飯間浩明 著『文字をあるく 街のことば探索』(アノニマ・スタジオ)

飯間浩明 著『文字をあるく 街のことば探索』(アノニマ・スタジオ)2200円。
飯間浩明 著『文字をあるく 街のことば探索』(アノニマ・スタジオ)2200円。

本書は、国語辞典編纂者の飯間浩明さんが朝日新聞beで連載中の人気コラム「街のB級言葉図鑑」をまとめた一冊。辞書編纂の参考に飯間さんが集めた街の言葉は、思わずクスッと笑えるものから「そんな風に使うのか」と感心するものまでさまざま。普段なにげなく目にする看板や貼り紙の文字に改めて注目すると、奥深い魅力がみえてくる。

特に興味深いのは、街の言葉と辞書の切っても切れない関係だ。私たちは「辞書には正解が載っている」と思って引くが、その辞書の正解は、私たちが日頃何気なく使っている言葉が根拠になっていることもあるのだ。

「瞬間」をもじった「瞬感」という炭酸飲料などに使用される表現や、「饅頭」が「万頭」や「万十」、「万じゅう」へと変化する地域ごとのバリエーション。街の文字には、そこに暮らす人の工夫や文化を感じることができる。
また、掲載写真が全てカラーでワイドな点も見どころだ。その文字がどんな環境に置かれているのか、「街の空気感」ごと楽しめるのも良さの一部。見過ごしてしまう街なかの文字を、少し意識するだけでいつもの街がぐっと面白くなる。(奥田)

岡 美里 著『デザイン採集譚 ──「見立て」で読み解く、町の風景。』(芸術新聞社)

岡 美里 著『デザイン採集譚 ──「見立て」で読み解く、町の風景。』(芸術新聞社)2420円。
岡 美里 著『デザイン採集譚 ──「見立て」で読み解く、町の風景。』(芸術新聞社)2420円。

見立てる——「なぞらえる。見なす。……見て選び定める。」(『広辞苑 第六版』より)。対象物を別の何かに重ねること、はたまた確かな目を持って見極めること。本書は、そんな「見立て」をキーワードに、タウン・フィールドワーカーとして活動を続ける岡 美里さんが日本各地を歩き、心奪われた風景・デザインを採集して詰め込んだ一冊だ。採集された風景は銭湯の建築からタコ形の滑り台、野外アート、お弁当まで多岐にわたり、そこに潜む人々の工夫や営みの物語をも読み解いてみせる。著者が「路上観察学会の現代版」を意識しているように、本書には街を観察と表現の場としておもしろがる自由な精神が脈打っていた。

思えば私も、街を歩いてビルとビルの間の極小の隙間を見つけるのが好きだった。まるでグランドキャニオンのような渓谷に思えて、良い隙間を見つけるたびに日常と異界の狭間をたゆたっているような感覚に陥っていた時期があったのだ。あれもまた「見立て」の作用だったのかもしれない。

タイトルに「譚(=はなし、ものがたり)」が意識的に配されていることからも伝わってくるが、これは著者の唯一無二の物語だ。どうしても一つの正解を求めてしまいがちな現代で、「見立て」は自由な世界だよ、ひとりひとりの採集譚をつくりあげていっていいのだよと、著者の言葉と姿勢が私たちの背中を押してくれる。自分だけの風景を集めに、いつもの街を歩いてみたくなった。(桑原)

荻窪 圭 著『古地図と地形図で発見! 明治・大正 東京の〈成り立ちと変化〉を歩く』(山川出版社)

荻窪 圭 著『古地図と地形図で発見! 明治・大正 東京の〈成り立ちと変化〉を歩く』(山川出版社)2200円。
荻窪 圭 著『古地図と地形図で発見! 明治・大正 東京の〈成り立ちと変化〉を歩く』(山川出版社)2200円。

先日、六本木から赤坂、霞ケ関と気の向くままに歩いていって、改めて官公庁街の整った構成に目を見張った。日頃から街歩きをしていると、この区画はどう形作られていったのだろう、とふと考える。そういった、きっと『散歩の達人』・『Webさんたつ』読者もよく抱くだろう疑問を、本書では古地図や当時の写真、そして古道研究家の著者による解説で解き明かしてくれる。江戸から明治への時代の転換期、大名屋敷などの土地がどのように活用されていったか。また、関東大震災を契機とした復興で街がどう変化していき、当時の痕跡が今どのように残っているのか、など、“散歩心”をこの上なくくすぐられる内容だ。

歴史の足跡は、考えさせられることも多い。建物や行き交う人は変わっても、張りめぐらされた道や、地形が織りなす高低差はそう変わっていないこともしばしばある。古い地図と今を照らし合わせて街歩きをするときに、本書ほど頼もしい案内書はないだろう。(阿部)

荒 勝俊 著『日本の狛犬・神使い図鑑』(さくら舎)

荒 勝俊 著『日本の狛犬・神使い図鑑』(さくら舎)2860円。
荒 勝俊 著『日本の狛犬・神使い図鑑』(さくら舎)2860円。

神社の入り口に鎮座している、狛犬。「あ」と「うん」の2匹が仲良く向かい合っている様子は神々しさもありながら、かわいらしくもある。

本書は早稲田大学研究院教授である荒 勝俊先生による“狛犬図鑑”であり、なんとこちらで第3弾とのこと。今回は全国各地の狛犬に加え、神様の眷属(けんぞく)である“神使い”も加わり、相当なボリュームとなっている。

この神使い、ありとあらゆるどうぶつさんが務めており、象、鶴、蛇といった「まあ、わかるよね」みたいなものがいたかと思うと、蛙や蟹のような「おまえ、いけるんか……」みたいなものまで採用されており、そのルール無用っぷりに笑ってしまう。

そして各神社が拵えたであろう神使いの造形は非常にユーモラス。筆者のお気に入りは鳥居の隙間に挟まりペシャってなっている鬼(P.71)と、高級家電のようなすらっとしたフォルムの狸(P.193)である。パラパラと図鑑をめくれば、必ずお気に入りの1体や2体が見つかるはず。みなさまも是非、全国各地でがんばっている神使いの姿に思いを馳せて頂きたい。(守利)

飯野亮一 著『弁当の誕生』(ちくま学芸文庫)

飯野亮一 著『弁当の誕生』(ちくま学芸文庫)1650円。
飯野亮一 著『弁当の誕生』(ちくま学芸文庫)1650円。

誰しもが日常的に食べている弁当。とりわけ日本は、駅弁にも代表されるように独自の文化を築いているとされるが、そのルーツはどこにあるのだろうか?  

著書の飯野先生によれば、奈良時代にすでに弁当の原型ともいうべき乾かした飯を携帯する文化があり、弁当箱の元祖というべき仕切りのある箱は平安時代の中頃に生まれたという。そして、「弁当」という言葉が使われ出した初期の例として、1600年代に記された上杉謙信の戦記を挙げている。私は、先生が上梓された居酒屋、晩酌、すし、天ぷらなどの江戸の町人の食文化に関する著書を読んだことがあったが、今回の弁当に関しては、想像よりも歴史が深くて驚いた。 

注目は「幕の内弁当」の項だ。一般的には、芝居の幕間に食べるのが由来とされているが、先生はその通説に一石を投じている。というのも、そもそも「幕の内」という言葉は、遊山や行楽などの際に、張り巡らされた幕の内側を表す言葉だった。そして江戸時代、花見の宴会の際に幕の中で食べていた弁当が「幕の内」と呼ばれるようになったのだ。「幕の内=弁当」というネーミングが定着し、吉原遊郭では幕の内が商品化され、洒落本の中は名物にも数えられているから面白い。コンビニやスーパーで、なんてことなしに売られている弁当を見る目が変わる、歴史絵巻な一冊だ。(高橋)

石榑督和 著『闇市と東京 Reimagining Tokyo through Black Markets』(創元社)

石榑督和 著『闇市と東京 Reimagining Tokyo through Black Markets』(創元社)8580円。
石榑督和 著『闇市と東京 Reimagining Tokyo through Black Markets』(創元社)8580円。

久しぶりに新宿西口の思い出横丁で飲んでいて、驚いた。日本語ではない言葉をにぎやかに交わす人たちが、スマートフォンで動画を撮りながら狭い路地を行き交っていた。思い出横丁は、すっかりインバウンド観光の定番スポットか。分かります。歩きたくなるし、記録に残したくなる風景です。

さて本書は、戦後の焼け跡に生まれた市場や横丁が、どのように街へと育っていったかをたどる都市史。関西学院大学建築学部の石榑督和准教授が、東京各地の闇市を、フィールドワークに基づいて考察をしている。戦後間もない駅前風景や露天商の写真、新興市場地図や火災保険特殊地図など、貴重な資料の読み解きも興味深い。新宿はもちろん池袋、渋谷、新橋といった『散歩の達人』でおなじみの街も数多く登場し、企画づくりの参考書としても頼もしい一冊。本棚にあれば何度も開くことになりそうだ。

本書で著者が「現在も闇市の面影を感じられる場所」としてまず挙げるのも、冒頭の思い出横丁。フィールドワーク(この場合飲み歩き)と店舗の協力のもと図面を書いていて、楽しそう。(平岩)

構成・撮影=散歩の達人/さんたつ編集部

毎月、「今月のサンポマスター本」と称して編集部おすすめの本を紹介している本連載。街歩きが好きな人なら必ずや興味をそそられるであろうタイトルが目白押しだ。というわけで、今回は2026年9月の“サンポマスター本”7冊を紹介する。
文学作品の表現の一節に“散歩”的要素を見出せば、日々の街歩きのちょっとしたアクセントになったり、あるいは、見慣れた街の見え方が少し変わったりする。そんな表現の一節を、作家・書評家・YouTuberの渡辺祐真/スケザネが紹介していく、文学×散歩シリーズ【文学をポケットに散歩する】。今回は、織田作之助、太宰治、永井荷風、西行の作品・文章をご紹介します。これまでの本シリーズでは、キーワードを設定して、散歩に役立つ気持ちや視点を考えてきました。だが散歩とは具体的な「場所」あればこそ。そこで今回は「聖地巡礼」をテーマに、東京や上野といった実在の場所を描いた作品を味わってみたい。