かつては滋賀県のスキー場「びわ湖バレイ」にも同様のものがあったが、現在は神戸に残るのみとなり、カーレーターといえば須磨浦山上遊園のものを指す。
一番の特徴は激しく揺れることによる“乗り心地の悪さ”で、むしろその欠点があるからこそ、様々なメディアで取り上げられてもいる。私も過去に何度か乗ったことがあり、その強烈な揺れに驚かされた。今回の取材で久々に乗れるのを楽しみにしながら、神戸へと向かった。
須磨浦山上遊園は乗り物天国
須磨浦山上遊園の最寄りは、山陽電車の須磨浦公園駅である。というか、駅のホームに立って頭上を見上げると、山上の公園へと向かうロープウェイの乗り場がもう見えている。改札を出るとすぐ脇にチケット売り場があり、階段を上るとロープウェイに乗ることができる。
チケット売り場に併設された売店をのぞくと、神戸の小学生が学校で使う定番のノートである「神戸ノート」の“カーレーターバージョン”がこのショップ限定で販売されているではないか。ファンとして、もちろん買っておく。
階段を上ってロープウェイ乗り場へ向かう。ここでは「うみひこ」「やまひこ」と名付けられた2台のゴンドラが180m以上もある高低差を行き来していて、乗車時間はおよそ3分と短いが、須磨の海辺を高い位置から見晴らす絶景を堪能させてくれる。
ロープウェイが「鉢伏山上駅」へとたどり着くと、今度はすぐそこにカーレーターの乗り場がある。須磨浦山上遊園は、こんな風に次々といくつもの乗り物が楽しめる場所なのだ。
カーレーターは、2人乗りのカゴがベルトコンベアーのように上へ下へと淀みなく運ばれていく仕組みになっている。決められた乗車位置に立ってタイミングよく乗り込む必要があるため、少し緊張する。カゴの端から長く延びるポールを掴(つか)み、座席に腰を落ち着ける。
無事乗ることができてホッとしていると、カゴ全体が大きくバウンドするように揺れ出して思わず笑ってしまう。「わざとだろ!」と心の中でつっこんでしまいそうな揺れだ。
撮影サポート係として取材に同行してくれた友人が一つ前のカゴに乗っていたのだが、揺れる私を振り返って笑っている。
カーレーターが激しく振動するのは上り方面の乗車直後と下り方面の下車直前で、この揺れは、平面になっている乗降スペースと斜面との間にあるゴム車輪の上をカゴが通り過ぎる時に起こるのだという。逆に言えば、その部分さえ通過してしまえば揺れはおさまり、あとは25度の斜面をグイグイと運んでくれる力強さを感じながら、安心して身を預けることができる。
片道2分20秒の短い旅を終えて出口から外に出ると、当然ながらさっきよりもさらに見晴らしがいい。取材時は天気にも恵まれ、いつまでもこの景色を眺めていたいと思った。
須磨浦山上遊園の森崎さんにお話を伺うと、もともとカーレーターは山上を目指す人の利便性を目的に作られたもので、2026年3月18日で運行開始から60周年を迎えるのだという。開業当初は44台のカゴで運営されていたが、今はそれが18という数になっているそう。ここにしかない乗り物であるため、「部品の調達や機器の微調整に苦労をしております」とのこと。特に2011年に行われたベルトコンベアー部分の改修は大がかりだったそうで、ヘリコプターで部品を運んだという。貴重な乗り物を維持してくれているスタッフのみなさんに頭が下がる。
また、須磨浦山上遊園に訪れる人のほとんどがカーレーターを利用するものの、なんせ激しい揺れがあるため、体調のすぐれない人や妊娠中の方などは、カーレーターに並行するハイキングコースを利用するのがおすすめだそう。
旗振茶屋で具沢山の豚汁を
カーレーターを降りると目の前に3階建ての「回転展望閣」が見える。最上階にある「喫茶コスモス」は全国的にも珍しい“回転レストラン”で、客席フロアが約55分間で一回転する仕組みになっている。ぜひ寄って行きたかったが、お昼時ということもあり、また最近ではインスタグラムやTikTokを通じてレトロな雰囲気が人気を集めているらしく、満席だった。
喫茶コスモスには後でまた寄ってみることにして、階段を上がり、屋上の展望スペースから絶景を眺めた。
回転展望閣の2階はゲームコーナーになっており、インベーダーゲームの貴重な筐体(きょうたい)が現役で動いていたりする。他にも古いゲーム機がたくさんあって、レトロなゲーム機が大好きな同行の友人が喜んでいた。また、フロアの一角には2020年まで使用されていたロープウェイの運転機器が設置されていて、スイッチ類に触れることもできるようになっている。ロープウェイを操作する気分を味わえて楽しい。
1階は休憩スペースになっているのだが、ここには古いジュークボックスが置かれていて、これもちゃんと現役で動作する。取材時は「紅白歌合戦 須磨浦スタッフセレクション」と題した企画で、カーレーター開業当初の1966年から1988年までに紅白歌合戦に出場した歌手たちの曲を聴くことができるようになっていた。
1曲50円で再生できるようなので、たくさんあるリストの中から沢田研二の『時の過ぎゆくままに』を選んでみる。
ボタンを押すと、内部の機械がドーナツ盤を自動でセットして再生してくれる。古いジュークボックスゆえの温かみを感じる音。うっとりとした気分で聴き終えると、フロアにいた方から拍手が起こり、なんだか自分の手柄のようにうれしかった。
そんなことをして楽しんだ後、回転展望閣の脇道から旗振山を目指す。アップダウンのある道を5分ほど歩き、少し息が上がったところで到着。階段を上り切った場所には「旗振茶屋」という山茶屋があり、ここでひと休みしていくことにする。
旗振茶屋は昭和6年(1931)に創業されたお店で、六甲山を登る人々に古くから利用されてきた。現在は土日祝日のみ営業しており、店内で飲み物や軽食などが販売されている。缶ビールと豚汁を注文し、外にせり出すように築かれたテーブル席でそれをいただく。
夢のような景色を見ながら、具沢山の豚汁とよく冷えた缶ビールを味わう極上のひととき。須磨浦山上遊園の素晴らしさは、園内のあちこちから美しい景色を眺められることにあると思う。
旗振茶屋から再び回転展望閣のあたりまで引き返し、リフト乗り場へ向かってみる。このリフトに乗ると、園の北西エリアまで行くことができる。実は旗振茶屋からそのエリアまでは歩いてもそれほど遠くないのだが、せっかくの乗り物旅である。乗れるものにはなんでも乗っておきたい。
リフトからの眺めもまた最高だ。しかもこのリフトは片道4分15秒と、乗っていられる時間も長く、季節ごとに変化するのであろう景色をじっくりと見ることができた。
サイクルモノレールにも乗っておく
「はりま駅」でリフトを降りると、その周辺には「ミニカーランド」「花の広場」「チビッコ広場」などがある。子どもたちが遊んでいる中、自分でも楽しめそうなものをと、まずは「サイクルモノレール」に乗ってみる。大きく外に張り出すように延びたレールの上を漕いでいくスリルと、そこからの景色のよさを同時に味わう。遠く向こうに明石海峡大橋と淡路島が見える。
レールを一周まわって降りる際、スタッフの方が「この季節は『花の広場』には花が咲いていないんですが、梅林の中にほんの少しだけ花が咲いている梅の木がありますよ」と教えてくれた。行ってみると、数日続いていた陽気のおかげだろうか、鮮やかな花が開いている木があった。春を先取りしたようで、なんだか得した気分だ。
周辺をしばらく散策した後、リフトに乗って回転展望閣の方へと引き返す。さっきは混雑していた喫茶コスモスに空席があったので、缶ビールを買って席につく。食べ物か飲み物を注文すると、神戸生まれの彫画家・伊藤太一のイラストをあしらったコースターがもらえるのがうれしい。
目の前の窓からは黄金色の陽光をキラキラと反射する海が見え、まぶし過ぎるほどだ。ビールを飲んでいるうちに、景色がゆっくりと回転していく(回転しているのは私の方なのだが)。この喫茶店もまた、広義の乗り物と言えるのかもしれない。リフトが見えてきて、「さっきまで、あそこにいたんだな」と思う。
いい時間を過ごして、下りのカーレーターに乗る。のどかな須磨浦山上遊園が私は好きだと、来るたびに思う。春になったら必ずまた来よう。そんなことを考えていたらカーレーターが激しく揺れ出して、やっぱり笑ってしまった。
須磨に移動して角打ちで一杯
須磨浦公園駅から山陽電車に乗り、隣の須磨駅で下車する。駅から徒歩5分ほどの距離に『前田酒店』という酒屋があり、ここの角打ちスペースが好きで、私はたまに来るのだ。
今日同行してくれた友人は神戸生まれなのだが、神戸市民の彼にとってみると、カーレーターには(笑)が必ずつくような、ちょっとB級なものとして長らくイメージされていたらしい。それがここ最近ではテレビなどで取り上げられることも多くなり、みんなが面白がってくれているのがわかり、今では誇らしい存在になったとのこと。その友人もかなり久々に乗ったそうで、さっき体感した揺れを思い出して笑いながら「たまに乗るぐらいがちょうどいいですね」と語っていた。
お店の常連さんたちと楽しく話しながらゆっくりしている間に日が落ちていた。店を出て、後に予定があるという同行の友人と別れ、私は須磨の海辺を目指して歩く。
今日、山の上からたくさん見た海を、今度は間近に眺めてみたい。JR須磨駅に併設されたコンビニで缶チューハイをもう一缶買って、砂浜へ向かう。
西の空がまだ暮れ残っていて、優しい色合いのグラデーションが広がっている。向こうの山の上に須磨山上遊園があるはずだから、今もあの場所から、私がいるこの海辺がきっと見えているのだ。そう思うと今日の一日が綺麗(きれい)に繋(つな)がり合った気がして、うれしくなった。
「カーレーター」詳細
文・写真=スズキナオ







