『透明書店』自分に合う働き方を模索する[蔵前]
1版元1枠。同じ枠に並ぶと、それぞれの会社の個性が際立ってくる。
リトルプレスやZINEにも力を入れている
楽しさ、解放、旅、偏愛といったキーワードで選んだ本が並ぶ棚。
個人事業主や小規模事業者などのスモールビジネスを、より深く知るための本を揃える。業種ごとに、始め方、現場の実情、ノウハウなどの本が、エッセイから実用書まで硬軟織り交ぜて分類されているので、自分が目指すものを見つけやすい。また約40社の小規模出版社の本を版元ごとに並べていて、これまでとは違った視点が生まれるだろう。働くことを再考し、より良く生きるためのヒントがある。
店長の遠井大輔さん。入り口の平台に並ぶのは「働くこと自体を考える本」。
2023年4月開店。クラウドサービスを提供する「freee(フリー)」が運営。
遠井さんが感銘を受けた『転職ばっかりうまくなる』(百万年書房)。『ウルトラニッチ』(freee出版)、『本屋・生活綴方のつづりかた』(生活綴方出版部)。どちらも、スモールビジネスを自ら実践した経緯を紹介している。
『透明書店』店舗詳細
住所:東京都台東区寿3-13-14/営業時間:12:00~19:00/定休日:火・水(イベント時は営業時間、定休日変更あり)/アクセス:地下鉄大江戸線蔵前駅から徒歩1分
『書肆スーベニア』古書と新刊が互いに補い合う空間[浅草橋]
新刊コーナーの裏側は、店主の好みがより一層深まるラインナップ。必見。
充実の絵本棚。近隣に新しいマンションが建ち、子育て世代が増えた。
2022年10月に向島から移転。店内も広くなり、小説、歴史、芸能から漫画まで、扱う古本のジャンルも充実した。通勤途中や昼休みに文庫や新書を買ったり、親子で絵本を探したり、地域の人が気軽に立ち寄っていく。入り口すぐの新刊コーナーは「かなり自分の趣味が反映されています」と店主の酒井隆さんは話すが、長く読み継がれていく質の良い人文書が並ぶ。街に一軒あると安心できる店だ。
「新刊は、3年くらいかけてじっくり売っていきたいんです」と話す酒井さん。
三浦半島の漁民文化を紹介した『漁民の芸術 Ⅰ』(サンズイ舎)。都市の広場の成り立ちを読み解く『世界の広場への旅』(彰国社)。店主の最近のおすすめ『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)。
『書肆スーベニア』店舗詳細
住所:東京都台東区浅草橋4-20-2 村井ビル1F/営業時間:12:00~18:30(最新の営業時間はSNS参照)/定休日:月・火・水/アクセス:JR総武線・地下鉄浅草線浅草橋駅から徒歩3分
『古書みつけ』雑多な品揃えは街の活力の証し[浅草橋]
地元の空間デザイナーが内装を手がけた。中央には「みつけの木」が鎮座。店番は知人が日替わりで担当。
地元コーナーには幸田 文、藤沢周平、山本周五郎など。
古民家の2階が編集プロダクション、1階は古書店。地域メディアとして取材を始めたことをきっかけに街とつながりが生まれ、開店に至った経緯はエネルギッシュだ。並ぶ本は地元の人からの寄贈だが、柳橋周辺を舞台にした小説、芥川賞受賞作、海外文学、オカルト、ノンフィクションとコーナーごとに主張があり、見応えがある。本を媒介にして、地域コミュニティがゆるやかに回っている。
代表の伊勢新九朗さんはノンフィクション、特に沢木耕太郎が好き。
開店の源流ともなった『浅草橋FANBOOK』(伊勢出版)。自社で出版した、お仕事ノンフィクション『気がつけば認知症介護の沼にいた。』(伊勢出版)。柳橋の置屋が舞台の『流れる』(新潮社)は、装丁違いも各種揃えている。
『古書みつけ』店舗詳細
住所:東京都台東区柳橋1-6-10 1F/アクセス:JR総武線・地下鉄浅草線浅草橋駅から徒歩3分
『Frobergue(フローベルグ)』唯一無二の空間で世界の絵本を[蔵前]
本棚などの什器も海外から輸入。目を引く天井の照明はライトの位置を変えられる。
『惑星』は、詩人片山令子さんのエッセイと詩の本。店主の中村啓太さんがずっと置き続けたい一冊。
ばらばらになった古い絵本を1ページずつ販売。
扉を開けると外の喧噪が遠ざかる。扱うのは主に海外の絵本で、アメリカ、フランス、ドイツとの取引が多い。絵本は、国や時代によって印刷・造本技術の違いが大きく、絵の力だけでなく、紙の手触りまでを含めた作品であることに気づく。一方で、店外には均一本、入り口には和書の新刊、奥には文芸や人文、生活文化なども揃い、街の気さくな書店の一面も。静かにじっくり本と向き合える空間だ。
左から『森のおひめさま』(ドイツ/オルファース著)、『ABCブック』(スウェーデン/アーデルボルグ著)、『ムキの不思議な木』(ハンガリー/レホツキー著)。1枚1枚の絵がどれも美しく、ページをめくるごとに息をのむ。
『Frobergue』店舗詳細
住所:東京都台東区蔵前4-14-11 ウグイスビル101/営業時間:12:00~18:00/定休日:水(火に不定休あり)/アクセス:地下鉄浅草線蔵前駅から徒歩1分
『YATO』1冊1冊を長く売っていく[両国]
ジャンルがゆるやかにつながる棚をじっくり見るお客さんも多く、3回に分けて来店した方もいるとか。
書店や本について書かれた“本の本”が充実している。
細長い店内の壁に沿って立つ本棚には、新刊書がぎっしり詰まっている。建築、デザイン、ファッション、料理と、ゆるやかなグラデーションでジャンルがうつろうのを追うのが楽しい。選書の視点は店主の佐々木友紀さんがいいと思うものではあるが、お客さんの好みも加味されていて、「書店の棚は街のみんなとつくっていくもの」と話す。訪れる人は、棚を見ることで店主と対話しているのだろう。
2019年1月に開店。佐々木さんは墨田区吾妻橋に2店舗目を準備中。
『日本の都市100年地図』(河出書房新社)、『ミクロ政治学』(法政大学出版局)、『なぜ男女の賃金に格差があるのか』(慶應義塾大学出版会)。値が張る人文書もビビらず買切りで入荷。売れたときは、“対話”が成就したとき。
『YATO』店舗詳細
住所:東京都墨田区石原1-25-3/営業時間:14:00~21:00(日は13:00~)/定休日:水・木/アクセス:地下鉄大江戸線両国駅から徒歩5分
取材・文=屋敷直子 撮影=丸毛 透(透明書店、書肆スーベニア、古書みつけ)、井上洋平(Frobergue、YATO)
『散歩の達人』2024年2月号より
「住みたい街ランキング」でトップ争い常連の街、吉祥寺は、「本密度」が濃い街だ。カフェや居酒屋の有名店も多いが、個性的な書店が数多く営業している。絵本、写真集、アート、サブカルなど、それぞれの得意分野があり、1日がかりで本屋巡りをしてみると、その多彩な品揃えに驚くでしょう。今回はそんな吉祥寺の書店から、新刊書店・古書店とりまぜておすすめを紹介します。