気取らない店構えに込められた、気楽に食べられる本格中華への想い
綱島駅から徒歩約10分。小学校やマンションが立ち並ぶのどかな住宅街の一角に、『おきらく厨房 桃桃茶寮(たおたおちゃりょう)』はある。パッと見は庶民的な店だが、実はこの気取らない店構えと、店名の「おきらく」の言葉に、誰でも入りやすいお店を作りたいという、店主の思いが込められている。
店内はこじんまりとして、落ち着ける雰囲気。今はコロナ対策にも気を遣っていて、自動ドアは網戸を付けて開放し、各卓には消毒液を置いている。お客さんの人数も、満員にならないよう調整しているという(2020年9月現在)。
店主の小野塚一成(おのづか・かずなり)さんは、かつて横浜中華街の高級店『聘珍楼(へいちんろう)』に15年ほど勤めていたという。『桃桃茶寮』を開店するにあたっては、「化学調味料を使わない」「安全で美味しい食材を使う」など、高級店のこだわりはそのまま維持しつつも、誰でも気軽に通いやすい雰囲気やメニュー作りに腐心した。
点心や中華粥を楽しむ飲茶メニューに加え、定番の棒棒鶏やマーボー豆腐といった一品料理やコースメニューも多彩。さらに、お客さんの要望に応えるうちに、お手頃な麺類・チャーハン・定食、ちょい飲みメニューもどんどん充実していったそうだ。餃子やシュウマイなどの点心は、一皿2つ入り340円~、平日は単品メニューもSサイズを選べ、いろいろな料理を気軽に楽しんでほしいという小野塚さんの心配りがうれしい。
店にはファミリーやサラリーマン、ランチを食べにくるご近所さん、そしてここの料理を気に入り遠くからわざわざ訪れる常連さんなど、実に幅広いお客さんがやってくる。
壁に掛けられた日替わりの「おきらくメニュー」には、旬の食材を活かした創作メニューが並ぶ。料理人一人でこれだけ多くのメニューを提供するのは大変だと思うのだが、小野塚さんはいつもおきらくメニューを何種類も用意している。
「楽しみにしてくれるお客さんのためというのも、もちろんあります。でもこの食材を使ったらどんな美味しいものができるか、なんてことを考えるのが好きなんです」と小野塚さんは語る。変わらぬ定番の味と、毎回出合える新しい味に、何度も通いたくなる秘密があるのかもしれない。
つい頼み過ぎてしまう、高級店顔負けのこだわり料理の数々
まず冷菜からは棒棒鶏750円をチョイス。鳥取の大山鶏を使用したジューシーな蒸し鶏に、花椒が効いた爽やかな辛さのタレがたっぷり。このタレ、市販の練りごまは使わず、3種類のゴマを店で炒って作っているというからこだわりは本物だ。付け合わせがきゅうりでなくレタスや水菜、スライス玉ねぎなのも新鮮。前菜としてはもちろん、おつまみにもぴったりだ。
こちらは小野塚さんイチオシの点心。ドリンクとのセットメニューもあるが、種類豊富な単品メニューもぜひ試したい。エビ蒸し餃子340円は、選び抜いた食感の良いエビを使用し、自家製の皮で工芸品のように美しく仕上げている。ちょっと珍しいモンコウイカの蒸し物550円は、台湾の調味料・沙茶醤(サーチャージャン)を使ったやみつきになる一皿だ。中国茶は480円でいろいろ選べるが、今日は黄金桂をチョイス。お湯の追加もできて至れり尽くせりだ。
一度蒸してからカリカリに焼き色を付けた焼き餃子340円も絶品。やや厚めの自家製皮に、国産SPFポークの肩ロース肉を店で荒く挽いて合わせている。プリッと歯応えがあって、噛めば噛むほど味わい深い。テーブルに用意された中華黒酢をつけて食べるのがおすすめだ。
次は定番の四川マーボー豆腐880円。花椒の痺れる辛さと、甜面醤(テンメンジャン)のコクと甘みが際立つ濃厚な味わいで、食べ進むうちに辛さで汗が噴き出す。生ビールがどんどん進む味付けだ。ご飯とスープ、ザーサイを合わせた四川マーボー豆腐セット900円もお得。辛いのが苦手な人は通常のマーボー豆腐も選べる。
海老のあんかけ焼きそば950円は、プリッとした大きめのエビと、タケノコやきくらげなどの野菜がたっぷり入ってボリューム満点。パリッと焼きあげた中華そばに、化学調味料を使わない優しい味わいのあんがたっぷり絡む。白ワインとの相性も抜群。麺類もご飯ものも種類豊富で、1000円以下のメニューがたくさんあるので、ついつい頼み過ぎてしまうのが難点だ。
スイーツは、杏仁豆腐(280円)など頼みやすいメニューが7種類。トロっと柔らかい食感で、やさしい甘さの杏仁豆腐は、デザートにピッタリだ。
混雑時や定休日にわかる、このお店の愛され度
『おきらく厨房 桃桃茶寮』では、忙しい曜日・時間帯を除いて、調理から接客まですべての作業を小野塚さんが一人でこなしている。そのため、予想外にお客さんの多い日は、料理が出てくるまでに時間が掛かることもある。それでも常連さんは慣れたもので、冷菜をつまみながらのんびりと構えている。待ってでも食べたい一皿が、ここにはたくさんあるのだ。
今回の撮影は定休日に行なったのだが、シャッターが開きおいしそうな匂いがお店の外に流れ出すと、「今日は開いてるの?」と、ご近所さんたちが次々に訪ねてきた。店主の目指した、気楽に立ち寄れる中華料理店の姿を垣間見た気がした。「また来てくださいね」と手を振る小野塚さんは、今日一番の素敵な笑顔を見せてくれた。
『桃桃茶寮』店舗詳細
/営業時間:11:30~14:00・18:00~21:30(土日祝は11:30~14:00・17:30~20:30)/定休日:月曜日(祝日は営業する場合有り)/アクセス:東急東横線綱島駅から徒歩10分
取材・文=岡村朱万里 撮影=岡村武夫