赤の塗料は紫外線に弱く褪色が早いことから、元は赤で強調されていたはずの大切な言葉が逆に消えてしまったことにそこはかとなくこの世の無常、いや無情も感じます。

でも、こんな姿になっても放置されているのには特に理由はないにせよ、何か存在理由があると思うのです。そう、これはクイズやテストの穴埋め問題のように見る側の読解力やマナーの知識を試しているのです。今回はそんな《穴埋め看板》のなかから何問かをここに紹介しましょう。

まずは第1問。この写真を見てください。

Fill in the blanks《空欄を解答しなさい》

「犬の散歩は( ① )をつけて/放さずに!/( ② )は必ず( ③ )ましょう」

犬の飼い主さんへの常識問題ですね。答えは簡単、①は「引き綱」。最近ではリードと呼ばれているものですが、役所や町会が設置するこの手の看板ではあえて古風な名詞で書かれています。

②は「フン」。仮名表記なのは漢字で書くと「く」で始まる悪態っぽい二文字にも読まれてしまうからでしょう。③は「持ち帰り」。ここだけ赤くしたおかげで黒の「ましょう」が残り結果的にいい穴埋め問題になりました。

Dog owners exam 《飼い主検定》

第2問も犬の散歩マナーについての出題です。ほら「引き綱」と書かれているでしょう。しかし、問題なのは次の文章です。

「( ① )に( ② )は忘れずに」。

空白のスペースから3文字と5文字だと想像はつくのですがこれが意外に難しい。「外出前」に「戸締り確認」は忘れずに、ってそれは防犯看板でしょ。「鬼退治」に「きびだんご」? 大喜利じゃありませんよ。

これ、行末に句読点がないので難易度が上がっていますが、実は第1センテンスは3行目までで、「散歩には引綱つけて( ① )に」と「( ② )は忘れずに」の二文からなっているというのがヒントです。ここからは読者のみなさん自身で考えてください[正解は本記事の最後に]。

Too much of nothing《無の無の無》

第3問はよくある標語の三連発看板ですが、残った文字より消えた文字数の方が多いという難問です。

「( ① )の( ② )やめましょう/( ③ )の( ④ )火の用心/( ⑤ )の( ⑥ )かい主が」。

ヒントはゴミ、防火、犬。空白のスペースと文字数は一致していません。

Poser standing still《立ちはだかる難問》

第4問はさらに超難問です。

「( ① )場につき( ② )」

もう四文字しか残っていないんですから、穴埋めどころかもはやクローン技術のような再生が必要です。

そのためには看板本体からではなく生息環境から推理していくことにしましょう。まず、これはマンションの駐車場の駐車スペース以外の場所に置かれていました。①は4文字。あまり聞かない言葉かもしれませんが車の動きに関わること。②には丸い交通標識と漢字4文字が大書された跡が残っていました。狭い駐車場を使っているドライバーならもうわかったかもしれませんね。

Exam preparer《穴埋め問題作成中》

最後に番外として問題作成中の様子を一枚。赤い字がまだ完全に消えていないのですが、看板の状態を観察するとネジの錆具合に年季が入っています。出題にずいぶん時間がかかっているようです。

さらに注意深く観察すると筆で書いた文字といい語尾の文体といいかなり時代を感じさせてくれます。「〜せぬこと」という言い回しはすでに古語の部類に入りそうです。

ゴミ出し用のポリ袋が炭カル入りの半透明袋になってすでに久しい今、それ以前の「ゴミ容器」が水色のポリバケツだったことも遠い昔となりました。街角にひっそりと残されたローカルなマナー看板はその時代、その土地に暮らす人びとが生活の中で抱えていた問題を読み解くための文化史料になりつつあるといえそうです。

写真・文=楠見 清

答え

第2問:①放さず ②フンの始末
第3問:①空缶 ②投げ捨て ③タバコ ④吸い殻 ⑤ワンちゃんの ⑥落とし物は
第4問:①折り返し ②駐車禁止