港へと下りて貯炭場の跡へ
池島は島の中央部から西側へと団地群のエリアとなります。炭鉱開発以前、団地の場所には田畑が広がり、集落は北側に形成されていました。
団地群を抜けて道路を進んでいると、左手に炭鉱施設の遺構が景色を独占しています。奥の給水塔は現役で、西彼杵(にしそのぎ)半島から海底水道を伝って上水が配水されています。島は周囲約4kmと、さほど広くはありません。道路は下り坂となって右へ折れると、前方は五島灘が広がっていました。その先は西彼杵半島です。
左へ目をやると柱が等間隔で立っています。産出された石炭を運んだ桁の柱で、一帯は貯炭場の跡です。ジブローダーと呼ばれる大型機械が長らく朽ちていましたが既に解体されており、その姿は見ることができません。地面は黒く、石炭の残骸が残されていました。
ジブローダーは自走式で、細長い貯炭場を行き来しながら石炭をベルトコンベヤーへ積んでいました。貯炭場の跡は空き地になっており立入禁止ですが、港沿いの道路から見えます。
貯炭場沿いに等間隔で橋脚が立ち並んでいるのは、ジブローダーのレールを支えた橋桁があった名残。港へと迫り出す建物は石炭船へ積み込む施設で、トリンマーと呼ぶ石炭船積み機がありました。トリンマーも既に解体済みであり、土台の建物だけが残るために、何に使用されていたのは分かりづらい遺構となっています。
道路沿いに炭鉱トロッコの軌道に出会う
道路は港を囲みながら右へと曲がります。この一帯で前方に軌道が見えました。トンネルの坑口もあります。閉山した炭鉱に軌道と坑口がしっかりと残されているのは珍しいですが、ここが坑内体験ツアーで使用される炭鉱トロッコです。
トンネルは実際に使用されていた坑口で、ツアーはここを潜って坑内探検をするのです。トンネルの上部は貯炭場とコンクリートの擁壁が聳(そび)え、沈殿装置であるシックナーの丸いコンクリート構造物が鎮座していました。
ツアーは午前と午後に実施され、炭鉱トロッコが道路沿いの軌道を走行します。島内唯一の“鉄道”と言えましょう。ツアーのガイドさんが申していましたが、軌道も路盤が緩くなって脱線しやすくなるため、時化で欠航しツアーが中止となった2日間で、軌道の補修を実施したとのこと。作業はガイドである元炭鉱マンの手で行いました。そうやってツアーの安全も保たれてきたのですね。
軌道を眺めながら、広場へ到着。フェリーから降りた桟橋の近くです。この地点で島内をほぼ一周したことになります。炭鉱の現役時代は、団地と関連施設が数棟建っていました。跡地には「メェ〜」と威勢よく鳴くヤギが飼育されています。
また、島内に点在していた銭湯はこの場所に唯一残り、風呂無しアパートに住む住民の貴重な場となっているとともに、炭鉱の時代から現役の施設でもあります。宿からは距離があるものの、旅人でも利用することができます。
歓楽街は緑の中へと消えていく
さて、島内をぐるっと一周した後は、もう一カ所寄ります。火力発電所から分岐する道路を下っていくと、石炭ガラの「ボタ」の埋め立て地と五島灘が望めました。市営住宅が1棟ポツンと建ち、倒壊しかけた家々が左手に存在します。
郷地区と呼ぶ、元来から池島にあった集落で、戸建て住宅によって町が形成されていましたが、ほとんどの住民が退去し、今は荒れるに任せる家々が続きます。この地区には江戸時代は鎖国政策により、外国船や抜け荷を監視するため、池島小番所が設置されていました。
郷地区は島の歓楽街でもありました。飲食店、居酒屋、床屋、パチンコ店、スナック、旅館などの店舗が住宅に混じり点在し、北側の斜面と谷間の限られた地に所狭しと建っていました。一部の店は閉山後も営業していたそうですが、その姿は見る影もありません。
谷間の一本道を歩きます。前々回にメインストリートから見下ろした地区は、この場所となります。上から見たときは全ての家が植物に没しているようでしたが、それは斜面に建っている住宅で、しっかりと管理されている住宅も見受けられました。
ただし人様の家なので、道からチラッと見る程度に留めてその先へ進みます。真新しい郵便ポストも現役で、集配時刻も記されています。郷地区も団地と同じように、居住空間でもあるのです。散策の際は注意しましょう。
坂道の歓楽街へ到着しました。若干上ってきて、振り返れば海が望めます。元店舗は朽ち果て、道は植物の侵食によって狭くなっています。訪れたのは冬季のため、草木も枯れて店舗の姿はよく確認できましたが、夏場では草木もすくすくと育って覆われてしまうでしょう。
この道にはパチンコ屋が2軒、旅館、スナックがいくつもありました。崩れかけた戸建ては店だったのか、住居だったのか。もう分かりません。ここには何十、何百人もの人々が日夜訪れ、酒を交わし、カラオケで喉を鳴らし、玉の出る新台を求めて目を凝らしていた記憶が眠っています。
一本道を戻ると「にゃー」「にゃー」猫に囲まれました。ひとっ子1人いない地に猫が10数匹、何かを待っているように佇んでいます。人懐こく寄ってきて、廃屋で爪を研いでいます。郷地区の主役は猫なのでしょう。猫達が集うかつての歓楽街です。
ところで、この旅の帰りは凪でした。が、船が午前中に故障して帰れない状況になりかけたのです。幸いにも修理が完了して運航再開となって事なきを得ましたが、池島へ訪れる際は余裕を持った行程が望ましいですね。
廃なるものを求める者としては冬季の方が草木も枯れてよく観察できるのですが、強風で波浪注意となれば欠航リスクが高まります。来島の際は気をつけて下さい。
取材・文・撮影=吉永陽一









