ありのままでいたい人間たちの巣窟へようこそ
宇宙人にナニやら施されてあられもない姿で叫び声を上げるレディたち。四方八方に妖艶な写真やら、意味深なキュウリの絵やら……バーに駆け込んだら、先客の美女がお尻丸出し!?
ご安心あれ、ここはロードサイドを巡る編集者・都築響一さんが出合った数々の作品が集うミュージアム。著名な作者の作品もチラホラ混じっているのだが、世間の評価や価値を気にせず先入観を取っ払って作品自体に向き合える。
見世物小屋の絵看板、ピンク映画のチラシ、キャバレーの踊り子のプロマイド、オリエント工業のラブドール、そして2000年に閉館した秘宝館「鳥羽SF未来館」の展示。大事なトコロは一応隠してあるけれど、コンプラ研修の講師が見たら鼻血を出してひっくり返りそうなハレンチなものもある。
「コレクションというよりはアーカイブ。別に奇を衒(てら)ったことはしてないんですよ」とは、館内のバー「茶と酒 わかめ」の女将・今田篤子さん。都築さんとは長い付き合いだが、はじめは女将を務めるつもりはなかったのだという。
「でも、形になればなるほどかっこよくって。ここがもたらす変化を見られなかったら、絶対に後悔すると思ったんです」
単なる下品とはちょっと違う意識低くてお気楽な空間
2022年10月のオープンから3年弱、国内のみならず世界中からやってくる人を『大道芸術館』で迎えてきた今田さんが痛感するのは「コンプライアンスやフェミニズムのことをちゃんと把握できていなかったかもしれない」ということだ。
「ここではフェミニストの方もすごく楽しんでくれるんです。本来は相手を傷つけないためのものなのに、勘違いした人が“コンプラ”を作ってしまっただけ。オープン当初はいつ炎上するかとヒヤヒヤしていたけど、日々自信が生まれていきました」
ここを訪れるのは、秘宝館やラブホテルに興味がある人や、リアルな日本の昭和を感じてみたい人。立地は物件との出合いがきっかけだそうだが、花街としての向島に興味がある人も少なくなさそうだ。女将や“学芸員”なるスタッフによる作品解説を聞いていると、性風俗の歴史や世界に誇る日本のエロ文化のおもしろさに夢中にならずにはいられない。
「作り込みすぎたものではなく、本物に触れたいと思う人が多いんだと思います。昭和時代がうらやましい、という声もよく聞くんですよ。現代社会では、誰もが自分をよく見せなければ、正しくなければ、と窮屈な思いをしているでしょ。ここに来たときくらいは下世話な話をしたり、エロいもので笑ったりしてほしい」
一見ディープな空間だけれど、それは知らない世界なんかではなく自分の奥底にあったもの。過激でもなければ尖っているわけでもない。忘れられようとしている歴史や隠さなければいけなくなった楽しさが、飾らない裸ん坊のままそこにあるだけなのだ。
大道芸術館 museum of roadside art
取材・文=中村こより 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2025年8月号より





