JR大久保駅の改札。
JR大久保駅の改札。

4階建てビルの各階に神様を祀る

2013年開廟。装飾はすべて台湾から持ち込んで組み立てた本格派。精巧かつ立派な造りである。2020年改装、向かいの建物もお宮として2021年に開かれる予定。さらに隣の建物1階もお宮になるという。この勢い、日本における昨今の台湾ブームが何かしら後押ししているのなら、ちょっとうれしい。

台湾は日本同様、さまざまな宗教が自由に信仰されている。中国を発祥とする道教は代表的な宗教のひとつ。日本人の感覚的にはざっくり神道に近く、沢山の神様を祀っている。この「東京媽祖廟」も4階建てビルを本殿に仕立て、階ごとに神様が祀られている。中心にあるのが「媽祖」さまだ。現地語読みでマーズーと呼び、海洋を守護する女神。台湾では、ことに広く信仰されている。周囲を海に囲まれている事情もあるんだろうか。あちらの街なかを散歩しているとしばしばお目にかかる。台北なら浅草・浅草寺のポジションにあたる龍山寺の奥に鎮座なさる媽祖さまが有名。

台北の龍山寺。
台北の龍山寺。

1~4階、参拝のしかた

「東京媽祖廟」は9〜18時の開門時間内なら誰でも参拝できる。最近では都内で台湾ゆかりの場所を巡るツアーなどに組み込まれ、日本人が団体で訪れる人気ぶり。訊きたいことがあれば1階奥の受付に尋ねてみるべし。

建物の中を静かに見学して回るだけでもかまわないが、せっかくならお参りしていきたいもの。事務所の方に話を伺うと、「媽祖廟は様々な御利益を賜れるし、人種に関係なく日本人の願い事にもこたえて下います」とのこと。ついでに廟内の紹介を受けつつ簡易な拝み方を教えて頂いた。謝謝您である。

 

まず1階入って左手の台に置かれた線香の束を7本引き抜いて頂戴する。無料ではあるが、前方の賽銭箱に志を思いの額納めるべし。側のコンロで線香の先にまとめて火を付け、右手に立てて持つ。これを廟内7箇所に設けた香炉に左手で一本ずつ挿して巡っていくのである(利き手が逆なら持ち方も逆)。

それから、外に出て入り口正面にある「天公爐(てんこうろ)」と呼ばれる香炉に一本、真っ直ぐついと立つように挿し、名前・生年月日・住所を心の中で告げて挨拶。神様はどこの国の言葉でも解するので日本語でかまわないそうな。

ふたたび建物の中に戻り、1階左手奥の階段を登って2階へ。こちらは「關帝殿」で、三国志でも特に名高い登場人物の関羽=關聖帝君を初め、済公、武財神、月下老人、 福德正神、中壇大元帥、太歲星君といった神々が祀られている。

入り口のすぐ脇に祀られている太歲星君の香炉に2本目の線香を立て、やはり名前・生年月日・住所を心の中で告げて挨拶。厄除けに御利益あるので、厄除けを望むなら続けて心の中でお願いする。

部屋の先に進み、關聖帝君を中心に祀られた神々の前の香炉に3本目を立てる。商売・財運・金運にかかわる神様方なので同じ調子で自己紹介し、願い事があれば心の中で告げる。「お金持ちになれますように」なんてざっくりした内容はかんばしくない。「Aさんとの仕事の交渉が成功しますように」とかできるだけ具体的に告げるのが道教での願い方である。

なお、2階に鎮座する「月下老人」は、縁結びの御利益で名高い人気の神さま。1階受付でお願いすれば、本格的な結婚祈願もできるので相談すべし。

続けて3階へ。本殿の「媽祖殿」である。正面に3体並んでいらっしゃるがいずれも媽祖様。台湾と中国の3箇所の古刹から分霊されたもので、同じ神様なのに複数いらっしゃるあたり、興味深い。

両脇にお供の千里眼・順風耳を従え、前方には五營將軍も布陣。2つ並んでおかれた香炉に一本づつ香を立て、自己紹介を繰り返す。御利益は交通安全、旅行安全ほか何でもありなので思いのままに願い事を告げる。

4階は「觀音殿」、観音様はじめ道教の神様として数えられている仏教の神仏の鎮座まします部屋である。

観音、準提菩薩、孔雀明王菩薩、 薬師如来、地藏王菩薩のならぶ壇の前の香炉にお香を一本。これまで同様に自己紹介してお参りする。

残った一本のお香はというと、仏像の壇の下に小さな香炉がある。って、子猫サイズの虎が小銭に埋もれて、物陰からこちらを見つめている。「虎爺将軍」という土地神で、パワフルな金運を授けてくださるという。忘れずお香を立てて、願いを告げるべし。4階は、窓越しに向かいの宮の天井部分の凝った造作も間近で見られるのでこれまた必見。

いずれにせよ、7本のお香を立てたら、お参りは終了となる。

なぜ大久保にあるのか

東京媽祖廟、ビル形のお宮を順に上って行くのは新鮮な体験。古刹の風情はないものの、荘厳な雰囲気の中に派手やかさを持つ道教の寺の、エキゾチックな雰囲気にのまれながらも心落ちつく一時を体験できる。まさに都心の異界といえよう。

異界といえばこれだけ立派な廟が、なぜ大久保の飲み屋街のただ中に建っているのか? 最後に事務所の方に訊ねると、

「媽祖様がご自身で決めたんです」とのこと。

東京媽祖廟の建立に奔走した代表の連昭恵さんの夢に現われ、指示なさったのだとか。そもそも東京媽祖廟は、連さんの夢に媽祖が現れ、あなたは日本で事業を始めて成功を収める、財力を蓄えたら、廟を開きなさいとのご神託を賜ったことに始まる。夢の通りになったのだから大したものである。

この辺りもともと台湾人が多く住んでいたエリアで、それも場所選びに影響しているのかもしれないが、いずれにせよ媽祖様、日本語も解するだけあって、東京通の渋いセレクトである。

帰り道、周囲の散策も楽しいよ。

取材・文・撮影=奥谷道草

住所:東京都新宿区百人町1-24-12/営業時間:9:00〜18:00/定休日:無/アクセス:JR総武線大久保駅から徒歩1分