『東京スリバチの達人 分水嶺東京南部編』

窪地や谷間を起点に東京を再発見!

皆川典久 著/ 昭文社/ 1500 円+税

港区の「薬研坂(やげんざか)」をご存じだろうか。青山通りから赤坂方面へ下る坂で、交通量の多い交差点なので発進をトチるともれなく後続車に激突するような急勾配。ペーパードライバーの私は毎度ドギマギしてしまうのだけれど、実はこの坂は対になっていて、下ったかと思えばまた上る。谷を横切る坂なのだ。谷があるということは、そこを川が流れていたということ。そして、その川は赤坂川を堰(せ)き止めた溜池に注いでいた。現在は川も池もないが、水を溜めるための堰堤(えんてい)の名残が実は外堀通りに残っていて……!!
止まらなくなりそうなのでこのへんでやめておく。しかし、単なる“坂道発進スポット”だった坂の、なんと奥深いことか。地形のことは大して詳しくない私でも、川が流れるように事実がつながってゆく楽しさを味わえて、凸凹地形の魅力に気づかされる(うっかりするとハマる)。それが本書だ。
著者は、『散歩の達人』本誌やWeb「さんたつ」にも登場したことのある東京スリバチ学会会長・皆川氏で、『分水嶺東京北部編』と『東京23区凸凹地図』もあわせて3冊同時刊行! 高低差を可視化した地図と明治・江戸の古地図とを見比べながら、写真も眺めつつ、地理・歴史の詳細かつ幅広い解説を読める。地形好き・散歩好きのバイブルとしてはもちろん、社会科目に頭を抱える受験生にも薦めてあげたいほどの充実度だ。
ちなみに「薬研坂」は東京スリバチ学会発祥の地なんだとか。この本でなじみのあるエリアの秘密を手繰ってみたら、思いがけない事実に出合えるかもしれない。(中村)

『70歳、これからは湯豆腐 ――私の方丈記』

太田和彦 著/ 亜紀書房/ 1300 円+税

居酒屋作家による還暦後の人生論。「無理せず、自然体で、誰かのために」生きるための心得が84編つづられる。日頃の習慣から酒との付き合い、旅や趣味などについての著者らしい視点は、コロナ禍でお出かけが制限された今、自分を見つめ直すヒントになるかも。でも読んでいると、居酒屋に行きたくなること必至です。(土屋)

『明治・昭和・平成の大合併で激変した日本地図 市町村名のつくり方』

今尾恵介 著/ 日本加除出版/ 1700円+税

現在の日本の市町村数は1741。旧名から取ったり、山・川にちなんだ第三の名を採用したりと、合併の度にその名は消え、生まれてきた。本書は中でも驚きの来歴を持つ自治体名をピックアップし、傾向ごとにまとめた一冊。北九州市に生まれ西東京市に暮らした身としては実に興味深く、街に残る痕跡を探したくなった。(町田)

『いつか中華屋でチャーハンを』

増田薫 著/ スタンド・ブックス/ 1600円+税

あんかけカツ丼、中華うどん、オムライスに生姜焼き……。中華料理店のいわゆる「定番じゃない」メニューを求めて食べ歩くコミックエッセイ。味付け濃いめだったり、あんかけたっぷりだったりと各店の工夫はさまざま。「町中華ではとりあえずビールと餃子」派の人も、ほかのメニューが気になってしまうはず!(吉岡)

『散歩の達人』2021年2月号より

『散歩の達人』本誌では毎月、「今月のサンポマスター本」と称して編集部おすすめの本を紹介している。2020年も年の瀬にさしかかり、いよいよそれを一斉公開する時が来たと言えよう。ひと月1冊、選りすぐりの12冊を年末年始のお供に加えていただければ幸いである。