山形駅からバスに乗って蔵王まで
JR山形駅前のバス乗り場から、蔵王温泉方面へ向かう路線バスが出ている。バスに揺られてうたた寝していると、40分弱で蔵王温泉バスターミナルに到着した。
先に書いておくと、スーパースライダーは雨天・荒天時は営業中止となる。取材当日は厚い雲が空を覆っていて、昼過ぎからは雨予報という状況だった。祈るような気持ちで温泉街を歩く。硫黄の香りが立ち込め、あちこちから湯気が立ち昇っている。
一刻も早くスーパースライダーの乗り場に急ぎたいところだが、どうしても先に食べておきたいラーメンがあった。温泉街の路地に佇む『中華そば 奥村』のラーメンである。山形の友人から「蔵王に行くなら食べた方がいいですよ!」とおすすめしてもらっていたのだ。
私は山形のシンプルで味わい深い醤油ラーメンが昔から大好きなのだが、注文した中華そばはまさにそのイメージ通り。鶏ガラベースの醬油スープは、奇をてらったものではなく、優しく、それでいて深い旨味がある。もちもちしたちぢれ麺の食感も素晴らしかった。
温泉街で昔ながらのラーメンに出会えたことで満足しかけたが、メインの目的はこれからだ。しかも今にも降り出しそうな雨との勝負である。共同浴場を横目に温泉街の緩い坂を上がり、スーパースライダーのチケット売り場へと向かう。
リフトに乗って山の上へ
10分ほど歩いてたどり着いたチケット売り場でスタッフの方に聞くと、「もうすぐ雨が降りそうなので急いだ方がいいかもしれません」とのこと。リフト券とスーパースライダー券がセットになったチケットを700円で購入する。
スーパースライダーに乗るためには、まずリフトに乗ってゲレンデの上まで行く必要がある。そして上りきった先から滑り降りるのである。コースは土管を半分に切ったような形をしていて、山の上から蛇行するようにしてふもとへと続いている。
リフトを降りるとスーパースライダーの乗り場はすぐそこだ。ちなみに、スーパースライダーのソリはリフトの背面に取り付けて上まで運べるようになっている。乗客とソリの両方を一気に運べる効率的なシステムになっているのだ。
乗り場付近にたどり着くと懐かしさが込み上げた。そうそう、こんな感じだった。
私の前にお子さんと一緒に滑り降りていく方がいて、その姿を見送った。
スタッフの方にチケットを渡し、取材に来ている旨を説明して写真を撮っていただいた。「子どもの頃によく乗りに来たんです」と話すと「もう40年以上もやってるんです」と聞かせてくださった。
ソリの中央あたりにレバーがついていて、前に倒すとスピードが増し、後ろに倒すとブレーキがかかるようになっている。今日は靄がかかってコースの表面が濡れているため、スピードが出過ぎないようにゆっくり進むよう、注意を促された。
実際、私は子どもの頃、調子に乗ってあまりにスピードを出し過ぎてカーブを曲がり切れずにコースアウトした記憶がある。そのスリルも楽しいのだが、安全第一、慎重にいこう。徐々に速度を上げていく。大人になった今となっては「こんなにスピード感があるものだったっけ」と驚くばかりだ。のろのろ進む私を子ども時代の自分が軽々と追い抜いていくイメージが浮かんだ。
慎重に滑り降りて、早速、もう一回乗りたいと思った。今度はもっとうまく滑れそうな気がするのだ。しかし、まさに私が滑り降りて間もなく雨が降り出し、その日の営業は終了となった。ギリギリのタイミングだった。
スーパースライダーの歴史を知る
雨を避けながら、運営母体である蔵王温泉観光の小池浩さんにお話を伺った。スーパースライダーの誕生は1983年頃のことだという。まず、1981年にスキー客用のリフトが設置されその2年後に開業したらしい。当初は今よりコースが短く、後になって延長されたとのこと。
1962年以降、蔵王温泉エリアでは山の斜面をゲレンデとして活用するのに加え、小さな動物園やダリア園を作り、周辺一帯をレジャー施設として開発してきた。冬場だけでなく、通年にわたって遊びに来られる場にしようという計画の中で、海外メーカーが製造していたスーパースライダーが導入されることになったのだという。
その後、時代の変化もあり、動物園やダリア園は残念ながら10年以上前に閉鎖され、スーパースライダーだけが残った。
スーパースライダーを今まで支えてきたのは子どもたちからの圧倒的な支持だったと小池さんは言う。「スーパースライダーは、いくらでもスピードが出せるんですね。最終的な安全装置は自分自身で、怖かったらゆっくり滑ればいいし、自信があればもう少しチャレンジしてもいいんです。そういうアトラクションって今はあまりないですよね。時代に逆行しているという(笑)もちろんこちらは安全に遊んで欲しいんですが、子どもたちが『さっきより早く滑れた!』と楽しそうに言ってくれるとうれしいんですよ」と、そんな話を聞き、たしかに、スリルがあるからこそ、自分で限界を見極める力も育つのだろうと思った。ちなみに1分10秒が小池さんの最速タイムで、それを超えたら相当な上級者とのこと。
コース全長は約650mで、昔のパンフレットには「東洋一の長さ」と謳われていたという。コース全体の修繕、ソリのメンテナンスも大変だし費用もかかるため、維持は大変らしいが、小さい頃に滑っていた子が大きくなってお子さんを連れてきたりおじいちゃんが孫と一緒に遊んだりしている姿を見ると「まだやめられない」と思うのだという。
スーパースライダーは、毎年5月の連休にプレオープンという形で営業を開始する。ただ、その頃はまだ周囲に雪が残っているから、コースには雪囲いがついている状態だ。連休が終わると6月から土日祝限定の営業が開始され、7月から8月までは夏休みの連日営業となり、再び土日祝のみの営業に戻って10月初旬まで、というのが例年の流れだという。
リフトをよく見ると、低い位置に張られたワイヤーと、高い位置に張られたワイヤーがあるのがわかる。夏場は低い方にリフトが取り付けられ、雪が降り積もる冬季は高いワイヤーにリフトが取り付けられる。つまり、夏季から冬季に、また冬季から夏季に切り替わる際には、リフトの付け替え作業を行う必要があるのだ。この作業も大変なものだという。
ちなみに、蔵王温泉には東北大学のスキー部の寮があり、冬場はスキーを練習しに学生たちが訪れる。夏場、スーパースライダーの繁忙期に学生たちがボランティアでスタッフとして働いてくれる代わりに、冬場はリフトを無料で利用してもらうという関わりが数十年前から続いているそうだ。
「蔵王は四季折々で表情が変わります。私も何十年もいて、そのおかげでなんとか飽きずにやっています(笑)。地蔵山の山頂まで行く蔵王ロープウェイもありますし、最近では斜面を駆け下りるマウンテンバイクのコースもオープンしました。温泉もありますし、ジンギスカンも名物なんです。蔵王温泉に来れば楽しい時間が過ごせると思ってもらえたらうれしいですね」と小池さんは言う。
温泉に入ったり地酒を飲み比べたり
「よかったら温泉にも入っていってください」とおすすめしていただき、蔵王温泉の名物である「大露天風呂」にも立ち寄ることにした。靄に包まれた木立の中、硫黄の香りの濃い湯に浸かっていると、時の流れがスローになったように感じられた。
ポカポカと温まった後、近くにある『山形酒のミュージアム』にも寄ってみることに。山形県内にある49の蔵元の酒を飲み比べることができる施設で、酒好きにはたまらない。
いくつもの飲み比べメニューが用意され、気に入ったものを購入することができる。私は「隠れた名酒飲み比べコース」を注文してみることに。
その繊細な味わいの差異を確かめながら飲んでいるうち、さっきは温泉に浸かって、今度はお酒を飲むことで、自分の体が山形の風土に馴染んでいくような気がして楽しくなってきた。
その後、山形の友人が車で迎えに来てくれることになり、その気持ちに甘えて周辺をドライブしてまわった。
山形育ちの友人にとってもスーパースライダーは懐かしいものらしく、子どもの頃によく乗ったらしい。それが今も残っているということが改めて貴重なことに思えた。
眺めがいいスポットとして人気だという「西蔵王公園」のベンチで、近くの和菓子屋さんで買った饅頭を食べた。いつの間にか雨が止み、雲の切れ目から山々に日光が降り注いでいるのが見える。
その景色を眺めながら、また山形に来て、今度は天気のいい日に、2回、いや3回はスーパースライダーに乗ろうと思った。
「スーパースライダー」詳細
取材・文・撮影=スズキナオ








