清潔そのものの脱衣所と湯殿
1959年に創業。1990年ごろに建て替えられたものの、番台はそのまま残し、富士山のペンキ絵やタイル絵も残っている。入り口正面には、まず横向きに傘を入れるロッカーがあり、これも珍しい。靴入れも昔ながらの木札の錠付き。
男湯・女湯に分かれた入り口を入ると、高い位置に番台がある。女湯の脱衣所は、暖簾(のれん)がかかり外から見えないようになっている。脱衣所にはロッカーが並び、レトロなマッサージチェアや柱時計、商店名入りの鏡、女湯にはおかま式のヘアドライヤーがある。
昭和30、40年代を彷彿させるような懐かしい雰囲気だ。清掃が行き届いていて清潔なのも、とても気持ちがいい。
店主の松柳貴夫さんは2代目。高校生の頃、初代のお父様が病に倒れ、銭湯を継ぐことになったそう。現在では奥様と二人で切り盛りしている。銭湯一筋、40年以上も続けてられた秘訣を聞いてみた。
「長く通ってくれているお客さんがいるから、ここまでやってこられました。本当にありがたいです。お客さんありきですね」と松柳さん。
お客さんは近隣の住民が一番多く、たまに近くにある船橋市場の関係者や、最近増えてきた外国人も来るという。
富士山のペンキ絵に安芸の宮島のタイル絵
湯殿の壁には銭湯伝統の富士山が描かれている。男湯は鮮やかなブルーが美しい野尻湖からの風景、女湯は大瀬崎からの風景だ。いずれも、今では日本に3人しかいないという銭湯のペンキ絵専門の絵師が描いたもの。男湯には安芸の宮島の風景を描いたタイル絵がある。カランは21個。
地下水を汲み上げ、薪で沸かしたお湯
水は汲み上げた地下水を使い、薪で炊いている。水は鉱泉に近い水質とのこと。温度を一定に保つように営業中は火を絶やさないので、ずっと安定して温かい。体の芯まで温まると評判だ。
銭湯の一日は午前中に掃除を済ますと、昼に軽トラで薪となるパレットなどの廃材を集め、午後からボイラーに火を入れ湯を沸かし始める。
開店は15時30分。それから閉店の23時半まで、奥さんと交代で番台に立つそう。その間も火を絶やさずに薪をくべるので、想像以上に大変な作業だ。「冬は、お湯の温度が下がりやすいので薪の消費量も多くなります。それでも昔のお客さんが多かった頃よりは、少なくなりましたね」と松柳さん。
湯船は3つに分かれており、その一つが漢方薬入りの薬湯「実宝湯」。十数種類の漢方薬が入っており、冷えや肩こりなどに効果があるそう。他に微細な泡が出るミクロン気泡風呂がある。薬湯は43℃、白湯は41℃なので、熱い湯が苦手な人にもおすすめだ。
銭湯に来たら必ず飲みたくなるフルーツ牛乳はパック(1個130円)で、そのほか千葉県の銭湯で作ったトートバック900円も販売。船橋市内の銭湯と協力して、銭湯のスタンプラリーなどのイベントも行っている。
近所にあることはわかっていても、習慣がなければなかなか入る機会がないという方も多いかもしれないが、ぜひ『宮の湯』は試してみてほしい。
取材・文・撮影=新井鏡子