多文化社会のシドニーで出合ったスパイスの魅力

通り過ぎそうになるほど落ち着いた店構え。
通り過ぎそうになるほど落ち着いた店構え。

『amber chai & bake』は2023年5月にオープン。店主の前田紀子(まえだのりこ)さんは、子供の頃から紅茶が好き。お菓子作りや料理も幼少期から続けていた。大学卒業後、オーストラリアのシドニーに9年ほど住んで、現地で友人と飲食店を営んだ経験を持つ。シドニーでの食体験は前田さんに大きな影響を残した。

淡いピンクの壁が落ち着く。
淡いピンクの壁が落ち着く。

オーストラリアは世界有数の多文化社会。前田さんは、ギリシャ、台湾、チリ、ベトナム、イランなど、レストランはもちろん、世界中から来た友人たちの家でも各国の料理を味わった。「スパイスの使い方は、国によってそれぞれ。すごく興味が湧きました」。その結果、自分でもいろいろなスパイスを使って料理を楽しむようになった。

ケーキは3、4種類。マフィンがあるときも。
ケーキは3、4種類。マフィンがあるときも。

帰国したのは2015年。その後も東京で飲食店やサービス業に従事していたが、「いつか自分のお店をオープンしたいという気持ちがありました」。自分1人でできること、他の人より知識があることはなにか。そう考えて生まれたのが、子供のころから好きだった紅茶とお菓子作り、そしてオーストラリアで出合ったスパイスが組み合わさったチャイと焼き菓子のお店『amber chai & bake』だ。

スターアニスの香りが特徴のマサラチャイ

お店の看板メニューはマサラチャイ。チャイに適したアッサムの茶葉と、シナモン、スターアニス(八角)、グリーンカルダモン、ベイリーフ(ローリエ)などを入れて煮出したところに、沖縄のきび砂糖とミルクを加える。飲むと、スターアニス由来のあたたかみのある甘い香りと、ほんのり感じる砂糖の風味が相乗効果となって満足感につながる。

スターアニスは中華の煮込み料理やデザートなどに使われるスパイス。前田さんにとって最初は苦手なスパイスだったが、いつしかすっかり魅了された。「いろんな国の料理を楽しんだことによって、癖のある香りが好きになりました」と話す。台湾出身の友人が薬膳の観点からよく使用していたというが、スターアニスの香りは胃腸を刺激して消化を促進したり、リラックス効果があるそうだ。

キャロットケーキは490円。和食器で提供される。
キャロットケーキは490円。和食器で提供される。

焼き菓子の一番人気はおろしたにんじんとメープルシロップで甘さを加えたキャロットケーキ。生地にはやはり乳や卵を使っておらず、クリームチーズを使ったフロスティングもしていない。その分、ミルキーで食べやすく仕上げたいと、パウダー状のココナッツが生地に混ぜ込まれている。アクセントに加えられているドライクランベリーの甘酸っぱさが際立つのも印象的だ。

心がけているオープンなお店づくり

左側の米粉とオーツのビスケットは小麦、乳、卵不使用。370円。
左側の米粉とオーツのビスケットは小麦、乳、卵不使用。370円。

『amber chai & bake』は広く開かれたお店であることを意識している。パウンドケーキやマフィン、クッキーには、卵や乳製品を使っていない。クッキーのうち1種類は、米粉とオーツを使っていて、小麦不使用。チャイは同じ値段で牛乳、豆乳、オーツミルクから選べる。前田さんに食品アレルギーのある家族がいることもあり、選択肢が増えるようにと考えた結果だ。

「ワンちゃんは一緒に食べたがることが多いから」と準備しているサンカクッキーは300円。
「ワンちゃんは一緒に食べたがることが多いから」と準備しているサンカクッキーは300円。

犬を連れて入店できることも、愛犬家でもある前田さんのこだわり。小さいお子さんや犬も食べられるようにと、小麦粉と少量の油と砂糖だけを使ったサンカクッキーも用意している。

お店の場所が高円寺になった理由は、「オープン前に間借り営業していたのが高円寺で、お客さんや近所の方が、いい方ばかり。いろんな国の方もいて、チャイをメインにしたお店に合っているかもしれないと思いました」とのこと。

訪れる人と自然に会話を交わす店主の前田紀子さん。
訪れる人と自然に会話を交わす店主の前田紀子さん。

2025年時点でオープンしてから2年半。「お客さん同士が仲良くなることもあったりして、見ていると楽しいんですよ」と前田さん。前田さん自身も訪れる人と自然なコミュニケーションを取っていて、チャイを好む人同士が親近感を持って接することも多いようだ。愛犬家同士も自然と話し始める。

木曜と金曜にはチキンカレーを用意していて、近隣に住む人が毎週のように食べにくる。卵にアレルギーのある人も食べられるからと、焼き菓子を手土産に買っていく常連客もいる。

誰もが好きなカレーや、焼き菓子。身近なメニューからスパイスやお店の魅力が伝わっていく。

住所:東京都杉並区高円寺南3-60-10/営業時間:10:00〜18:00/定休日:月・火(祝は営業)/アクセス:JR中央線高円寺駅から徒歩3分

取材・文・撮影=野崎さおり