正倉院とは
正倉院とは聖武天皇の宝物を納めるために作られた建物である。
聖武天皇の死後に光明皇后が聖武天皇の宝物を東大寺に献納し、それを納めるために建てられた次第である。
写真にあるこの建物は700年中頃に建てられた実に長い歴史を誇るもので、建物自体が国宝に指定され、古都奈良の文化財の構成要素として世界遺産にもなっておるのじゃ!
東大寺は平家による南都焼討や、戦国時代の三好三人衆と松永久秀殿の戦で大仏殿が消失しておるのじゃが、正倉院は無事に生き残っておる。
元々この地には幾つも正倉が立っておって、故に正倉院と呼ばれておったのじゃが、時代を経て失われていき、現世に残っておるのが一棟のみというわけじゃな!
して、この正倉院が日ノ本一の宝物庫と呼ばれる理由の一つに保存状態が極めて良いことが挙げられるわな。
正倉院が建てられたのは奈良時代、その頃の宝物や文化財の多くは出土品である。
発見された遺跡から発掘されたものということじゃ。
一方、正倉院は1000年以上の間、朝廷の監督のもとで東大寺が厳重に管理しておったことから、美しい姿のまま現世に残っておるというわけじゃ。
ちなみに正倉院の中央と左右では壁の様子が違うことがわかるかの、この段々になっておる左右の壁、この築き方を校倉造と申す。
この井桁状に木を積んだ作りは木の伸縮で湿度を調整してくれるとも言われておって、状態の良さに一役買っておるかもしれんな!
歴史も状態も優れておる正倉院であるが、所蔵量も他の追随を許さぬ。その数なんと約9000点。
正に日ノ本一の宝物庫であろう!
正倉院に収められし宝物
この正倉院、実はこれまでの「戦国がたり」で幾度か名前を出しておる。
信長様が切り取った天下の名香、蘭奢待もこの正倉院に納められておったし、囲碁の話をした折に、紫檀(したん)や象牙で作られた碁盤「木画紫檀棊局(もくがしたんのききょく)」が同じく正倉院にあるぞという話を致したわな。
ちなみに正倉院には象牙製の碁石、紺牙撥鏤碁子(こんげばちるのきし)や紅牙撥鏤碁子(こうげばちるのきし)も納められておるぞ。
正倉院に納められた宝物は、
仏具、楽器、書、文房具、遊戯具、武具、収納具、服飾、調度品など実に幅広い。
さらに、納められた宝物はシルクロードを経て日ノ本に持ち込まれたものが少なくない。
紫檀や黒檀、沈香など高品質の木材を用いた楽器や収納具、象牙や犀の角、鼈甲を用いた装飾、琥珀や瑠璃(ラピスラズリ)などの宝石に螺鈿や撥鏤、七宝といった高度な細工が施された品など、帝しか持つことがかなわぬ逸品がいくつもあるのじゃ。
中にはペルシア国から伝わったガラス製の椀・白瑠璃椀(はくるりわん)や、聖武天皇や光明皇后がお使いになったとも伝わる御床(現世で申すところのベッドじゃ)、山羊の毛を用いた花氈(カーペット)など、1000年以上前に日ノ本にあったのかと驚く品々もあるぞ!
紹介して参った通り、正倉院に納められしは日ノ本屈指の宝物である。
然りながら、国宝に指定されておる正倉そのものを除けば国宝や重要文化財に認定されておらんのじゃ!
何故かと申すと、重要文化財や国宝を扱う文化財保護法は、国の文化財を保護し散逸を防ぐために作られた法であって、皇室が有し、宮内庁が管理する御物(ぎょぶつ/ごもの)である正倉院の宝物は散逸の危険もなく、重要文化財に指定する必要がないのじゃ!
故に慣例的に国宝や重要文化財に指定されることもなくてな、いわば国宝級の宝物でありながら国宝ではないと言えるわけじゃな!
中々おもしろき話ではないか?
蘭奢待の香りが復元?
先にも少し触れたが、正倉院には信長様をはじめ天下人が切り取ったことでも知られる香木、蘭奢待がある。
正式名称は黄熟香、沈丁花科の香木で現世のラオスやベトナムあたりの山岳が産地と推察されておるようじゃ。
信長様の他に足利義満様や足利義教様、明治天皇が切り取ったとされ、正に天下人の名香と言えるわな。
明治天皇が切り取った折にはその香りを「古めきしずか」と称しておるのじゃが、なんと本年、蘭奢待の香りが再現されて皆も香りを“聞ける”のじゃ!
(香道においては香りは“嗅ぐ”ものではなく“聞く”ものじゃから、後学のために覚えておくと良い)。
『大阪歴史博物館』にて2025年8月まで展示されておったのじゃが、9月20日からは『上野の森美術館』にて展示されるそうじゃ!
天下人しか聞くことが叶わなかった香りを体験しにぜひとも足を運んでほしいのう!!
我が隊の信長様もこの展示を広めんがために「美術展ナビフェス2025」なる催しに出陣なされ450年ぶりに蘭奢待の香りを楽しまれたぞ!
終いに
此度の戦国がたりはいかがであったか!!
此度触れた正倉院の宝物たちは『奈良国立博物館』をはじめ各地の博物館などで特別展として展示されることがあるほか、正倉院のホームページで写真を見ることがかなう!
数が誠に多いがゆえに、写真を調べておるだけで何時間も時が過ぎることじゃろう。残暑厳しいこの時期にもってこいの楽しみ方やもしれんな!
して、現世では「正倉院宝物をもう一つ作ること」を目指して再現模造の取り組みが行われておって、先に申した『上野の森美術館』では再現模造された螺鈿紫檀五弦琵琶や螺鈿箱が見られるそうじゃ!!
他にも『奈良国立博物館』では2025年10月25日から正倉院展が執り行われるで、この秋は芸術の秋と洒落(しゃれ)込むのも一興であろう!
さて、此度の戦国がたりがこの辺りにいたそうか。
次の戦国がたりでまた会おうぞ!
さらばじゃ!
文・写真=前田利家(名古屋おもてなし武将隊)






