☎03-3227-8438
URL:https://www.asakusa-toshinoichi.com/hagoita-ichi
取材・文=香取麻衣子 ※写真は主催者提供





