白馬が待つ寺は歴史と遊び心あり『金乗院(山口観音)』
まず訪れた金乗院山口観音は、奈良時代に開かれたと伝えられる真言宗の寺院。なのに境内は、ミャンマーやタイ、中国など多国籍なものや建物が多い。実は、先代住職(現住職・田中政樹さんの父)が、英語が堪能だったことが起因となっている。
「仏教関連の団体で仏教の国に視察に行くと、通訳として父に声がかかることも多く、海外のお坊さんと仲良くなっていきました。それで、ビルマ(現・ミャンマー)のブレイクベルを譲り受ければ、ビルマっぽいお堂を建てて飾っていったんです」(田中住職)
七福神の布袋様が祀られているお堂も中国仕様である。江戸時代に中国のお坊さんが持ってきたものだからだ。五重塔も、日本の雰囲気はない。先代の住職が、中国の大雁塔(だいがんとう)と感動し、それを真似て建てたのだ。
一方で、1200年の伝統を感じさせるものも満載。その一つが「仏国窟」だ。この洞窟の中には、西国三十三霊場の写しの観音様がずらりと並べられている。これらは江戸時代のもので、洞窟を作り、そこに納めた。また、この寺は鎌倉時代に新田義貞が必勝祈願したことで知られる。見た者の視線を離さない木馬は、じつは義貞ゆかりの像なのである。
白い木馬に〝ニンジン絵馬〞を供えよう
西国の御利益まで得られる仏国窟
五重塔も異国情緒たっぷり
ミャンマーのブレイクベルがなぜここに?
ライオンズファン御用達の名刹『狭山不動尊』
金乗院の北東に位置するのが、1975年に開かれた狭山不動尊だ。大きな特徴は、全国の貴重な文化財を保存するために、西武鉄道が集めて配置し、一つの寺にしたという点だ。芝増上寺にあった徳川家の3つの門や、慶長12年(1607)に建てられた第一多宝塔(大阪府高槻市から移築)などがある。すごいのは、移築前と姿形に変化がないことだ。「昔の建物は釘を使わないんです。現地でばらして、こちらで大工職人が組み直すことで、ほぼ同じ形を保てているんです」(今井祐正住職)。
境内を歩くと、やたらと石灯籠が目に付く。芝増上寺にあった徳川将軍家霊廟に奉献された石灯籠である。「かなりの数が境内にあります」と住職は話す。
狭山不動尊には毎年西武ライオンズが必勝祈願をしており、選手の絵馬も奉納している。境内の様々な場所から、西武ドームの屋根を拝むこともできる。西武ファンにとっては〝聖地〞ともいえる場所なのである。
ライオンズの選手が奉納した絵馬
境内にはずらりと石灯籠が並ぶ
移築された2つの多宝塔
3つの門は徳川秀忠ゆかり
格式は高くも、参拝者を飽きさせない仕掛けの多い2つのお寺。その魅力にじかに触れてほしい。
取材・文=永峰英太郎 撮影=岡 克己
『散歩の達人』2020年2月号より