備長炭で焼く筑波地鶏を使った大ぶりの焼き鳥
店は、蒲田駅西口から続くサンライズモール商店街のアーケードを抜けた先にある。ビルの2階で看板も控え目なので見つけにくいかもしれない。そんな立地なので常連客が大半を占める。店主の高林正隆さんと奥さんの二人で切り盛りする店は、気取りがなく、すぐに打ち解けられそうなアットホームな雰囲気がある。
使用する鶏肉は、筑波の広大な飼育場でオーガニック飼料で育てた筑波地鶏。毎日新鮮な鶏肉を仕入れ、1本1本串打ちする焼き鳥は、柔らかくジューシーで鶏肉本来の旨味を感じることができる。
店名に「炭」の字を使っていることからもわかるように、焼き鳥は備長炭で焼く。備長炭は火力が強く、遠赤外線の効果で肉の旨味を逃さず香りよく焼けるのだという。外側はほどよくこんがり、中はジューシーに焼きあがった焼き鳥を味わえば、備長炭の効果とともに、店主の熟練の技も想像できる。
レバーとつくねは自信作。タレとの相性もぴったり!
焼き鳥は、正肉、ぼんじり、ささみ、ハツなど、さまざまな部位が揃うが、なかでも高林さんが「自信あり!」と力説するのがレバー。ふっくらと焼けたレバーは粒が大きく、臭みもなく、タレとの相性もいい。
つくねは、鶏肉と鴨肉のミンチ、玉ねぎ、ユズ、タレを混ぜ合わせて、手練りする。注文を受けてから店主が串に巻きつけ、形を整えて焼く。口の中で感じる粗挽きした鴨肉の食感もいいアクセントになっている。生の状態から焼くので時間がかかるが、待つだけの価値がある一品だ。
レバーやつくねを味わっていて、タレのおいしいさが際立っていることに気づいた。「都内の有名店から譲り受けたタレを、毎日継ぎ足しして使っている」と高林さんが教えてくれた。長年の鶏の脂や旨味が加わり、焼き鳥の味をいっそう引き立てるのだという。
鶏肉本来の旨味を引き出すフランス産の塩を使った塩焼き
続いて正肉を塩で食べてみた。この店で使う塩は、ブルターニュ地方のゲランド塩田のもの。職人が機械をほとんど使わない伝統的な製法で作っているのだという。塩焼きは、素材そのものの味がストレートに伝わってくる調理法。言い換えれば、鶏肉の良し悪しがわかる焼き方ともいえる。さてその味は? 歯ごたえのある食感、ジューシーな肉、備長炭の香りもほのかに感じる。筑波地鶏の持ち味が十分に引き出された上品な味に仕上がっている。
メニューの中に、焼き鳥屋には珍しい料理を発見した。ごま豆腐だ。毎日、奥さんがゴマを練って作っているのだという。これを目当てに訪れる客もいるという人気メニューの一つで、単品のほか、コースにも必ず組み込まれる。たしかに、少し脂っこい焼き鳥の箸休めにはちょうどいい料理といえる。
じっくりと、鶏肉本来の旨味を感じられるような焼き鳥を味わいたい。そんな日にぴったりの店だ。
取材・文・撮影=塙 広明