目黒駅から徒歩1分の場所にあるリゾート空間

店内は広々していてパーティーが開かれることも多いとか。
店内は広々していてパーティーが開かれることも多いとか。

駅とバス停、飲食店が入った雑居ビルなどが、いくつもの交差点でつながっている目黒駅前。どの時間帯も人通りが多く、慌ただしい雰囲気だ。今回訪ねた『BOSQUE』は、その駅前から1分も離れていない便利なオフィスビルの中にある。“BOSQUE”とはスペイン語で“森”を意味する言葉で、その名の通り、山手線の駅から近いビルの中とは思えないほどたくさんの緑が目に入る。

入り口にある「死者の日」の祭壇。メキシコの人にとって大切な飾り付けとのこと。
入り口にある「死者の日」の祭壇。メキシコの人にとって大切な飾り付けとのこと。

店内に足を踏み入れるとメキシコで最も重要とされるお祭り「死者の日」の祭壇が年中迎えてくれる。店内は広々していて、ベビーカーでも通りやすく、日中は子供連れの人たちもゆっくり楽しむ姿が見られる。

併設されたテラス席に出ると、目黒駅前にこんなにも緑に囲まれ、空も広く見える場所があるのかと驚くはずだ。

テラスにはテーブル席とソファ席がある。
テラスにはテーブル席とソファ席がある。

デザイナーとしての顔も持つオーナーの細川信一郎さんは、視界を遮る建物が少ないテラスを持つこの場所でメキシコ料理店を開くにあたり、カリブ海沿岸のリゾートをイメージ。経験豊富なメキシコ人シェフを登用して、昨今世界的に評価の高い現地のモダンメキシカンを取り入れた。キッチン以外にも外国人スタッフが多く、店内にいるだけで海外旅行をしているときの開放的な気持ちが蘇る。

本場の味に繊細さを加えたタコスが自慢

メキシコ人のシェフがタコスを繊細に盛り付け。
メキシコ人のシェフがタコスを繊細に盛り付け。

メキシコ料理としてすぐに思い浮かぶのがタコス。ハードシェルと呼ばれるトルティーヤを油で揚げたパリパリの皮にスパイシーな肉やチーズが入っているものは、実はアメリカでよく食べられるものだ。

『BOSQUE』のタコスは、本場のメキシカンをモダンにアレンジしている。ハードシェルではなく柔らかいソフトトルティーヤを使い、具材としてビーフ、チキン、ポーク、シュリンプが定番で用意され、その月のおすすめもある。それぞれを3つずつのセットや、3種類または4種類を1つずつ組み合わせたミックスタコスとしてランチで提供されている。

3種類のミックスタコス(ランチはスープかサラダ、ドリンク付き)は1980円。写真はシュリンプのタコスを加えた4種類で2090円。
3種類のミックスタコス(ランチはスープかサラダ、ドリンク付き)は1980円。写真はシュリンプのタコスを加えた4種類で2090円。

今回は、ミックスタコスをチョイス。ビーフ、チキン、シュリンプにおすすめのきのこのタコス(オンゴス)を加えてもらった。スペイン語が飛び交うオープンキッチンでタコスが調理されていく様子を見せてもらうと、その盛り付けは繊細。ファストフードだと思っていたタコスのイメージがガラリと変わってしまう。

左からビーフ、チキン、きのこ、シュリンプ。
左からビーフ、チキン、きのこ、シュリンプ。

4種類とも柔らかいソフトトルティーヤを使っているが、基本的に使うのは自家製のとうもろこし粉で作ったもの。例外として、エビなどの海鮮を使うタコスは小麦粉のトルティーヤの方が合うと、わざわざ使い分けている。

調理された具材をトルティーヤにのせたら、赤たまねぎやフレッシュなサルサソースを盛り付け。チポトレとアンチョという唐辛子、トマトなどを使ったレッドソースとライムを添えて提供される。

ビーフは肉そのものの味を生かした味付け。細かく割かれたチキンは少しスパイシー。衣をつけて揚げたシュリンプはプリッとした食感でソースとの相性抜群。今月のおすすめとして出されたきのこの具材も、深みのある味わいだ。

東京で花開く本格的なメキシコの食文化

ほんのりスパイシーなトルティーヤスープには野菜がたっぷり。
ほんのりスパイシーなトルティーヤスープには野菜がたっぷり。

ランチのセットにはスープかサラダと、ドリンクが付く。今回はトルティーヤスープを選んだところ、ほんのりスパイシーで、味わい深い。スープのトルティーヤは、最初はパリパリしているが、時間が経ってスープを吸ったあとの食感も楽しい。スープにダイス状のアボカドや、先ほども登場したアンチョという辛くない唐辛子をドライにしたものが入っている。メキシコでは、こんな風にアボカドや唐辛子、トルティーヤも食べるのかと興味深い。

メキシコで生産されている唐辛子は種類が豊富。『BOSQUE』でも30種類以上の唐辛子や香辛料を使い分けていて、その中には有名なハラペーニョやハバネロのような辛いものから、辛くないものまでいろいろある。オーナーの細川さんによると、現地の人は辛くない唐辛子を干し柿のように食べるそうだ。

そんな唐辛子に加え、アボカドやとうもろこしもメキシコ周辺が原産、トマトも南米が発祥地と考えられている。メキシコでは赤と緑、両方のトマトを料理に使っているなど、食文化が豊かな場所なのだ。

オーナー兼デザイナーの細川信一郎さん。飲食店を複数手掛けている。
オーナー兼デザイナーの細川信一郎さん。飲食店を複数手掛けている。

こうした本格的なメキシコ料理へのこだわりには理由がある。そもそも細川さんは1990年代前半に、当時東京にまだ少なかったメキシコ料理店を在日メキシコ大使館のサポートを受けてオープンした。

その『フォンダ・デ・ラ・マドゥルガーダ』は、アメリカナイズされたTEX MEX(テックスメックス)ではなく、伝統的なメキシコ料理を提供しながら原宿で30年以上営業している。『BOSQUE』はその姉妹店という位置付けで、現地のレストランで食べられるような本来の味が大切にされている。

店内奥のスペースは天井が高くなっていて、こちらも開放的。
店内奥のスペースは天井が高くなっていて、こちらも開放的。

カリブ海のリゾートをイメージした『BOSQUE』で、暑い季節にもぴったりの本格的なメキシコ料理を食べながら、ひとときのリゾート気分を楽しんでみてはいかが? メキシコ料理店らしく、テキーラやラム酒を使ったカクテルが用意されていることも付け加えておきたい。

取材・撮影・文=野崎さおり