江戸の粋が木版画に花開く

閑静な住宅地にある建物。
閑静な住宅地にある建物。

『べらぼう』のオープニングクレジットに毎度登場する『アダチ版画研究所』。浮世絵制作の監修をはじめ、職人の出演、さらに復刻版浮世絵の提供を行っている。

「江戸時代の浮世絵は美術館などにありますが、どんなに状態がよくても200年以上前のものなので退色は免れません。私たちは当時の摺(す)りたての色鮮やかさをみなさんに楽しんでいただくことを目指し、再現に努めています。さまざまな資料や実物に当たりながら、理想とする浮世絵の復刻事業を追求してきました」と、同所の企画営業担当・渡邉葵さん。

明るく作品が見やすいショールーム。
明るく作品が見やすいショールーム。

そう、ここは令和の今も木版の浮世絵を手がけ続ける版元兼工房。浮世絵を愛する安達豊久が、「魅力を多くの人に伝えたい」と昭和3年(1928)に創業した。その特徴は、版元と専属の職人が一つ屋根の下で作業する工房スタイル。

「浮世絵は絵師・彫師・摺師、そして版元による完全分業制ですが、私たちの工房では一連の作業を版元が日々確認し、職人と対話しながら制作します。職人も切磋琢磨できるので、より高品質なものづくりにつながります」と渡邉さん。

鉱物の雲母を使い背景を光らせる技法「きら引き」。蔦屋重三郎が多用した。
鉱物の雲母を使い背景を光らせる技法「きら引き」。蔦屋重三郎が多用した。

ちなみに現在は20~40代の彫師2名と摺師6名が在籍。その多くが、併設する公益財団法人の後継者育成事業で研修を受けて採用されたという。

版木には堅くて丈夫な山桜の板、紙は楮(こうぞ)100%で作られる越前の手漉(てすき)和紙。顔料、刷毛、馬連などもすべて江戸時代とほぼ同じものを使い、忠実な技術継承を目指す。そうして今までに復刻したのは、墨一色で摺られた初期のものから、鈴木春信、葛飾北斎、歌川広重、歌川国芳、小林清親など、浮世絵の通史を網羅する1200図以上。謎多き絵師とされる東洲斎写楽の作品は全142図の復刻を遂げた。

東洲斎写楽の「三代目大谷鬼次江戸兵衛」を彫った版木。髪の毛の繊細な彫りに見入る!
東洲斎写楽の「三代目大谷鬼次江戸兵衛」を彫った版木。髪の毛の繊細な彫りに見入る!
使う絵の具は水性の顔料。墨と三原色を基本に混ぜて色を生み出す。
使う絵の具は水性の顔料。墨と三原色を基本に混ぜて色を生み出す。

現代に受け継がれる木版画の表現

が、それだけでなく力を入れるのが現代のアーティストを絵師に迎えて制作する現代の浮世絵だ。1970年代からスタートし現在までに80名以上の作品を制作した。

「江戸時代の浮世絵とはそもそも当時の浮世(現世)を写すものとして作られました。私たちも現代性を最も大切にしたい。それを木版画で表現することにこだわり続けたいのです」

復刻版と並ぶのは、AtsushiKaga、グレン・ゴールドバーグ、ヴィクト・ンガイなどの現代浮世絵。
復刻版と並ぶのは、AtsushiKaga、グレン・ゴールドバーグ、ヴィクト・ンガイなどの現代浮世絵。

浮世絵は決して過去の遺物ではない。伝統は継承されながら、これからも浮世は描かれていく。

住所:東京都新宿区下落合3-13-17/営業時間:ショールーム10:00~18:00(土は~17:00)/定休日:日・月・祝/アクセス:JR山手線目白駅から徒歩10分

取材・文=下里康子 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2025年11月号より