母から娘へと引き継がれたシフォンケーキの味
約25年間営んだ池袋の店を閉めて、現在の若林に移転したのが2022年。娘の照美さんが菓子職人となり、2人で切り盛りするようになってからも、池袋時代はすごく忙しかったそう。「マイペースに続けながら、地域に愛されるケーキ屋さんになりたい」「もう少し広い店舗にして教室も開きたい」。そんな夢を抱き、移転先を探していたとか。
住宅地の奥まった場所にある一軒家。小さな看板を手がかりにたどり着き、扉を開けると、カフェスペースとその片隅にショーケースが現れる。
「まさかこんなところにお店があるなんて、と思われていたのか、近隣住民の方々にもなかなか気づかれませんでした」
そう言って「ふふふ」と笑う照美さん。それでも着実に知られるようになり、「今では、誕生日のホールケーキを注文してくれるお客さまも増えました」。
休日は、池袋時代の常連客が足を延ばして来てくれることも少なくない。「子供の頃からお誕生日のケーキを注文してくれていた子が、相変わらず頼んでくれます。先日、もう20歳になったよって取りに来てくれたんです」
一方、平日は近所に住む人が多い。子供連れや、なかには定期的に通う90代の男性も。
「カフェで本を読みながらコーヒーとケーキを楽しんでいます。帰りにおみやげの注文をしてくれたり、お孫さんと一緒に来てくれたこともあります」
クリームとフルーツで飾り付けられた美しいシフォンケーキ
シフォンケーキと聞いてパッと思い浮かぶのは、どんなケーキだろう。クリームなどで装飾されていない、あの横たわった三角柱のケーキがシフォンケーキだという人も多いかもしれない。それも間違いではないが、ここにはそのよく知られたシンプルな形のものだけではなく、きれいにデコレーションされたシフォンケーキたちがずらり。ショーケースの明かりがスポットライトのように照らし、トッピングのフルーツがキラリと光る。
一番人気は、創業時からあるフランボワーズシフォンケーキ。生地の中にたくさんのフランボワーズが散りばめられ、頬張ると甘みと酸味がほのかに舞う。キメの細かい生地はふんわり柔らかく、それでいて味の輪郭ははっきりしていて、口の中で溶けるようになじむ。一つひとつの素材が最大限生かされつつ、かと言ってそれぞれの主張がぶつかり合うのではない、全体として味わい深さを形成している。
「私自身、作ること以上に食べることが好きなんです。実際に食べてみて素材そのものの味がしないと、物足りなく感じてしまう。何を食べているのかちゃんと伝わるものを作りたいと思っています」
例えば、フランボワーズシフォンケーキの場合は、生地にふんだんにフランボワーズを入れる。しかし、果肉は水分を含むので、あまり量を入れると生地が膨らみづらくなるそうだ。逆に量を減らすと味が物足りなくなる。フランボワーズをたくさん入れて、なおかつ生地をふっくらさせるため、試行錯誤を重ねた。
ちなみに、食感が変わってしまうのでベーキングパウダーは使わない。肝心なのは「消えにくいメレンゲを作ること」だとか。しかし、強いメレンゲだと生地は膨らむけれど固くなる。逆にそうでないと崩れやすくなる。その間にある絶妙なポイントを探すのが肝心だ。
作り手の「好き」が結集した素直な味わい
のり子さんは、元々趣味でケーキを作っていたとか。東京に来る前、地元で照美さんを育てていた頃、プロのパティシエが一般向けに開いていたケーキ教室に、息抜きがてら月1回通い始めたのが始まりだ。それから、照美さんが中学生の頃にアメリカ人の英語の先生がいて、「一緒にケーキを作ろうと、先生が母を誘ったんです。その時に作ったのがシフォンケーキ」。それをきっかけに、のり子さんはシフォンケーキ作りに夢中になったという。
「私が大学進学で上京すると、子育てから解放された母は一年間フランスに研修に行きました」
好奇心旺盛なのり子さんはいろいろなパティスリーを巡り、さまざまなケーキを食べ、どういう材料が使われているかしっかり見てきた。
「それで、帰国してから店を始めたんです」というから、その行動力にびっくり。かつて飲食店を営んだ経験はあったものの「ケーキ作りに関してはほぼ独学です」。つまり、『La famille』のシフォンケーキから感じられる味わい深さは、のり子さん、そしてその後を引き継ぐ照美さん、2人の人柄や職人としての思いが純粋に表れたものだと言っていい。
作り手の肩肘張らない「自分らしさ」が詰まっているからこその、唯一無二性。「食べるのが好き」と、好きが高じてやっていることなので、食べる側も難しいことを考えず無邪気に「おいしい」と思える。これって、実はすごく大事なこと。『La famille』のシフォンケーキを食べれば、きっと素の自分に戻れる気がする。
取材・文・撮影= 信藤舞子







