お話を聞いたのは…

足立区立郷土博物館学芸員 多田文夫さん

『足立風土記稿 地区編8』。参考にさせてもらった資料だ。
『足立風土記稿 地区編8』。参考にさせてもらった資料だ。
住所:東京都足立区大谷田五丁目20-1/営業時間:9:00~17:00/定休日:月/アクセス:JR常磐線亀有駅北口から東武バス「八潮駅南口」行き7分の「足立郷土博物館」下車すぐ

車両基地の設置から、この街の歩みは始まった

綾瀬駅には、北綾瀬行き専用の0番線がある。綾瀬と北綾瀬だけを結ぶこの路線は、なぜ誕生したのか。その謎を解くべく、足立区立郷土博物館の学芸員・多田さんを訪ねた。

まず、北綾瀬駅の歴史を語る上で欠かせないのが、『綾瀬車両基地』の存在。古くは江戸時代まで遡(さかのぼ)る。

「もともと草っ原に沼が点在する土地だったんですよ。そこを江戸時代に新田開発して、農村になった」と、多田さん。「昭和30年(1955)ごろから、綾瀬川流域を中心に軽工業が盛んになります。初めは水運で東京湾まで運ぶのが主流でしたが、陸路が整備されると、トラック運送も盛んになった」。当時の写真を見ると、現在の北綾瀬周辺は、一面農村地帯。そこを綾瀬川へ向かって環七が走る。こうしてみると、「運送の通り道」という印象だ。

『足立区立郷土博物館』に飾られている昭和30年代の北綾瀬界隈の航空写真。
『足立区立郷土博物館』に飾られている昭和30年代の北綾瀬界隈の航空写真。

そこへ1969年、営団地下鉄によって、千代田線開業に伴う『綾瀬車両基地』が開設された。「車両を車庫に搬入するための路線で、お客さんを乗せる営業運転はされていませんでした。基地周辺に施設などはなく、職員の通勤も送迎バスで行われる、非常に不便な環境でした」。こうした事情に加え、車庫線建設のために用地を提供した地元住民からは、駅の開業を求める声があった。参考資料の『足立風土記稿 地区編8』には、同年11月の区議会で「車庫を設置したための被害の代償は、車庫線の営業化と新駅設置である」と声が上がっていたと記録されている。車両基地の開業当初から、新駅を求める声は根強かった。周辺の宅地化が進んだ1975年ごろになると、要望はさらに高まり、多くの陳情が寄せられるように。

創業当時の綾瀬車両基地。周囲は農村だ。写真提供=足立区立郷土博物。
創業当時の綾瀬車両基地。周囲は農村だ。写真提供=足立区立郷土博物。
綾瀬車両基地は、駅付近の陸橋から望める。
綾瀬車両基地は、駅付近の陸橋から望める。

こうした要望に応えるべく、営団地下鉄は1979年、ついに北綾瀬駅を開設。綾瀬駅には0番線ホームが造られ、両駅間は3両編成の車両が行き交うようになる。

この運行は約40年間続いたが、2015年に大きな転機を迎える。千代田線10両編成直通化の駅改良工事が始まったのだ。「2005年にTX、2008年に日暮里・舎人ライナーが開業すると、周辺交通の利便性が向上し、足立区全体の人口が増えました。その影響もあって、北綾瀬駅も大変化のときを迎えました」

綾瀬~北綾瀬間が開通した当時の写真。写真提供=地下鉄博物館。
綾瀬~北綾瀬間が開通した当時の写真。写真提供=地下鉄博物館。
綾瀬0番線からは旧式の3両編成が走行していた。写真提供=地下鉄博物館。
綾瀬0番線からは旧式の3両編成が走行していた。写真提供=地下鉄博物館。
代々木上原から直通車両は10両編成だ。
代々木上原から直通車両は10両編成だ。

そして2019年、千代田線10両編成の直通運転が開始。これを機に、利便性が大きく向上し、人口増加も進んだ。さらに、2025年6月には『三井ショッピングパーク ららテラス北綾瀬』が開業し、連日多くの人でにぎわっている。かつての「終着駅」のイメージから、今や都心へ向かう「始発駅」として認識されつつある。

『三井ショッピングパーク ららテラス北綾瀬』。
『三井ショッピングパーク ららテラス北綾瀬』。
北綾瀬駅前にはペデストリアンデッキが誕生。
北綾瀬駅前にはペデストリアンデッキが誕生。
住所:東京足立区谷中4-8-1/営業時間:物販は10:00~21:00、フードコート・レストランは11:00~22:00、スーパーマーケットは9:30~、カフェは~22:00/定休日:不定/アクセス:地下鉄千代田線北綾瀬駅北改札からペデストリアンデッキで直結

「今後、北綾瀬はコンパクトに、多極的な進化をしていくでしょう。足立区全体に言えますが、全域を一気に開発するのではなく、小さなエリアごとに特徴的な街ができて、足立区全体がアップデートされるのだと思います」

車両基地の街としてスタートした北綾瀬の進化は、まだ始まったばかり。これからの変化が楽しみだ。

北綾瀬 超絶進化年表

1969年 綾瀬車両基地 誕生

1979年 千代田線北綾瀬駅 開業

—— 40年続いた3両シャトル時代 ——

2015年 10両直通化へ駅改良工事開始

2019年 千代田線10両編成直通運転開始

——「ただの終点駅」から「都心直通の始発駅」へ——

2021年 M’av 北綾瀬Lieta開業

2025年 三井ショッピングパーク ららテラス北綾瀬 開業

Next  北綾瀬の進化は続く…

綾瀬駅0番線の謎

ホームのできた順番だけでいえば「5番線」ではあるが、1番線の片隅に存在しているため、乗客が混乱しないよう「0番線」と名付けられた。鉄道駅という観点から見ても、全国に数えるほどしかない、希少な存在と言えるだろう。

取材・文=どてらい堂 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2026年9月号より

※本記事中の見解および説明は、取材時の学芸員へのインタビューに基づくものであり、東京メトロの公式見解を示すものではありません。

2024年の11月頃、酉の市の起源と言われている足立区花畑(はなはた)の花畑大鷲神社に行こうと思い地図を見ていたところ、その近くに気になる場所を見つけた。毛長川(けなががわ)と伝右川(でんうがわ)、綾瀬川の3つの河川が集まる合流地点があり、河川に囲まれた三角地帯の先端は「桑袋(くわぶくろ)ビオトープ公園」となっている。いったいどんな風景が広がっているのだろうと気になり、訪れてみることにした。さらに足立区花畑から綾瀬川を渡り埼玉県八潮市に向かうと、そこにもまた河川の合流地点があることに気づく。今回は川や用水の流れに沿って歩きながら、その合流地点を巡る散策となった。
食のプロが行き交い、真剣な目つきで品定め。目利き戦場「足立市場」が設ける2カ月に一度のスペシャルデーは、一般人もウエルカム。どでかい保冷バッグを肩に担ぎ、いざ、出陣じゃ!
「夫はもともと、ベトナムの5つ星ホテルの厨房で働いていたんですよ」妻のチャン・ティ・ハーさんはそう自慢する。その腕前を見込まれて、夫のグエン・ズィ・トアンさんが日本のベトナム料理店に招聘されたことから、ふたりの東京暮らしが始まった。グエンさんはそこで腕を振るい、チャンさんは留学生として日本語を学びはじめた。2005年のことだ。