いろんな世代が交流を育む、ユニークな都民農園
行き交う中央線を畑越しに望む秘密基地のようなこの場所は、2022年開設の『わくわく都民農園小金井』通称、わくわく農園だ。地域に残る農地を生かしながら、小金井市観光まちおこし協会を中心に、地域のさまざまな人たちが関わる都市農園としてスタートした。
都民農園といえば、一般的には貸し農園が主流だが、ここはちょっと、いや、だいぶん様相が違う。どうやら小金井の地域性に起因しているようなのだ。
もともとこの地域では、商店会と町会、介護サービス事業などが地域を見守り、支え合う“みん愛ネット”というプロジェクトを組織し、都市農地の保全、高齢者の生きがいづくり、子供たちの遊び場や学びの場、障害者雇用、そして各商店の特産品づくりを行なっていた。そこに『小金井市観光おこし協会』のアイデアも交えて、「農ある暮らし」を軸にした、類を見ない小金井独自の都市農園が誕生した。
わくわく農園には、5つのスタイル異なる農園が共存する。近隣の保育園児が農・食体験できる「共菜園」、福祉事業所と連携する「福祉農園」、小学生が畑を居場所にして過ごせる「こども農園」、シニア向けの「セミナー農園」、地元商店会や町会の共同畑&地域交流の場「地域農園」だ。
事務局の種生芽実(たねおいめぐみ)さんによると、「ここは、スモモ畑や植木園があった頃から、近隣の保育園児の散歩道で、地域の人が農作業を手伝う交流の場」だったとか。それが、わくわく農園になってパワーアップ。
街なかの畑が相続や宅地化の波に呑まれて消えゆくなか、なによりも「畑を残したい」という地域住民の思いが原動力になり、多様な世代が一つの畑に集い、ゆるやかに交流できる場になっている。
食を通して地域で子供たちを育てる「まろん食堂」のアイデア
わくわく農園の存在と取り組みを知ってもらうべく、2023年から始まったのが「まろん食堂」だ。
「前事務局長さんから毎月何かやってよ、と振られたのが始まり」と笑うのは、『PARITALY』店主の江頭みのぶさん。小金井野菜の移動販売にはじまり、農園体験イベントや地域商店を巻き込んだ市の主催、さらには2017年より総菜店『福菜屋』を営むなど、農と地域をつなぐ活動をする小金井野菜の伝道師だ。
そんな江頭さんが、「子ども食堂みたいなことができたら」と、月1イベント「まろん食堂」を企画した。
「まろん食堂」は、テーブルに総菜やおやつを約10種並べたバイキングスタイルで、料金は量り売り。子ども食堂と言いつつも年齢不問で、12時の開店と同時に、親子連れから近隣の年配客までいそいそ列に並び、食べたいものを食べたいだけ取っていく。採れたての旬野菜ゆえ、歯触りも味もしっかりあるものばかりだ。
「ゆでるだけ、蒸すだけでも十分おいしいお総菜になります」
さらに、「まろんチケット」の取り組みが独創的だ。「子供たちだけでもふらっと立ち寄れる、駄菓子屋感覚の場にしたいから」と編み出したチケットは、地域を思う大人や企業などが、事前に1枚500円で購入する子供たちの食事券。見知らぬ子供たちのために、1枚、2枚とチケットを購入していく大人の姿も珍しくない。
大学生までなら誰でもチケットを使って無料で食事できるとあって、子供たち同士で気軽に立ち寄っていく。そして、そのお礼にと、使ったチケット裏面に子供たちがメッセージを残し、月ごとに掲示している。
「この場に訪れる誰かのために」「この場に訪れた誰かから」
温かい気持ちの輪がつながる様を目の当たりにして、じんわり心が温かくなる。
セミナー農園修了生が、農家と消費者をつなぐ
販売棟の外では、『高橋農園』が山盛りの朝採れ野菜の袋詰めに大わらわ。サヤに実がパンパンのエダマメ、紫の肌が艶やかに光沢を放つナス、実がぎっしり詰まったトウモロコシなど、店先に並べた途端にどんどん売れていく。
「小学校のイモ掘り体験のとき、自分ちの畑にきました」と笑う『高橋農園』の下田さんは、聞けば江戸時代から続く農家。少量多品種の野菜に加え、キウイなどの果樹も栽培する。庭先販売もしていて、「エダマメが気に入ってますと声かけてくれると励みになります」と頬をゆるめる。
そんな下田さんを援護するのが、「セミナー農園」修了生たちだ。歴史ある熟練農家から手ほどきを受けての3年間の講習後、晴れて援農サポーターになった彼らの手慣れた仕事ぶりは見事のひと言。
援農サポーターたちは「健康のため」と笑いながらも、畑で仲間たちと作業するのが心底楽しい様子で、地元の農家情報、野菜情報の交換にも余念がない。
彼らを媒介に、小金井野菜の輪も市内随所で広がり始めている。下田さんもそのひとりで、彼らとの交流をきっかけに「まろん食堂」の存在を知り、出店を決めたのだと話す。昔からの地元農家にも、修了生たちが新しい風を吹き込んでいた。
野菜とも地域の人々とも距離が近い子供たち
わくわく農園の向かいもまた、にぎわいモード。「いかがですかー!」の元気な呼び声に誘われれば、大久保農園のイモ畑の端に、「こども農園」の野菜直売店が開いていた。子供たち自ら育てた葉物野菜に、小金井産のウメを使った梅酢などの加工品も並び、立ち止まる人が続出だ。
「こども農園」は市内『まあるいのうえん』が運営する、小学生が存分に外遊びできる畑の居場所。土いじりしたり水を流したり、虫を捕ったりおしゃべりしたり。もちろん、種まきから収穫までの野菜づくりも行い、元気に走り回る様子が印象的だ。
なかでも「まろん食堂」の日は、袋詰めも値札付けも自分たちでして、八百屋さん顔負けの呼び込みで販売する姿がほほえましい。立ち寄る人たちとおしゃべりしたり、ほかの店に顔を出したり。農園を通じて、顔なじみの大人たちを増やしているようだ。
一方、棟内のテーブル席ではカードゲームの熱戦が始まっていた。手元のカードを見てみると、農産物や農具がポップに描かれている。トレーディングカードゲーム「やさいじん」だ。
小金井地域の農業と、防災時にも役立つ畑の役割をもっと知ってもらうべく、2024年に江頭さんが仲間と企画。実在する農家や商店主をモデルにしたキャラクター“やさいじん”の力を借りて、“ふしぎなタネ”を栽培し、収穫するという対戦型ゲームだ。
すると、市内小学校の都市農業を学ぶ授業でも使われるようになり、子供たちから人気に火が着いた。
「小金井の特産が知れるし、みんな、親しみを込めて農家さんをキャラ名で呼ぶようになりました」と、江頭さんは相好を崩す。
しかも、「まろん食堂」をはじめとした市内のイベント開催時には、勝利するとシールがもらえ、集めるとレアカードに交換できるチャンス。子供たちの目は真剣そのものだ。畑やゲームを通して「まろん食堂」は子供たちが遊びから農業を学ぶ貴重な場にもなっている。
畑があるからこそ生まれる、世代や立場を超えた人と人のつながり
風が心地いい木陰の椅子は大人たちの溜まり場で、丁寧に淹れてもらったコーヒーを手に、知らない者同士でも自然と話が弾み、ほっこり和んでいく。
実り豊かな畑の側で、野菜を売って買って味わって——。
わくわく農園は普段から、小金井野菜や果実を用いる『和風ジェラードおかじTOKYO』のジェラート、『ROCK’N KITCHENあいたい屋』のハンバーグ、『燻薫~kunkun~』の燻製マヨネーズなど、地元商店の名物だって手に入り、まったりのどかに畑が中心のコミュニティーが繰り広げられているのだ。
さらに、「共菜園」で園児たちが「絵本に出てくるソラマメを育ててみよう」と土いじりをしたり、「セミナー農園」の受講生が自身の畑を手入れしたり、農業サークルの大学生が手伝いに来たり。
「ここがあるから、いろんな人たちが集まれます」と、種生さんは目尻を下げる。
わくわく農園は、いろんな人たちが日々立ち寄り、同じ時を過ごせる場所。野菜を育てるだけじゃなく、世代や立場を越えて、人とまちとのつながりを健やかに育んでいる。
街なかの畑がみんなの“居場所”としてどんどん広がれば、未来はきっと朗らか。普段歩いている身近な街にも、こんな「農のある風景」がないか、探してみたくなる。
開催日:2026年10月31日(土)・11月1日(日)11:00~17:00
会場:JA東京アグリパーク(JR新宿駅南口から徒歩4分)
イベント主催:一般社団法人全国農協観光協会
野菜や取り扱い品の販売は:10:00~17:00 /定休日:月/アクセス:JR中央線武蔵小金井駅から徒歩5分
取材・文=林 さゆり 撮影=鈴木奈保子 協力=全国農協観光協会







