酒と出汁はセット。必然とも思える出合い
さんたつ読者の皆さんはご存知かもしれないが、出汁と酒飲みは切っても切り離せない関係である。私はひどいとき、飲みに行く前に自動販売機で買ったしじみ汁を飲み、酒の席で出汁割りを飲み、締めに中華そばか味噌汁をすすっている。特に〆に食べるものは、出汁が感じられる料理でないと満足できない。包まれたいのだ。母のようなうまみに。もちろん、ジャンクフードを食べたいと思うときもなくはない。でも、〆料理を食べ過ぎて後悔するのであれば、やさしさにふれたいとは思わないか。
そんなことを言っていたら、出合ってしまった。
茶節(ちゃぶし)だ。
鹿児島の薩摩半島南部の郷土料理で、味噌とかつおぶしを入れたお椀に緑茶を注いだもの。想像に難くないと思うが、うまい。お好みで薬味を入れたり、梅干しを入れるなどカスタマイズでき、家にあるものでインスタント感覚で作れるのもうれしい。
焼酎の出汁割りが美味しいのだから、茶節もいけるに違いない。
ハイにしよう。そうしよう。
「全てをハイにする」とは??
「全てをハイにする」は、自粛期間中の“買い出し”を楽しむために思いついた遊びだ。「何に焼酎を入れると美味しいか」を考えながら、スーパーやコンビニへ行き、オリジナルの「〇〇ハイ」を作る。この遊びによって少し視点を変えるだけで、いつもの売り場が輝いて見える。どこへ行くのも立派な散歩。身も心もハイになれるのだ。
「全てをハイにする」の基本ルールは以下。
ルール①焼酎に入れたら美味しそうなもので割って飲んでみる
ルール②食べ物を粗末にしない
茶節ハイの作り方
「こんなの茶節じゃない!」と現地の方に怒られるかもしれないが、一番簡単でチャレンジしやすい作り方を記す。洗いものを増やしたくないので、マグカップとスプーンがあれば作れる設計だ。用意するものはたった3つ。ほとんどのご家庭にあり、コンビニで揃う材料だ。
・かつおぶし
・味噌(できれば麦味噌)
・緑茶
・焼酎(焼酎なしも最高にイケる)
本来は最後にお椀へ緑茶を注ぐのだが、急須でお茶を入れるのも面倒臭いときがある。ズボラ代表はティーバッグで失礼して、最初に緑茶を作ろうではないか。個人的には濃いめに作るのが好みだ。
続いて、かつおぶしを1パックさらさら。
味噌を溶かし入れる。現地の味に近づけるのなら、麦味噌がおすすめ。
溶け切ったら、焼酎を注いで……
できた。茶節ハイだ。
緑茶で作っているため少し緑がかった不思議なビジュアルだが、一口飲むだけでホッとする。日本で暮らす人々が親しみ深い食材で作るからか、胸にジーンとあたたかさが広がる。そう、母なるうまみがあるのだ。緑茶が入ることで香りも味わいも爽やかになり、味噌の主張が強くなり過ぎず、喉へ違和感なくスルリと入ってくる。椀ものと飲みもののちょうど間をとったような飲み心地だ。
茶節ハイはかつおぶしがつまみになるオールインワン型
私は梅干しハイのように具をつまみながら飲めるチューハイのことを、酒飲みの完全食と呼んでいるのだが、茶節ハイもその典型。底に沈んだかつおぶしをすくい上げてつまみながら、呑み進める。奥歯でギュッと噛み締めると、かつおぶしの香りと味わいがにじむ。
「全てをハイにする」を謳い、焼酎を割る活動をしておいて大きな声では言えないが、この茶節、日本酒で割るとたいそう旨かった。それなら焼酎も負けていられぬと、芋、麦、米と試していたら、楽しく酔っ払った。焼酎で一番好みだったのは米焼酎だけど、酒飲みのいうことだ。たぶん信用しないほうがいい。
まだまだ冷える日が続く。夜中にこれをすすりながら、飲みたりない酒の虫をおさえ、うっかり飲みすぎるのがルーティンになりそうだ。皆さんもお試しあれ。
撮影・文=福井 晶