なぜ「自分は方向音痴だ」と思うのか? 自分の弱点を知ろう

吉玉 : 本日は方向音痴を克服する方法を聞きにきました! 私、すごい方向音痴なんですけど、どうしたら改善できますか?

新垣 : 吉玉さんは、なんでご自分が方向音痴だと思われるんですか?

吉玉 : とにかく道に迷うんです。はじめての場所は、地図を見てもどっちに進めばいいかわかりません。

新垣 : 地図を読むのが難しい、と?

吉玉 : そうです。あと、何度か右左折するともう、どっちから来たのかわからなくなります。

新垣 : この建物の入り口がどっちにあったかわかりますか?

吉玉、来たときの記憶を必死に手繰り寄せて「こっちですか?」と指すものの、担当編集の中村嬢は違う方向を指していました。当然、中村嬢が正解です。

新垣 : でも、これはわからない人も多いですよ。来たときの記憶から方向のイメージを掴みやすい人と、そうじゃない人がいますから。得意な方は、動きながら常に位置関係のイメージを頭の中に描いているんですよね。

吉玉 : それって無意識にですか? それとも、常に「こっちが入り口で……」とか考えてるんですか?

新垣 : たぶん、多くの方は無意識だと思います。

吉玉 : 私の無意識、その機能ないです……。

新垣 : では、本を読んで、特定の文章がどのへんに書いてあったかはわかります? 「〇〇に関しては左側のページにあったな」とか。

吉玉 : ? それはわかります。

新垣 : テトリスは? できますか?

吉玉 : テトリスは大丈夫です。

新垣 : なるほど。おそらく平面は大丈夫だけど立体が苦手なんですね。

吉玉 : そうかもしれないです。ちなみに、地理の成績はわりとよかったです。

新垣 : じゃあ知識はあるんですね。

吉玉 : 47都道府県の配置も、東京の地図も、記憶はしてます。でも、いざ自分がその場所に立つと、目の前の景色と地図が結びつかないんです。

新垣 : どうやら吉玉さんは「二次元から三次元への視点の切り替え」が不得意のようですね。これはいろいろ実験してみたいですね……。

「目的地が動く」ように感じるのは、小さな子供と同じ?

吉玉 : ちなみに、この連載の初回に「右左折するたびに目的地が動くように感じる」と書いたんですが、Twitterで「私も!」と共感の声多数でした。

新垣 : 目的地が動く……???

吉玉 : たとえば……

私から見て「右斜め前」に駅があります。(1枚目)
だけど、右折すると……(2枚目)
駅は私から見て「左斜め前」になります。(3枚目)

吉玉 : なので、目的地が動いたように感じて混乱するんです。

新垣 : はぁ~、なるほど……!! あの、本当に、とっても苦手なんですね……(笑)

方向音痴の研究をされていた新垣教授にとっては「あるある」かと思ったのですが、とても驚かせてしまいました。目的地が動くみんな、我々はかなりヤバいのかもしれません。

新垣 : 自分が動いてるのではなく、地面が動いてるように感じるんですか? 天動説と地動説みたいな。

吉玉 : もちろん、目的地じゃなく私が動いてるのは理解してますが、どうしても脳の処理が追い付かないというか。

新垣 : なるほど。実は、小さな子供は自分を中心にとらえていて、自分から見ての前後左右で表現するんですね。だから子供に位置関係を聞くと、「まっすぐ行って右にコンビニがあって……」と、言語的に理解したものをそのまま表現する子が多いんです。

吉玉 : 私、子供だ!

新垣 : でも、多くの場合は成長するにつれて「家がここなら、駅はここで、学校はここ」というふうに、上から見た配置を図のイメージで理解できるようになるんです。

吉玉 : そうなれませんでした……。どうしても映像記憶が弱くて、ぜんぶ言語化して覚えてるんです。「ドラックストアの角を右」とか。だから同じ道順でしか歩けないし、目印のお店が変わったらお手上げです。

新垣 : 長く住んでいる街でもですか? はじめは覚えられなくても、その街で暮らしているうちにそれぞれの建物の配置がわかってきて、俯瞰で見た図をイメージできるようになると思うんですが……。

吉玉 : 今の家に住んで5年なんですけど、日常的に行動してる範囲ですらその図を描けないです。

新垣 : じゃあ、自分の家の中はわかります?

吉玉 : 家の中!?

新垣 : ご自宅の間取図です。描けますか?

その場で間取図を描いてみました。一応描けます。
その場で間取図を描いてみました。一応描けます。

新垣 : 間取図は大丈夫そうですね。街も同じですよ。上から見た家を描くように、上から見た街を描く。家のまわりから少しずつ範囲を広げていくイメージです。

吉玉 : 私が家の中を把握してるのと同じくらい、みなさん街を把握してるんですか!?

新垣 : いえいえ。街は全体を見渡すことはできないので、そこまでではないと思います。

大切なのは「視点を移動させるイメージ」

吉玉 : 「上から見た街をイメージする」のは私にはハードルが高いです。どうしたら、できるようになりますか?

新垣 : そうですねぇ……私から見て右はどっちかわかります?

吉玉 : はい、私から見て左なので。(※新垣先生は私の正面に座っていました

新垣 : それはすぐわかるんですね。

吉玉 : あ、でも知識として「正面にいる人の左右は自分の反対」って知ってるからかも……。

新垣 : 「視点をこっちに持ってきたらどう見えるか」のイメージはできますか?

吉玉 : なんとなく……。

新垣 : その延長線上だと思うんです。今、頭の中で視点を180度回転させて、私から見た右を想像したんですよね? それと同じ要領で、今度は視点を上に持ってくるイメージです。

吉玉 : 上から見たらどうなるかを、イメージ……?

中村 : 吉玉さん、イメージすることのイメージがつかめてませんね……。

あなたはわかる? メンタルローテーションテスト

吉玉 : 俯瞰で見たイメージを持つのが苦手なのは、脳の仕組みで決まるんですか?

新垣 : 一概には言えません。でも、視点を移動させるのが得意な人と苦手な人がいる、というのはありますね。たとえばメンタルローテーションテストも、得意不得意が分かれます。

メンタルローテーションテスト。2つの図形が同じかどうかを判断します。
メンタルローテーションテスト。2つの図形が同じかどうかを判断します。

新垣 : これはよく「図形を回転させる」って言うんですけど、自分の視点を移動させる考え方もできますよね。こういった空間的なイメージの操作が得意かどうかっていうのは個人差がありますね。

吉玉 : これ、この前ネットで見つけてやってみたんですが全然わかりませんでした。

新垣 : じゃあ、これはわかりますか?

そう言って新垣先生が出してきたのは一冊の本。その帯にはこんな問題が。

吉玉 : ……?

中村 : 87じゃないですか?

新垣 : 正解。これ、反対側に座っている私からはすぐにわかるんです。

吉玉 : あぁ~!

新垣 : 自分の反対側から見たらどうなるのか。それをイメージできるかどうかですね。

illust_12.svg

メンタルローテーションテストが散々だった私。

どうやら

  • 視点を移動させる能力
  • 位置関係を俯瞰で思い描く能力

が低いようです。

これらの能力は今からでも身につけることができるのでしょうか……?

次回は、新垣教授のアドバイスを詰めこんだ解決策編! 方向音痴の方は必見です!

 

文=吉玉サキ(@saki_yoshidama) 図=絵と図 デザイン吉田(@etozudeyoshida

 

 

この連載が、本になりました。

大幅な加筆修正と書き下ろしエッセイを加えて単行本化!
大幅な加筆修正と書き下ろしエッセイを加えて単行本化!
ライター・吉玉サキが方向音痴克服を目指す体当たり連載「グーグルマップを使っても迷子になってしまうあなたへ」が、大幅な加筆修正と書き下ろしエッセイを加え、単行本として発売されることになった。発売予定日は5月21日(金)。発売を記念して、5月10日(月)からTwitterキャンペーンも実施される。