活気あるサンロード蒲田の人気店。誰もが迷う「醤油・しお×あっさり・濃厚」の4枚看板
蒲田駅西口は東急線に並行するように3つの商店街が並ぶ。そのうちの真ん中、アーケードのあるサンロード蒲田はコンパクトな道幅に、活気ある店が並んでいる。そのサンロード蒲田を駅側から150mほど歩いたところにあるのが『中華そば やま福』だ。店の前にスツールが置かれていて、人気店だとひと目で分かる。
店内はカウンター1列に9席とこぢんまり。木材を多用しつつも、壁面の一部に温かみのある色合いのタイルが貼られていて、やさしい雰囲気だ。
『中華そば やま福』は、鶏と貝出汁のあっさりした中華そば(醤油またはしお)と、力強い白湯スープの濃厚中華そば(醤油またはしお)といった4つのラーメンが軸になっていて、4種類とも人気だ。迷いに迷った挙句に今回は、中華そばのしおを選んで、特製トッピングを追加。2枚の食券をカウンターに置いて、店内に漂う出汁の香りに胸を膨らませながら、ラーメンの到着を待つ。
三河みりんのまろやかさがしお味の余韻に。低温調理で仕上げた2種類のチャーシュー
カウンターの中では、スープを雪平鍋で1人分ずつ火にかけ温めている。トッピングの準備は、味付き卵を温め、鶏むねと豚肩ロースチャーシューを切る。麺は蒲田の製麺会社「菅野製麺所」の卵が入っていない中細ストレート麺だ。最後に通常なら2枚ののりが特製トッピングとして4枚、どんぶりに沿うようにそっと添えられた。
どんぶりからは湯気と一緒に鶏と貝類でとったスープのいい香りが立ち上る。その透き通ったスープをレンゲにすくって口に入れた瞬間はクリアに塩気をしっかり感じるが、その後はほんのり甘さが残る。
国内外の8種類の塩をブレンドしたしおダレには、愛知県の三河みりんが加えられていて、その柔らかな甘さが余韻のように感じられる。
特製トッピングで2枚ずつのっている鶏むねチャーシューと豚肩ロースチャーシューは、どちらも低温調理で火を通したものだ。この2つ、調理法はほぼ同じなのにまるで異なる。
鶏むねチャーシューは、しっとりしていて肉の繊維を感じないような柔らかさ。あごの力を必要としないような噛み心地に驚く。
豚肩ロースチャーシューは、厚みがあってしっかり肉を食べた満足感がある。単体でローストポークのように食べられそうなほどうまみを感じる。
喉越しのいい中細ストレート麺と相性のいいスープは、最後まで飽きない。幅広い年齢層の人が、心地よく食べ切れるだろう。いつの間にか飲み干してしまいそうだった。
「社長に内緒で……」賄いを常連客に提供。コロナをきっかけに専門店へ
『中華そば やま福』は蒲田で2009年から営業している『やきとん 豚番長』の系列店だ。その創業メンバーで、現在『中華そば やま福』の店長を務める井口敬太(いぐちけいた)さんは、まさか自分がラーメンを作ることになるとは思っていなかったと話してくれた。
そもそも、『中華そば やま福』のラーメンは、かつて営業していた系列店の洋風バルで勤務していたスタッフが、賄いとして作ったことが発端だ。ラーメン店での経験があったそのスタッフが手がけた賄いラーメンの存在が、いつの間にか常連客に伝わり「食べてみたい」とリクエストされた。
井口さん曰く、「バルでラーメンを出したら社長に怒られるかもしれないからって、最初はこっそり」ラーメンを提供。ほどなく社長の耳にも入り、「やるのなら、ちゃんとやってくれ」という指示が飛び、イベントのようにラーメンデーが行われるようになった。
そうこうしているうちに訪れたのがコロナ禍だ。アルコールの提供ができなくなったバルで、ラーメンを押し出した営業が行われることになった。すると噂を聞きつけたラーメン好きが「ときどきしか食べられないのがもったいないほどおいしい」などとSNSに投稿。2021年2月の『中華そば やま福』のオープンにつながり、激戦区蒲田で存在感を示すようになった。
週末には家族で訪れる人も多く、「あっさりと、こってりの両方があるので、どちらの気分の人も一緒に食べに来られるお店になっていると思います」と井口さん。一方で、限定メニューにも力を入れている。井口さんは「意外な素材をラーメンに取り入れたら好評で、素材の奥深い味も分かるようになりました」と限定メニューを開発する楽しみを話す。カキやカニ、サワラやホタルイカなどいろいろな魚介を取り入れたり、初夏から始まる冷やしラーメンには、ローストトマトをトッピングしたりと、季節感がある変わり種も好評だ。
コアとなる4つのラーメンが裏付ける実力。訪れる人がこの店の限定麺を食べたいと心ひかれるのも無理はないだろう。まずは4種類のうち残り3種類の制覇を目指して再訪したい。
取材・文・撮影=野崎さおり




