ゼロから始まったパン作り

東日本では随一の規模を誇り、多くの人が訪れる人気の商店街、戸越銀座。東急池上線戸越銀座駅、あるいは都営浅草線戸越駅から歩いてすぐのところに、『ベーカリーホシノ』はある。

看板の人物は四代目とか?

なんとも印象的な看板なのだが、その看板にはしっかりと「EST.1953」の文字が。ここもまた、創業から70年近くとなる、歴史ある老舗ベーカリーなのだ。

ベーカリーとしての歴史は戦後からだが、『ホシノ』のルーツは、現在のオーナー、三代目の星野馨さんの祖父母がこの場所でやっていた定食屋から始まる。この定食屋は戦争中の空襲によって焼けてしまうのだが、そこでベーカリーを始めたのが、馨さんの叔父、シゲオさんだった。

このシゲオさん、どこかでパンの修行をしていたのかと思いきや、なんとまったくの素人。しかしアイデア豊富な人で、戦後すぐでちゃんとした小麦粉が手に入らないときに、ふすま粉(小麦の実の外側の粉)を溶いて入れた容器に電気を流して熱を入れ、独自のパンを作っていたそうだ。

そして、さまざまな試行錯誤の末にベーカリーを始めたシゲオさんだったがしばらくすると弟で馨さんの父である弘さんに店を譲り、自身は人形劇の劇団を始めたりと自由そのもの。最終的にサラリーマンとなってベーカリーから離れ、馨さんの父、弘さんが二代目として後を継いだ。

三代目の星野馨さん

開業当初こそ、パンはまだ庶民になじんでおらず、苦戦が続いた。しかし、地道においしいパン作りに励み、学校給食に卸すなど販路を拡大するなどの努力が実り、店も繁盛するようになった。

そして、1977年、弘さんの後を継いだのが、馨さんだ。

時代に合わせパンを変えていく

老舗の場合、先代の味を守ろうとする場合が多いが、馨さんは自由にやらせてもらえたそうだ。それまでは食パンやコッペパンが主流だったが、だんだんとフランスパンやデニッシュ、クロワッサンの人気が出始めた頃。馨さんも講習会で勉強したり、新しい機械を導入するなどしてパンの種類を増やし、現在の『ベーカリーホシノ』の形になっていった。

とはいえ、店内を見回してみると、カレーパンにメロンパンなどの定番からサンド類が中心で、奇をてらったパンは見当たらない。

「やっぱり、定番は大事にしていますよ。定番だから、パンのグレードをアップしても値段を抑えられる。フルーツのサンドとかを出して、季節感を出すとかぐらいですね」

焼きたてを提供するため、こまめにパンを焼く

町パンは毎日通ってくれて、毎日食べてくれる常連さんが、お客さんのほとんどだ。奇をてらったメニューは敬遠されされるし、値段が高くても避けられる。お手頃な値段で毎日食べても飽きない、クオリティの高い定番メニューが、一番、愛されるのだ。『ベーカリーホシノ』のパンは、町パンとして、まさに正しい姿なのだろう。

牛肉たっぷりカレーパン194円。は人気ナンバーワン
その名の通り、肉がゴロゴロ入っている

四代目に渡された町パンのバトン

66歳の馨さんは、今でも朝は3時に起きて、休憩を入れながらも閉店まで働いているという。

「体にはガタがきていますよ。この前、レントゲンを撮ったら、背骨がズレているって言われましたし。でもやめたところでつまらないし、それじゃ、なんのために生きているんだって、思っちゃいますよ」

基本の食パンも人気のメニュー

ガタがきていると言いながらも、まだまだ店に立つ気は満々。それでも、今は息子さんが後継ぎとして店に入り、業務のほとんどを任せているという。厨房機械も少しずつ新しくしていく計画なのだという。

昭和から平成と、正しき町パンとして続いてきた『ベーカリーホシノ』のバトンは息子さんがしっかり受け取り、令和でも人気店として続いていきそうだ。

『ベーカリーホシノ』店舗紹介

住所:東京都品川区平塚1-7-2/営業時間:7:20~20:00/定休日:日/アクセス:東急池上線戸越銀座駅・都営浅草線戸越駅から徒歩3分

取材・文・撮影=本橋隆司(東京ソバット団)